やらかし夫夫(ふうふ)、番(つがい)になる

スメラギ

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やらかしたオメガのお話し…

02

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 僕は必要最低限な物をトランクに詰めた。リビングへと戻ると…、失禁して座り込んでいる両親が視界に入る…。
 その情けない姿に呆気にとられる…。

 「来たか…忘れ物はないな?」
 「はい。ありません。」

 そう言うと、強面だが…整った顔をした男は僕の手からトランクを取り上げて僕をサングラス越しにチラリと見てくる。

 どうやら、ついて来いという事らしい…。

 僕はチラリと両親を見るが…、僕と目が合う事はなかった…。

 男は僕を車の後部座席に座るように促し、僕もそれに従う。男は僕に奥へ移動するように言った。そして、僕の隣に乗り込んだ。

 運転席に座っていた男に声をかける…。先程、僕に荷物を纏めるように言いつけた男だという事だけは理解した。

 「『性格を矯正する』という名目でとある・・・場所で住み込みで労働してもらう。」

 車が発進して暫く経った頃…、男は突如そう言った。

 「労働…ですか?」
 「あぁ…そうだ。身の安全と衣食住の保証はしてやれる。それだけは言ってやれるがー…詳しい仕事内容は義輝よしきに聞け。」

 そう言うと男は黙った。目的地につくまで沈黙が流れた…。



 目的地と思しき場所へ到着すると、隣に座っていた男は車を降りた…、その際に「少し待っていろ」と言われたので、大人しく座って待っている。

 待機していた男に近づき何やら会話をしている。勿論だが、会話の内容は分からない…。暫く話していたかと思うと、車から降りた男は僕のトランクを会話の相手へ手渡す。そして相手が頷いたのを確認してから車へ戻ってきた。

 車の扉を開き「出ろ」たった一言、抑揚のない声音でそう言った。僕はそれに従い素直に降りる。
 チラリと僕を見ると、ついて来いと言わんばかりに歩き出した。その男の後ろを小走りでついて行く。

 高いコンクリートのような外壁で囲われた白塗りの立派な建物の中へと足を踏み入れる…。

 途中で歩幅の違いに気がついたのか…歩くスピードを緩めたのは男の優しさなのかもしれない…。

 迷いなく歩く男の後をついて行くと、建物の中へと入りここに辿り着くまでに見た、どの扉よりも立派な扉の前で立ち止まった。
 僕はここにこの男を従える者ー…義輝よしきという者が居るのだと直感する。

 「泰虎やすとらだ。連れてきた。」

 という男の言葉に、僕は初めてここへと連れてきた男の名前を知る事になった。

 「あぁ…来たね。入って良いよ」

 その返事を聞いた泰虎やすとらという男は扉を開くと僕を先に通した。
 部屋の中にはこれまでに見た事のないような息を呑むほど顔立ちの整った男が一人いた。
 言わずもがな『義輝よしき』という者である…。

 僕と目が合うと口元を歪めて口を開いた。

 「君がー…『雪斗ゆきと』?」
 「はい。」
 「ふ~ん。何か崇陽たかあきから聞いてたのと違うなぁ…」

 という言葉を聞いて、あの時の・・・・恐怖を思い出し、勝手に身体が震える。
 それに気づいたのか、義輝よしきという男は面白そうに目を細めた。

 その表情に今度はあの時の・・・・恐怖とは違う得体の知れないナニかを感じ取り、冷や汗が背中を伝う…。

 「凄~くトラウマを植え付けられちゃってるみたいだねぇ…。まぁ、反抗的だったら調教しないとー…なんて考えていたんだけどねぇ…。手間が省けて良かったよ。」

 男から発せられた不穏な言葉にサッと血の気が引いた。

 「ふふ、そんなに恐がらなくても大丈夫だよ~。今の君なら『性格を矯正』する必要はなさそうなんだけど…契約、だからねぇ。」
 「それで…僕は…何をさせられるのでしょうか?」
 「あーうん。仕事内容は決まってるんだ。泰虎やすとらから聞いてると思うけど…君は今日から住み込みでここで働いてもらう事になるんだ~。部屋は後で案内させるからね。君に一人、監視役を付ける事になるんだけどー…、あんまり深く考えなくて良いよ。」

 という言葉に首を傾げる。義輝よしきという男はそんな僕に構わず言葉を続けた。

 「監視役と言っても、君の身の安全を護ってくれる『おに』だからね~。万がーが起きないように念の為にボディガードを付けておくだけだから。」

 その言葉に身体が硬直した。今、この男は『おに』と言った。『おに』が契約以外で従うのは自分の上司に位置する『おに』だけ…、つまり、この男も『おに』という他ならない。

 
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