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やらかし夫夫(ふうふ)、番(つがい)になる
04ー雪斗Sideー
しおりを挟む大志は優しく僕へと触れてきた。そんな触られ方をされた事がない僕は不意に泣きそうになってしまった。
そんな様子を敏感に感じ取ったのか…大志は手を止めてソッと僕の頬を大きく優しい手で包んだ。
その瞳は欲情の色を揺らめかせながらも心配そうに見つめてくる。発情促進剤を打たれた…強制的にとはいえ、僕は今、発情している。
そんなオメガのフェロモンにあてられているんだ…発情を起こしていないはずがない…。
アルファの中には強引に行為を行い、最後までシてしまう者もいる。『上層』に位置するアルファならば、そんな愚かな行為をして自身の品位を下げるような事をする者は殆ど居ない。
最悪、ヤッたとしてもオメガのせいにできる…。全ての責任をオメガへ転嫁できる。
とくに大志はあの崇陽様に許可を得ており…誰にも止められないし、責められない…。
寧ろムリヤリにでも僕とヤらなくてはならない立場にある。
にも関わらず、手を止めて僕を心配してくれている。
「怖いか?」
そう言って優しく頬を撫でてくれた。僕は大志を見つめて首を横へ振った。
けれど、大志は訝しげな顔を僕に向けた。
「泣きそうになってる」
なんて言いながら僕の頭を撫でる。その手はやはり優しかった。叩かれたり、罵られたりした事はあったが…こんなふうに触れてくる人は今まで誰も居なかった…。
家族ー…と呼べるのかも疑問符が浮かぶあの人たちにすら優しい言葉は勿論、撫でてくれるなんてありえなかった。
使用人たちからの仕打ちすら見て見ぬ振りをする人たちだった。寧ろ、ソレを見て下卑た笑みを浮かべるだけだった。
それなりに格式高い家系だった事もあり、媚びてくる…取り入ろうとしてくる腰巾着のようなオメガは沢山集まってきた。
けれど…それだけだ。甘い蜜を吸えないと分かると分かりやすいほど直ぐに離れて行った。
本当の友だちなんて居なかった…。
「こわくない…でも…」
「でも?」
アルファだから先ずオメガに媚びる必要はないが…というか、媚びる必要がないと思っているアルファが殆どだろう…。
オメガはオメガで強いアルファに惹かれる…。まぁ、『運命』に出会ってしまったならまた別の話になってくるんだろうけど…。
ベータはアルファに従順な者の方が多い。自分が従っているアルファが強く且つ業績などが上位であり、出世に内通していればしているほど待遇もよくなり、自分にプラスとなる…。その事が本能的に分かっているからだ…。
故に社会的にも弱いオメガに媚びる必要はないし、寧ろ時間の無駄であり、損であるという見方の方が強い傾向にある。
そんな中でも大志は…大志だけは僕が今まで見てきたどの者とも違った。
僕の言葉に耳を傾けてくれる。優しい瞳を向けて僕の言葉の続きを優しく促してくれる…。
今までにないくらいに満たされている自分が居る…。罰を受けているはずの僕が幸せを感じてしまっている…。それで良いのかと少し怖くなった…。
「こんなふうに優しく撫でてくれたのは…触れて言葉をかけてくれたのは大志だけだったから…」
そう言って今、最大限に浮かべられる笑みを浮かべた…。そんな僕を見て微かに目を見開くと、優しくではあるものの、ギュッと痛くない程度にしっかりと抱きしめてくれた。
「大切にする。絶対に…必ず、幸せにしてみせるから」
その言葉を聞いて、既に泣きそうになっていた僕の瞳から涙が流れた。
「罰を受けているはずなのにー…幸せになっても良いのかな…」
「大丈夫だと思う。崇陽様にとって重要なのは俺と雪斗が番う事…。それ以外は気にしていないと思うし…気にも止めない瑣末事だろう。」
そう言って不安そうに見つめている僕の前髪を優しく掻き上げると、唇が触れそうな距離まで顔を近づけてきた。
その至近距離にドキドキと鼓動が高鳴り、高揚する気持ちを抑えられずに『キスをするのかな』なんて思いながら大志の動きを見ていると、不意に動きを止めてそのままの距離から僕を見つめているのが分かる。
「キスをしても良いか?」
なんて律儀にも聞いてくる大志にまたもや胸がときめいた…。
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