高レベルパーティの奴隷にされた僕

かわうそ

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第五話 闇に溶けて1

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 木霊がゆっくりと掻き消えて、闇に静寂が訪れた。立っているのは、マリスと黒い剣士だけ。気不味く見つめ合う。
「じょ、冗談、ですよね?」
 マリスは作り笑顔--頬が引きつってしまっていたが--で、剣士に問いかけた。そうに決まっている。どこの世界に奴隷にするために、命を助けてくれる冒険者がいるのだ。きっと冗談好きの人なのだろう。
(大笑いしたほうがいいかな? せっかく笑わそうとしてくれてるんだもんね。うんうん、きっと落ち込んでる僕を励まそうとしてくれてるんだ。うん、そうだよ、きっとそう!)
 ははは、と笑い出そうとした瞬間、
「俺は、冗談が嫌いでね」
 混じりっけなしの本気の声音で、剣士が答えた。
「え……」
 絶句する。
(ちょっと、待って、待ってよ。この人、本気で僕を奴隷にしようとしてる!?)
 混乱してきた為、脳内で状況を整理する。マリスは山賊達に奴隷として売られるところだったが、目の前の剣士に助けられた。しかし、彼はマリスを自分の奴隷にしようとしている。
(なんだよ、それ! 状況は、なにも変わってないじゃないか!)
 いや、むしろ悪化しているのではないだろうか。あの山賊達からなら、また逃げ出すチャンスもあったかもしれないが、ストーンゴーレムを文字通り赤子の手をひねるように粉砕した超人から逃げ出すことは、控えめに言って不可能に思える。
 神を呪いたくなった。救いを与えるつもりがないのなら、なぜひと思いに召してくれないのか。
(いやいやいや、待て待て待て、ここで諦めちゃうから、僕はダメなんだ。諦めるな! 冷静に、落ち着いて、最善を--)
(まだくたくたの体で、あの化けもんみてーな男から逃げ切れると思ってんのかよ)
(ちょっと、黙っててよ!)
 しゃしゃり出てきたネガティブ思考を、意識の外に追いやる。
「あの、お前は? 僕は、マリスと言います」
 剣士に訪ねながら、一歩後ずさる。
「マリス、ね。俺は、ドルツだ」
「ドルツさん、ですか。その、凄く強いんですね」
 また一歩、後ろに下がる。
「まあな。敵わねえと思うやつには、まだ会ったことがねえよ」
「黒翼の虎……でしたっけ? 不勉強ですみません。存じないのですが、さぞご高名なんでしょうね?」
 もう一歩、後退する。
「そう呼ぶやつもいるが、俺は気に入らねえ。忘れていいぜ」
「そうですか? とても格好いいと思いますけど」
 さらに一歩、下がろうとしたところで、
「おまえ、逃げようとしてんのか?」
 心臓が跳ね上がった。
「い、いえ、そんなこと、ないですよ……」
 ふるふると、首を左右に振って誤魔化そうとしてみる。が、
「鎖か縄を付けられたいなら、そう言え」
 効果はなかった。ドルツの大股の一歩で、マリスがそれまで離れた距離以上を詰められてしまう。
 しかし、もとより走って逃げられるなどとは、マリスも思ってはいなかった。
(よし、できた!)
 杖の補助なしで魔術の構成を作るのには時間がかかる。その為の訓練を重ねた者や、マスタークラスの巧者ならともかく、未熟なマリスでは尚更である。だから時間を稼ぎたかったのだ。
「眠りよ!」
 両手を突き出すと、ドルツの顔周辺に薄桃色の靄がかかった。
「んっ?」
 こちらに歩んで来ていたドルツの動きが止まり、膝から崩れ落ちて倒れた。眠りに落ちたのだ。
「やったー!」
 喜びで、飛び跳ねてしまう。正直、発動するかどうかは五分五分だと思っていた。
「なんだよ~やればできるじゃん、僕! やっぱり諦めなければ、未来は切り開けるんだよ!」
 努力と挑戦で、遥か高い山を乗り越えた瞬間。なんと甘美なことだろう。生きていて良かった。生き残れて良かった。
「そいつは、おめでとう」
 むくりと、ドルツが起き上がった。
「へ?」
 マリスは歓喜の踊りを停止して、真顔でドルツを見た。昏睡の魔術にかかったなら、こんなにもすぐに覚醒するはずがない。
(最初から……かかってなんかいなかった……?)
「そこらの筋肉バカだったら、上手くいっただろさ。俺は、その程度の魔術ならレジストできるがな」
 簡単に言っているが、それはドルツの精神力が破格であるということで、もはやマリスにはなんの抵抗手段も残されていなかった。
「はっ、はは、ははは……」
 気張っていた力が抜けて、マリスは座り込んだ。もう、笑うしかない。
「杖なしで魔術とはな、なかなかやるじゃねえか。まっ、それはそれとして、主従関係ってやつをきっちり教えてやらねえとな」
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