みなもの鏡界

東樹

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第二話

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 水の中は進めない二十五メートルなんて簡単に走り抜け、あっと言う間に百メートルを走りきった。 
「すごいチリちゃん、自己記録更新したよ!」
「本当に!?」
 同級生女子陸上部のツバサちゃんが、タイマーを持ってニコニコ笑いながらやってくる。
「去年は県大会までしか行けなかったもんね!今年はもっといけるんじゃない!?」
「あっ!」
 記録が表示されたタイマーより先に違うものが目に止まった。
「チリちゃん、どうしたの?」
 ツバサちゃんはタイマーを持ったまま、不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。
「ごめん、ちょっと待ってて!」
 部活動をしている他の生徒の邪魔にならないように気をつけながら、グラウンドと駐輪場を隔てるフェンスにもたれ掛かっているシオネの前にやって来た。
「どうしたのシオネ?こんな所で運動部の見学?そうだ!シオネも部活とかやってみたらどう!?」
「興味がないわ」
「泳ぐの得意だよね。水泳部とかむいてるんじゃない?」
「得意と言っても人並み程度よ。それよりチリに話があるの」
「どうしたの?」
「このままでいいの?」
 風が肩のところで切り揃えられた、シオネの髪を優しく撫でる。
「何が?」
「泳げないままでも」
「私、水は駄目だけど………」
「誰よりも早い脚があるから大丈夫って言うんでしょう!あのね、泳げる泳げないとか、そういう問題じゃない!」
「シオネ、わかってるよ。過去に囚われちゃいけないって」
 私の言葉に嘘偽りはない。
 トラウマを自分の力で乗り越えなくちゃいけないって……だけどそれを克服するには、違う自分へ向かって一歩を踏み出す勇気と、痛みに耐える覚悟が必要だ。
 私はその二つの要素を持っていない。
「チリ………」
 そっとシオネは私の手を取る。
「別に一人でなんとかしろって言ってるんじゃない。一緒に特訓しましょう」
「と、特訓!?な、何をするのかな?」
「夜のプールに忍び込むのよ」
「それって校則違反通り越して違法行為なんじゃ………」
「あの、チリちゃん」
 振り返るとタイマーを持ったツバサちゃんがいた。
「ごめん、シオネ。部活戻るね」
「今夜、迎えにいくから」
「う、うん」
 曖昧な返答をして部活に戻る。
「チリちゃん、誰と話してたの?」
「小学校からの友達。シオネっていうの」
「………ふーん」
 バットにボールが当たった小気味いい音が耳に届く。
 見上げると朱色に染まりつつある夕暮れの空に向かって、ボールが昇っている最中だった。
「仲良いんだね」
「うん!」
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