2 / 6
第二話
しおりを挟む
水の中は進めない二十五メートルなんて簡単に走り抜け、あっと言う間に百メートルを走りきった。
「すごいチリちゃん、自己記録更新したよ!」
「本当に!?」
同級生女子陸上部のツバサちゃんが、タイマーを持ってニコニコ笑いながらやってくる。
「去年は県大会までしか行けなかったもんね!今年はもっといけるんじゃない!?」
「あっ!」
記録が表示されたタイマーより先に違うものが目に止まった。
「チリちゃん、どうしたの?」
ツバサちゃんはタイマーを持ったまま、不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。
「ごめん、ちょっと待ってて!」
部活動をしている他の生徒の邪魔にならないように気をつけながら、グラウンドと駐輪場を隔てるフェンスにもたれ掛かっているシオネの前にやって来た。
「どうしたのシオネ?こんな所で運動部の見学?そうだ!シオネも部活とかやってみたらどう!?」
「興味がないわ」
「泳ぐの得意だよね。水泳部とかむいてるんじゃない?」
「得意と言っても人並み程度よ。それよりチリに話があるの」
「どうしたの?」
「このままでいいの?」
風が肩のところで切り揃えられた、シオネの髪を優しく撫でる。
「何が?」
「泳げないままでも」
「私、水は駄目だけど………」
「誰よりも早い脚があるから大丈夫って言うんでしょう!あのね、泳げる泳げないとか、そういう問題じゃない!」
「シオネ、わかってるよ。過去に囚われちゃいけないって」
私の言葉に嘘偽りはない。
トラウマを自分の力で乗り越えなくちゃいけないって……だけどそれを克服するには、違う自分へ向かって一歩を踏み出す勇気と、痛みに耐える覚悟が必要だ。
私はその二つの要素を持っていない。
「チリ………」
そっとシオネは私の手を取る。
「別に一人でなんとかしろって言ってるんじゃない。一緒に特訓しましょう」
「と、特訓!?な、何をするのかな?」
「夜のプールに忍び込むのよ」
「それって校則違反通り越して違法行為なんじゃ………」
「あの、チリちゃん」
振り返るとタイマーを持ったツバサちゃんがいた。
「ごめん、シオネ。部活戻るね」
「今夜、迎えにいくから」
「う、うん」
曖昧な返答をして部活に戻る。
「チリちゃん、誰と話してたの?」
「小学校からの友達。シオネっていうの」
「………ふーん」
バットにボールが当たった小気味いい音が耳に届く。
見上げると朱色に染まりつつある夕暮れの空に向かって、ボールが昇っている最中だった。
「仲良いんだね」
「うん!」
「すごいチリちゃん、自己記録更新したよ!」
「本当に!?」
同級生女子陸上部のツバサちゃんが、タイマーを持ってニコニコ笑いながらやってくる。
「去年は県大会までしか行けなかったもんね!今年はもっといけるんじゃない!?」
「あっ!」
記録が表示されたタイマーより先に違うものが目に止まった。
「チリちゃん、どうしたの?」
ツバサちゃんはタイマーを持ったまま、不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。
「ごめん、ちょっと待ってて!」
部活動をしている他の生徒の邪魔にならないように気をつけながら、グラウンドと駐輪場を隔てるフェンスにもたれ掛かっているシオネの前にやって来た。
「どうしたのシオネ?こんな所で運動部の見学?そうだ!シオネも部活とかやってみたらどう!?」
「興味がないわ」
「泳ぐの得意だよね。水泳部とかむいてるんじゃない?」
「得意と言っても人並み程度よ。それよりチリに話があるの」
「どうしたの?」
「このままでいいの?」
風が肩のところで切り揃えられた、シオネの髪を優しく撫でる。
「何が?」
「泳げないままでも」
「私、水は駄目だけど………」
「誰よりも早い脚があるから大丈夫って言うんでしょう!あのね、泳げる泳げないとか、そういう問題じゃない!」
「シオネ、わかってるよ。過去に囚われちゃいけないって」
私の言葉に嘘偽りはない。
トラウマを自分の力で乗り越えなくちゃいけないって……だけどそれを克服するには、違う自分へ向かって一歩を踏み出す勇気と、痛みに耐える覚悟が必要だ。
私はその二つの要素を持っていない。
「チリ………」
そっとシオネは私の手を取る。
「別に一人でなんとかしろって言ってるんじゃない。一緒に特訓しましょう」
「と、特訓!?な、何をするのかな?」
「夜のプールに忍び込むのよ」
「それって校則違反通り越して違法行為なんじゃ………」
「あの、チリちゃん」
振り返るとタイマーを持ったツバサちゃんがいた。
「ごめん、シオネ。部活戻るね」
「今夜、迎えにいくから」
「う、うん」
曖昧な返答をして部活に戻る。
「チリちゃん、誰と話してたの?」
「小学校からの友達。シオネっていうの」
「………ふーん」
バットにボールが当たった小気味いい音が耳に届く。
見上げると朱色に染まりつつある夕暮れの空に向かって、ボールが昇っている最中だった。
「仲良いんだね」
「うん!」
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる