誰か兄たちの暴走を止めてください

灰猫あさ

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第1章

前世の記憶

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ロベルトのおかげでやっと静かになった部屋で、自分に起きたことを振り返ってみる。

少し前まで私は兄2人と庭で散歩中をしていた。そして、その途中で綺麗な蝶を見付け、追いかけていたら何かに躓いて盛大に転んでしまった。
蝶に気を取られ過ぎて受け身が取れず頭を強打した、その時。
急に今の自分のものではない記憶が頭の中で次から次へと溢れだしてきたのだ。
それが自分の前世の記憶だと理解した瞬間、あまりに多くの情報が一気に流れ込んで来たことに脳が悲鳴を上げたのか意識がブラックアウトし…、目覚めたらあの惨状だった…という訳だ。

「大人の男3人が幼女に縋り付きながら大泣きしてるとか、悪夢のような光景だったわ…。」

いや、本当にタチの悪い夢かと思って寝直そうか悩んだよ。真面目に。
残念ながら現実だった訳だけれど。
髭面にスリスリされたせいで頬がちょっとヒリヒリするし。お父様め。
父たちにブツブツ文句を言いながら先程までのことを振り返った私は、頭を打ったことで唐突に戻った前世の記憶についてへと考えを移す。

前世の私は、日本人だった。今の私と違って、母子家庭に生まれてあまり裕福ではなかった為に、高校の卒業とともに働くことを選んだのだがその就職先がだいぶブラックな企業だった。
寝食削って会社に尽くし働いた結果、私は過労で倒れてそのまま呆気なく人生を終えることとなるのだ。

そんな社畜だった前世の私がまだ生きていた頃に、唯一の癒しとなっていたのがスマホで簡単に出来る女性向けの恋愛シュミレーションゲーム、所謂乙女ゲームであった。
その中でも特にハマっていたのが、「君は僕だけの花」というタイトルのゲームだった。
登場人物の名前が全員植物に関係する名前になっており、ヒロインもデフォルトの名前はミモザという花の名前である。ちなみにミモザの花言葉は「秘密の恋」だそうだ。

このゲームは「君花(キミハナ)」という略称で呼ばれ、原画を担当していたのが人気の絵師さんだったことや主要キャラには一部ボイスがありその声優陣が豪華だったこと、そして無料でも“ある程度”は遊べることなどの理由により爆発的にヒットした。

キャラクターデザインが好みだったので軽い気持ちでダウンロードした結果、母への仕送りの分を除いた給料の大半をこのゲームに注ぎ込む程にどハマりしてしまった。社畜で仕事中心の生活を送っていたので、他に給料の使いどころが無かったというのもあるのだが。

で、何がどうなったのか前世でどハマりしていたその「君花」の世界に私は転生したらしい。
…自分がプレイしてた乙女ゲームの世界に転生とか前世でよく見た設定だな。まさか自分の身に起こるとは思ってなかったが。
これで転生したのが悪役令嬢だったら本当にテンプレ通りだったんだけど…。それに関しては微妙なところだ。

…フランツェ王国、ヘルリッヒ公爵家令嬢アマリリス。
2人の兄たちが生まれてから間が開いて生まれてきた、ヘルリッヒ家長女にして末っ子である。
婚約者はこのゲームの攻略対象であり、この国の王太子であるブローディア・フランツェ。
ブローディアの7歳の誕生日を祝うお茶会で出会い、アマリリスは彼に一目惚れしてしまう。
そのことを家族に話した結果、娘を溺愛している父が国王にゴリ押しして婚約を成立させてしまうのだ。

父親であるヘルリッヒ公爵は、自分が歳いってから生まれたアマリリスにデレデレであり、たいそう可愛がっていた。
父親だけではなく2人の兄たちも年の離れた妹を溺愛しており、アマリリスは蝶よ花よと育てられた。
こうして過保護な父や兄たちに甘やかされて育ったアマリリスは立派なワガママ悪役令嬢に育ちそうなものだが、意外にもそうはならなかった。

逆に、ゲームのアマリリスは自己主張が苦手だった。だってアマリリスの望みは口に出さずとも父や兄たちが全部叶えてくれたから。
そしてゲームのアマリリスには、目の前に立ちはだかる壁に自分で立ち向かう強さも、ライバルを蹴落としてでものし上がりたいという勝気さも無かった。
だってアマリリスの障害になり得るものは、先回りして父や兄たちが退けてきたから。

父や兄たちの過剰な愛情こそがアマリリスの精神的な面での成長の妨げになっていたのである。全く迷惑な話だ。
ゲームのアマリリス超可哀想。
そしてそんなキャラに転生させられた私はもっと可哀想。辛い。

…コホン。話を戻しましょう。
アマリリスが悪役令嬢でないのなら王太子ブローディアのルートでの悪役はだれなのか。
まぁもう皆さん予想はついてると思います。
そう、アマリリスを溺愛する2人の兄ですよ。
ヒロインをあの手この手で陥れようとした結果、ヒロインがハッピーエンドを迎えると兄たちは投獄され、ノーマルエンドorバッドエンドの場合は兄たちは島流しの刑を受ける。
そしてどのエンドになっても、王太子との婚約を破棄されたアマリリスは商人の家に後妻として嫁がされ、ヘルリッヒ公爵家は爵位を取り上げられて没落する。

ちなみに父親が悪役に名を連ねてないのは、アマリリスが居ながらヒロインにうつつを抜かす王太子に憤ってはいるのですが、兄たちに多少協力する程度しかしないので悪役として目立たないんですよね…。
なので、ヒロインと王太子を陥れようとした首謀者として裁かれるのも2人の兄だけ。
まぁ最終的に責任を取って爵位を返上することになるので、父親も無傷という訳では無いのだが。

これで、最初の辺りでアマリリスが悪役令嬢と言うには微妙と言ったことには納得していただけただろうか。
兄たちを直接的な悪役というなら、兄たちが悪役になる原因のアマリリスは間接的な悪役令嬢とでも言ったところだろうか…。
自分の立ち位置を改めて理解してげんなりする。

前世の自分からしたらここはゲームの世界だけど、転生しアマリリスとして5年も生きてきた私にとっては紛れもなく今の自分が生きている現実の世界。
そしてこの世界での母も父も2人の兄も、今の私…アマリリスにとっては大切で大好きな家族なのだ。
だからこそ、自分の為に兄たちに悪役になんてなって欲しくない。兄たちが断罪されるのも、我がヘルリッヒ公爵家が没落するのもごめんだ。

仕方ない。兄たちが悪役にならないように、私がフラグを折って折って折りまくってやろうじゃないか!
…それと、甘やかされ過ぎて一人では何も出来ない令嬢になるのはごめんなので、そちらも回避したい。切実に。

転生令嬢アマリリスの奮闘記が今静かに幕を開けたのだったー…。
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