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龍天に登るを見やる猫の欠伸
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りゅうてんに のぼるをみやる ねこのあくび
今回の季語は「龍天に登る」。中国の伝承から季語になった言葉だそうで、春分の日のことを表すそうです。
この季語の存在を知り、猫を題材にした句に使えないか、と考えているうちに形になったのが今回の句。今までと違い、季語から出発し、猫のどのような様子を対応させたら句が面白くなるか、という観点で作っています。
季語の勉強としては正しい手順なのかもしれませんが、意外にも、今までこの方法で作ったことがありませんでした。
こうした次第なので、推敲の過程も、猫の様子をいろいろ想像しながら進んでいくことになりました。その過程の中で猫の室内飼いとの向き合い方も変わってきたので、今回はそのことも一緒にお話しします。
まず、推敲過程でできたのが、次の形。
龍天に登る猫カーテンに登る
龍天に登る猫は天井まで
龍天に登る猫天井を見る
龍天に登る猫天井に寄る
龍天に登るを猫は窓に見たか
龍天に登る猫陽だまりに寝る
龍天に登るを猫ベランダに見る
龍天に登るを眺む猫の欠伸
龍天に登るを眺め猫あくび
龍天に登るを見やる猫の欠伸
龍天に登るを見やる猫あくび
最初に考えたのが、「龍天に登る」が8音なので、9音か字余り許容の10音で猫の様子を描けば破調の形で俳句にできる、ということでした。
その中でまず出てきたのが、10音の「猫カーテンに登る」。以前作った、「夕焼けやカーテン破いた猫の爪」と同じ出来事からの発想です。荘厳な龍は天に登るけれど、家猫が登るのはカーテン、という対比で対句にできるかなと考えました。「てん」の発音での韻も狙っています。
実は、これで一旦は満足しかけました。が、しばらくして疑問が沸いきます。
「龍天に登る」の「天」は龍が向かっていく先、対する「猫カーテンに登る」の「カーテン」は登るための足場です。つまり、助詞「に」の役割が違うため、厳密には対になっていません。
また、対案も挙げずに形を決めてしまって後悔しないのかとか、この形は捻りがなさすぎないか、という疑問も浮かんできました。
そこで考え出した対案が、2番目から4番目、「龍天に登る猫は天井まで」、「龍天に登る猫天井を見る」、「龍天に登る猫天井に寄る」の3つ。いずれも、「龍天に登る」で一度切れる破調の形です。「てん」の発音に拘り、部屋の中で猫が登りそうなものを探して出てきた形でした。
そして、ここまできて気付きました。いつの間にか室内飼いを前提にものを考えている、ということに。家の外に出られる猫ならば木や屋根にも登れるはずです。
こう考えた結果、自分はもしかしたら猫の自由を奪っているのでは、という感覚に陥ってしまいました。後で、気にすることでもないと判明することになるのですが。
ともあれ、5番目の「龍天に登るを猫は窓に見たか」は、自由を奪っているという感覚の中、自責も込めて詠んだものでした。大空に飛び立てる龍を見て羨んでいるのかもしれない、と。無論、だからと言って今さら外に出す訳にいかないというのも分かっていましたが。
が、そんなジレンマは、少し調べてみたら解決しました。
猫には自分の縄張りをパトロールする習性があるそうで、室内飼いの猫がよく窓の外を眺めているのは、どうやら、そのパトロールの一環なのだそうです。外から侵入して来るものがいないかどうか、見張っているのだとか。つまり、窓は閉まっていたほうが猫にとっては安心。
こうした理解は、もちろん、猫に直接聞いた訳ではないので、罪悪感を避けたいというフィルターがかかっている可能性は否定できません。が、普段の猫の行動を見ると、確かにこちらのパトロール説のほうが納得できるところはあります。
そこで、俳句のほうも、パトロール説を前提に作ることにしました。その中でできたのが、「龍天に登る猫陽だまりに寝る」から先の形。「寝る」や「欠伸」を使ったのは、天に向かって飛び去って行く龍は猫の縄張りを脅かす存在ではないということと、春を感じて眠くなっていることを含意しています。実際には龍は見えないはずなので後者の意味になりますが。
ちなみに、「日向ぼこ」も浮かんだのですが、冬の季語なので控えました。
そして、この辺りで気付きました。「龍天に」で一度区切るようにすれば、五・七・五の形もいけそうだ、と。中の句「登るを眺む」と「登るを見やる」が出てきたのはこの観点からです。ここは一瞥して興味を失ったように見える「見やる」を採用。
あとは下の句の問題で、「猫あくび」か「猫の欠伸」か。字余りを避けるか分かりやすさを取るか、という問題です。こちらは分かりやすさを優先しました。
こうして今の「龍天に登るを見やる猫の欠伸」という形ができたわけですが、天候レベルでは龍が登るほどの大事が起こっていても猫はいつも通りという句になってしまいました。猫はマイペースですね……
今回の季語は「龍天に登る」。中国の伝承から季語になった言葉だそうで、春分の日のことを表すそうです。
この季語の存在を知り、猫を題材にした句に使えないか、と考えているうちに形になったのが今回の句。今までと違い、季語から出発し、猫のどのような様子を対応させたら句が面白くなるか、という観点で作っています。
季語の勉強としては正しい手順なのかもしれませんが、意外にも、今までこの方法で作ったことがありませんでした。
こうした次第なので、推敲の過程も、猫の様子をいろいろ想像しながら進んでいくことになりました。その過程の中で猫の室内飼いとの向き合い方も変わってきたので、今回はそのことも一緒にお話しします。
まず、推敲過程でできたのが、次の形。
龍天に登る猫カーテンに登る
龍天に登る猫は天井まで
龍天に登る猫天井を見る
龍天に登る猫天井に寄る
龍天に登るを猫は窓に見たか
龍天に登る猫陽だまりに寝る
龍天に登るを猫ベランダに見る
龍天に登るを眺む猫の欠伸
龍天に登るを眺め猫あくび
龍天に登るを見やる猫の欠伸
龍天に登るを見やる猫あくび
最初に考えたのが、「龍天に登る」が8音なので、9音か字余り許容の10音で猫の様子を描けば破調の形で俳句にできる、ということでした。
その中でまず出てきたのが、10音の「猫カーテンに登る」。以前作った、「夕焼けやカーテン破いた猫の爪」と同じ出来事からの発想です。荘厳な龍は天に登るけれど、家猫が登るのはカーテン、という対比で対句にできるかなと考えました。「てん」の発音での韻も狙っています。
実は、これで一旦は満足しかけました。が、しばらくして疑問が沸いきます。
「龍天に登る」の「天」は龍が向かっていく先、対する「猫カーテンに登る」の「カーテン」は登るための足場です。つまり、助詞「に」の役割が違うため、厳密には対になっていません。
また、対案も挙げずに形を決めてしまって後悔しないのかとか、この形は捻りがなさすぎないか、という疑問も浮かんできました。
そこで考え出した対案が、2番目から4番目、「龍天に登る猫は天井まで」、「龍天に登る猫天井を見る」、「龍天に登る猫天井に寄る」の3つ。いずれも、「龍天に登る」で一度切れる破調の形です。「てん」の発音に拘り、部屋の中で猫が登りそうなものを探して出てきた形でした。
そして、ここまできて気付きました。いつの間にか室内飼いを前提にものを考えている、ということに。家の外に出られる猫ならば木や屋根にも登れるはずです。
こう考えた結果、自分はもしかしたら猫の自由を奪っているのでは、という感覚に陥ってしまいました。後で、気にすることでもないと判明することになるのですが。
ともあれ、5番目の「龍天に登るを猫は窓に見たか」は、自由を奪っているという感覚の中、自責も込めて詠んだものでした。大空に飛び立てる龍を見て羨んでいるのかもしれない、と。無論、だからと言って今さら外に出す訳にいかないというのも分かっていましたが。
が、そんなジレンマは、少し調べてみたら解決しました。
猫には自分の縄張りをパトロールする習性があるそうで、室内飼いの猫がよく窓の外を眺めているのは、どうやら、そのパトロールの一環なのだそうです。外から侵入して来るものがいないかどうか、見張っているのだとか。つまり、窓は閉まっていたほうが猫にとっては安心。
こうした理解は、もちろん、猫に直接聞いた訳ではないので、罪悪感を避けたいというフィルターがかかっている可能性は否定できません。が、普段の猫の行動を見ると、確かにこちらのパトロール説のほうが納得できるところはあります。
そこで、俳句のほうも、パトロール説を前提に作ることにしました。その中でできたのが、「龍天に登る猫陽だまりに寝る」から先の形。「寝る」や「欠伸」を使ったのは、天に向かって飛び去って行く龍は猫の縄張りを脅かす存在ではないということと、春を感じて眠くなっていることを含意しています。実際には龍は見えないはずなので後者の意味になりますが。
ちなみに、「日向ぼこ」も浮かんだのですが、冬の季語なので控えました。
そして、この辺りで気付きました。「龍天に」で一度区切るようにすれば、五・七・五の形もいけそうだ、と。中の句「登るを眺む」と「登るを見やる」が出てきたのはこの観点からです。ここは一瞥して興味を失ったように見える「見やる」を採用。
あとは下の句の問題で、「猫あくび」か「猫の欠伸」か。字余りを避けるか分かりやすさを取るか、という問題です。こちらは分かりやすさを優先しました。
こうして今の「龍天に登るを見やる猫の欠伸」という形ができたわけですが、天候レベルでは龍が登るほどの大事が起こっていても猫はいつも通りという句になってしまいました。猫はマイペースですね……
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