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エピソード.1 funny
1-10 二人のため?
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蕪木が椅子に座った後、土居原先生は自分たちが少しでも話やすくなるために。と考えてくれたのだろう、三人分のコーヒーを淹れてくれた。自分はそのコーヒーに角砂糖一つとミルクを入れたのに対し、蕪木は何も入れずに飲みだした。
どこまでも相容れなさそうな自分たち。正直、不安が募るばかりだ。
しかし、ここまで来て逃げるわけにはいかない。
自分はコーヒーを一気に飲み干すと説明を始めた。
「前に過去が変わるわけじゃないと言ったけれど、それは正確な言葉じゃない。過去は変わるんだ。ただ伝えられなかった言葉を、想いを伝えることができるだけなんだが」
「? どういうことかしら? 要領を得られないのだけれど」
「そうだな。その例えば告白をしようとしてできなかった人がいたとすれば、その時の想いを過去へ飛ばすことで告白をしたことにできる。伝えられなかったアイラブユーの言葉を伝えたことにな。だけど、その相手とは付き合うことはできず、現在に至るまでの関係性に一切の変化は起きないんだ」
「つまりはその人たちの間における人間関係は変わらないってこと?」
「まあ、そうなるな」
「……それなら意味はないわね」
「っ! 意味はあるんだよ」
机を叩き立ち上がって抗議する自分に対し、少し重心を後ろに引いた蕪木。だが、すぐにこちらに睨み返してきたところで、土居原先生の仲裁が入った。
頭に昇った血が引き冷静さを取り戻した自分は、椅子に座りなおす。蕪木もどこか気まずいのかコーヒーを口にした。
「心が、救われるんだ。ずっと後悔し続けて傷ついてきた心が、救われるんだよ。例えその人との関係性が変わらなくてもな。おれはそんな人たちを何人も見てきたんだ」
「……あなたの表情を見ればそうなのかもしれないわね。ただ前にも言ったけれど、例えあなたの言っていることが本当だったとしても、証明するものがないのでしょう?」
「それは……」
蕪木の言葉に、自分は口を噤む。
自分にこの仕事を薦めた万次郎を始め、これまで過去に想いを届けた人たちに証言は頼めるかもしれない。しかし、証言だけで蕪木が納得してくれないだろう。
目線を伏せ、頭を掻く自分。そんな自分を見てここまで口を閉ざしていた土居原先生が蕪木に質問をぶつけた。
「蕪木さんはもし本多さんが言っていることが本当で、過去へ想いを伝えられるのだとしたら、伝えたいですか」
「それは……否定はしません。ですが、何も証明がないので」
「こうやって何度も話そうとしてくれているだけでも、充分に証明になっていると私は思いますが」
「…………」
「あらあら、意地悪なことを言ってしまいましたね」
「……いえ」
と一応の否定こそしているが明らかに蕪木は拗ねているのだろう、土居原先生の視線をあからさまに避けている。そんな蕪木が可愛らしかったのか土居原先生は口に手を当てて上品に微笑むと、思わぬことを口にした。
「そうですね。どうしても証明してほしいということでしたら、私が過去に想いを届けてみるというのはいかがですか?」
「「え?」」
笑顔でぽん。と手を叩きまるで名案を出したかのように言った土居原先生に、自分と蕪木は同時に驚いた。
「私が実際に飛ばしてみて、成功したら蕪木さんが飛ばしたら良いのです」
「え。いや、確かに証明にはなるかもしれませんが、そんな簡単に決めて良いことじゃないですよ」
「そうです。何より先生がこんな奴の口車に乗せられる必要はないです」
と見事に言い切った蕪木さん。
こんな奴。というのは引っかかるが、土居原先生が試すような真似をする必要がないのは確かだ。自分は改めて先生に視線を向け撤回するように言うのだけれど、先生は首を横に振った。
「良いんですよ。だって、私自身が本多さんの口車に乗りたいと思っているのですから」
「? どういうことですか?」
どうにも理解が追いつかず眉をひそめながら尋ねる自分に、土居原先生は重ねた年月が引き出す柔らかい微笑みを浮かべながら答えた。
「だって、素敵じゃないですか。伝えられなかった思いを伝えられて、後悔から心を救い出してくれるなんて」
「それは……そうかもしれませんが、失敗する可能性も」
「構いません」
「え?」
「私は例え実験が失敗だとしても、構いませんよ。私はお二人より後悔する時間が短いですからね」
「っ」
土居原先生の思わぬ言葉に、自分も蕪木も言葉が詰まる。
後悔する時間が短いって言っても、その苦しみは変わったりはしない。むしろ、これまでの時間を考えれば、到底納得などいかないだろう。
しかし、どうしても自分たちを納得させたいのか、土居原先生は更に提案を重ねた。
「分かりました。お二人にはわたしの後悔話を聞いていただきます。聞いた上で過去へ想いを伝えても良いと思っていただけたら、私がその力を行使させていただく。と言うのはいかがでしょうか?」
「……分かりました。土居原先生がそこまでおっしゃるなら」
「本多さんは?」
「もちろん。先生が良いなら」
そう言って自分が頷いたのを確認すると、土居原先生は安堵の表情を浮かべ一口コーヒーを含む。そして静かにカップをテーブルに置くと、ゆっくりと語りだした。
どこまでも相容れなさそうな自分たち。正直、不安が募るばかりだ。
しかし、ここまで来て逃げるわけにはいかない。
自分はコーヒーを一気に飲み干すと説明を始めた。
「前に過去が変わるわけじゃないと言ったけれど、それは正確な言葉じゃない。過去は変わるんだ。ただ伝えられなかった言葉を、想いを伝えることができるだけなんだが」
「? どういうことかしら? 要領を得られないのだけれど」
「そうだな。その例えば告白をしようとしてできなかった人がいたとすれば、その時の想いを過去へ飛ばすことで告白をしたことにできる。伝えられなかったアイラブユーの言葉を伝えたことにな。だけど、その相手とは付き合うことはできず、現在に至るまでの関係性に一切の変化は起きないんだ」
「つまりはその人たちの間における人間関係は変わらないってこと?」
「まあ、そうなるな」
「……それなら意味はないわね」
「っ! 意味はあるんだよ」
机を叩き立ち上がって抗議する自分に対し、少し重心を後ろに引いた蕪木。だが、すぐにこちらに睨み返してきたところで、土居原先生の仲裁が入った。
頭に昇った血が引き冷静さを取り戻した自分は、椅子に座りなおす。蕪木もどこか気まずいのかコーヒーを口にした。
「心が、救われるんだ。ずっと後悔し続けて傷ついてきた心が、救われるんだよ。例えその人との関係性が変わらなくてもな。おれはそんな人たちを何人も見てきたんだ」
「……あなたの表情を見ればそうなのかもしれないわね。ただ前にも言ったけれど、例えあなたの言っていることが本当だったとしても、証明するものがないのでしょう?」
「それは……」
蕪木の言葉に、自分は口を噤む。
自分にこの仕事を薦めた万次郎を始め、これまで過去に想いを届けた人たちに証言は頼めるかもしれない。しかし、証言だけで蕪木が納得してくれないだろう。
目線を伏せ、頭を掻く自分。そんな自分を見てここまで口を閉ざしていた土居原先生が蕪木に質問をぶつけた。
「蕪木さんはもし本多さんが言っていることが本当で、過去へ想いを伝えられるのだとしたら、伝えたいですか」
「それは……否定はしません。ですが、何も証明がないので」
「こうやって何度も話そうとしてくれているだけでも、充分に証明になっていると私は思いますが」
「…………」
「あらあら、意地悪なことを言ってしまいましたね」
「……いえ」
と一応の否定こそしているが明らかに蕪木は拗ねているのだろう、土居原先生の視線をあからさまに避けている。そんな蕪木が可愛らしかったのか土居原先生は口に手を当てて上品に微笑むと、思わぬことを口にした。
「そうですね。どうしても証明してほしいということでしたら、私が過去に想いを届けてみるというのはいかがですか?」
「「え?」」
笑顔でぽん。と手を叩きまるで名案を出したかのように言った土居原先生に、自分と蕪木は同時に驚いた。
「私が実際に飛ばしてみて、成功したら蕪木さんが飛ばしたら良いのです」
「え。いや、確かに証明にはなるかもしれませんが、そんな簡単に決めて良いことじゃないですよ」
「そうです。何より先生がこんな奴の口車に乗せられる必要はないです」
と見事に言い切った蕪木さん。
こんな奴。というのは引っかかるが、土居原先生が試すような真似をする必要がないのは確かだ。自分は改めて先生に視線を向け撤回するように言うのだけれど、先生は首を横に振った。
「良いんですよ。だって、私自身が本多さんの口車に乗りたいと思っているのですから」
「? どういうことですか?」
どうにも理解が追いつかず眉をひそめながら尋ねる自分に、土居原先生は重ねた年月が引き出す柔らかい微笑みを浮かべながら答えた。
「だって、素敵じゃないですか。伝えられなかった思いを伝えられて、後悔から心を救い出してくれるなんて」
「それは……そうかもしれませんが、失敗する可能性も」
「構いません」
「え?」
「私は例え実験が失敗だとしても、構いませんよ。私はお二人より後悔する時間が短いですからね」
「っ」
土居原先生の思わぬ言葉に、自分も蕪木も言葉が詰まる。
後悔する時間が短いって言っても、その苦しみは変わったりはしない。むしろ、これまでの時間を考えれば、到底納得などいかないだろう。
しかし、どうしても自分たちを納得させたいのか、土居原先生は更に提案を重ねた。
「分かりました。お二人にはわたしの後悔話を聞いていただきます。聞いた上で過去へ想いを伝えても良いと思っていただけたら、私がその力を行使させていただく。と言うのはいかがでしょうか?」
「……分かりました。土居原先生がそこまでおっしゃるなら」
「本多さんは?」
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そう言って自分が頷いたのを確認すると、土居原先生は安堵の表情を浮かべ一口コーヒーを含む。そして静かにカップをテーブルに置くと、ゆっくりと語りだした。
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