(3章完結)今なら素直に気持ちを伝えられるのに

在原正太朗

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エピソード・3 injury

3-3 エスケープは不可です

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「しかし、この後教室に戻ったら大変だよ、梅。クラスメイトたちから何を言われるか分かったものじゃないからね」
「だろうな。頭が痛いよ」

 クラスメイトたちとは万次郎を除くとそこそこ話しをする程度の関係で、正直恋愛とか深い部分に触れる話をする奴は殆どいない。しかし、相手が蕪木となっては話が別だ。実際、前回蕪木の腕を引っ張って駐輪場に向かった時、目撃者たちによってかなり噂を広められてしまった。

「まあ、梅と蕪木さんの関係は前から噂にはなっていたけれどね」
「そうなの。腹立たしいわね」
「まだ何も聞いていないのに、ご立腹しないでくれますかね」

 と言うか、万次郎を居ない者として扱う者とばかり思っていたのに、結局話に入ってくるのか、お前は。
 ……いや、この場合はわざと万次郎が蕪木の興味を引いたのか。

「ちなみに、八幡……君」
「ジョンで良いよ」
「ジョン?」
「あー、こいつの名前万次郎って言うんだわ。それでクラスメイト達からはあだ名でジョンって言われているんだ」
「そうなの。じゃあ、ジョン。わたしとこの天邪鬼あまのじゃくの関係を何と噂されていたのかしら?」

 「誰が天邪鬼だ」。と言うツッコミを入れたいところだったが、万次郎の言う噂の方が気になるので今は我慢。

「誰にも心を開かず近寄りがたい高嶺の花に、唯一近づくことの許された強者だって」
「あら、強者何て呼ばれているの。本多にはあまりにも不相応ね」
「否定はしないが、傷つくからもう少しオブラートに包んで言ってくれませんかね」
「ごめんなさい。あまりにも鋭いものだから」
「はっはっは。それを耐えられる故の、強者なのかもね」

 互いに視線が合うことのない蕪木と万次郎。しかし自分をいじることに関しては、波長が合うのだろうか。ぽんぽんと漫才をするかのようにいじる台詞が飛んでくる。
 蕪木じゃないが、とても腹立たしいわ。

「それで、わざわざ蕪木さんが梅を呼び出したってことは、話したいことがあるんじゃないの?」
「そうね。本多、授業が終わった後大ちゃんと買い物をしに行くの。あなたもついてきなさい」
「え、それだけ?」
「それだけよ」

 何か悪いこと言ったかしら? と言わんばかりに自分を睨む蕪木に、自分はぶんぶんと首を振って見せる。それを見て万次郎がサンドイッチを口に突っ込み笑いをこらえていた。
 しかし、それだけの要件だったらスマホで連絡してくれれば済んだ話ではないのか?
 と疑問を思い浮かべたのだけれど、疑問を挟む間を万次郎が与えてくれない。

「いいねえ。梅を連れていくなら僕もご一緒させてもらうよ。前はぼくひとり仲間外れにされたからね」
「いや。それは」
「だめかい?」
「…………」

 蕪木に視線を送るが、蕪木は黙々と弁当を食べるばかりで何も言わない。
 否定しないところを見ると、万次郎の同行を許しているのだろう。
 自分は大きくため息を吐くとわざとらしく頷いてみせる。それを見て万次郎はしてやったりというように笑ってみせた。
 そんな自分たちのやり取りを見ていた蕪木は、袋に弁当箱を包むと立ち上がる。そして、床に座る自分を見下ろして言う。

「ホームルームが終わったら迎えに来なさい」
「おれがか?」
「あなた以外に誰が居るの? それともまさか、さっきのようにまたわたしに甲斐甲斐しく迎えに来いと?」
「……迎えにいかせていただきます」

 不服ながらも頭を下げ了承してみせた自分に蕪木は納得したのか、背を向け万次郎に挨拶をすることなく教室へと戻っていった。
 蕪木わたという嵐が過ぎ去ると、階段の踊り場は静けさを取り戻す。しかしそれは束の間の話。数分後には昼休みが終わってしまうのだ。

「さて、梅、ぼくたちは教室に帰らないといけないわけだけど、今戻ったら質問の嵐が待っているだろうね」
「……このままさぼりたいてえ!」

 大の字に寝転がり階段中に響くよう叫んだ自分。声はこだまして返ってくるばかりで、エスケープを許してくれるわけはなく、

「戻ろうか」
「……畜生」
 笑顔の万次郎に促され渋々自分は教室に帰った。

 ちなみに、教室に戻った自分たちは案の定クラスメイト達にもみくちゃにされながら質問攻めにあったのは言うまでもないだろうか。
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