俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政

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第2章『新たな召喚獣、新たな世界/ファイントの章』

第58話 ダンジョンが生まれた日

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「いやぁ~、それは雪ん子ちゃん、怒っただろうねぇ☆」
「やっぱり?」

 ファイントは俺が説明した『男装令嬢の胸当て』の説明を聞いて、「明らかにまずいでしょう♪」みたいな顔でこちらを見ていた。

「だって、雪ん子ちゃん、明らかに胸が小さいのを気にしてましたもん☆ ご主人は気付いてないでしょうけど♪」
「それって……本当?」

 俺はそのことにまったく気づいてないんだが?
 それってあれか、同性だからこそ気付く者がある的なヤツだったりするのだろう?

「忘れたんですか、ご主人? 雪ん子ちゃんは人の悪意を受けて、変質した召喚獣ですよ♪」
「いや、ちゃんと忘れてないさ」

 俺はそれが原因で、手を斬り落とされることまでされたのである。
 忘れたくても、忘れられない出来事なのだから。

「召喚獣の性質は、多くの人間達の意識----多数派の支持を受けています☆
 多くの人間がこうだと信じているからこそ、召喚獣は召喚獣らしいスキルや姿をしているんですよ♪」

 例えば、「魚は普通、水の中を泳げる」。だから、魚型の召喚獣は水の中を泳げる。
 例えば、「鳥は飛べるが、ペンギンは飛べない」。だから、多くの鳥型の召喚獣は飛べるのに、ペンギンの姿をした召喚獣は飛べない。
 そう言った風に、多くの召喚獣はそういった常識の範囲内で、スキルや攻撃方法などが決められてるんだそうだ。

「勿論、中には"水の中ではなく、土の中を泳ぐ魚型の召喚獣"だったり、"空を我が物顔で飛行するペンギン型の召喚獣"がいたりしますので、あくまでも大雑把に、そうだと決められてるって感じですね♪」
「なるほど。それで、それが雪ん子が胸が小さい事を気にするのと、どう関係してくるんだ?」
「良いですか、ご主人? 雪ん子ちゃんは人の悪意を糧に成長した召喚獣で、いわば人の醜い嫉妬やら傲慢さが色濃く出ている、女の召喚獣ですよ♪」

 そう言うと、彼女はわざとらしく、どんっと、自らの大きな胸を俺の方へと突き出す。
 下から腕を組んで、胸を大きく見せるようにして、だ。


「"自分の胸が小さい事で、大きい胸の人を憎む人"と、"自分の胸が大きい事で、小さい胸の人を憎む人"。
 ……果たして、この世界で一般的なのはどちらですかねぇ?」


 ニヤニヤと、からかうように笑う彼女に辞めろと言いつつ、俺はファイントがなにを言いたいのかがようやく理解できた。

「(つまり、雪ん子はそういう人々の一般的な妬みが反映されてるから、自らの胸が小さい事を気にしてるって訳ね)」

 俺の勝手な想像だが、さっきのファイントの質問----俺は前者だと思った。
 どちらの方が一般的なのかはアンケートを取ってないから分からんのだが、俺はそう思った。

 そして、雪ん子はそういう俺のなんとなくな、想いを感じて、雪ん子は【胸が小さい事で妬む召喚獣】になった訳か。

「とまぁ、そういう雪ん子ちゃんの胸の小ささ問題は置いといて----」

 「本題はここですよ」と、彼女はある建物を指差した。

「----【カップルズホテル・ガールハント】?」

 ファイントが指差した先、そこにあったのは派手な外観のホテル。
 いわゆる、ラブホテルと呼ばれるような建物であった。

 ただ、もうしばらく前からやっていないみたいで、【関係者以外立ち入り禁止】のテープが貼られていた。

「ご主人には、前に言いましたよね? 次の仲間候補について、私の方から提案があるって話」

 それは、以前にファイントが、俺の家に現れた際に言っていた話だ。
 快適なる召喚獣ライフのために、次の仲間は私に任せて、という話。

「ダンジョンの外に出てみて、初めて分かったんですが、実はダンジョンになりやすい場所ってのが感覚的に分かるんですよね☆ なんて言うか、こう、うっすらと魔力が出始めてる的な……」
「この廃ホテルが、もうすぐダンジョンになるから、入ろうってか? それは、いつの話だ?」
「ここで待っていても、恐らく年内にはダンジョンにならないかなぁ~、もしかしたら10年以上先かも~てな感じですね☆」

 いや、それじゃあダメじゃないか?
 俺がそう思っていると、ファイントはぱちんっ、とウインクする。

「でも、大丈夫! 私はファイント! ご主人の頼れる召喚獣!」

 と、彼女はそう言って、両手を寂れたラブホテルの方に向ける。
 すると、どういう現象なのだろうか?
 ラブホテルが、俺の目の前でぐにょんぐにょんと、曲がっていく。

 折れて、曲がって、ひっくり返って……まるで豆腐かのように、硬そうなホテルがぐにょんぐにょんと揺れていた。

 そして、それが20秒ほど続いたかと思うと、そこにあったのは----


 ===== ===== =====
 【風雲! ドラキュラブホ城!】 超特殊ダンジョン/人数制限、レベルⅡ【召喚士】お1人まで
 ※)このダンジョンは大変不安定な状況になっております。そのため、ボス攻略と同時に、ダンジョン自体が消滅する可能性があります
 ===== ===== =====


 ----ダンジョンだった。

 寂れたラブホテルを飲み込んで、1つのダンジョンの誕生の瞬間を、俺は目撃したのである。
 いや、この誕生は偶然じゃない。
 彼女によって、仕込まれた必然なのである。

「さぁ、入りましょ? ご主人?」

 ファイントはそう言って、先にダンジョンの中へと入って行くのであった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 そして、時は遡り、ファイントがダンジョンへと変貌を遂げさせるちょっと前。
 寂れて潰れたラブホテル----【カップルズホテル・ガールハント】の中で、佐鳥愛理は仕上げにかかっていた。

「~~~~♪」

 大好きなパンクミュージック----【世界球体パンクスフィア】から聞こえてくる世界の悲鳴と言う、格好の音楽を心地よく聞きながら、彼女は薬品作りに没頭していた。
 人を超人へと変える劇薬、その名も精製ルトナウムの研究に。

「よしっ! これで10本目、っと!」

 今ちょうど作ったばかりの精製ルトナウムを机の上に置いて、佐鳥愛理は満足げな顔を浮かべていた。

「いやぁ、空海大地に見つからないように魔力を薄めてたんですけど、精製ルトナウムがちゃんと作れて何よりですね」

 そもそも、空海大地に見つかったあの時、佐鳥愛理が疑似的なダンジョンを作っていた理由が、これなのである。
 精製ルトナウム----各国が大金を持って、佐鳥愛理から買い付けているあれらは、ちょっとばかり特殊な製法なため、魔力がある程度ないと作れない。
 ダンジョンだと魔物が襲ってくる可能性があるから、疑似的なダンジョンを作ってひっそりと製薬作業をしていたのである。

「(魔力が薄いから量は作れないけど、その分、時間をじっくりとかけて作れるから質が作れるし。
 この精製ルトナウムは、果たして1本どれくらいの値段で吹っ掛けられるかなぁ?)」

 と、次の11本目の精製ルトナウムを作り始めようとしていると----。

 ----どどんっ!!

「なっ……!?」

 いきなりビルが揺れた。
 いや、薄いながらも魔力の結界を作っているから、現実のビルが揺れたところで効果はないはずだ。

「ビルが揺れたよりも、もっとひどい現象----まさか、ダンジョン化??」

 ----ぱりんっ!!

 佐鳥愛理が考え込む時間はなかった。
 なにせ、机の上に置いといた【世界球体パンクスフィア】が床に落ちてぱりんっと真っ二つに割れており、その上に作ったばかりの精製ルトナウムまで落ちて割れてしまっていた。

「あぁっ!! そんなぁ!!
 せっかく作った精製ルトナウムが!! それに、貴重な【世界球体パンクスフィア】まで?!」

 佐鳥愛理は怒った、すっごく怒った。
 なにせ精製ルトナウムも、【世界球体パンクスフィア】も、どちらも大変貴重な代物だったからだ。

「この【世界球体パンクスフィア】……めちゃくちゃ良い音が聞こえて来て、大好きだったのに!!」

 「これは恐らく、空海大地の仕業なのだろう」と、佐鳥愛理はそう考えた。
 ダンジョン化だなんて、自分と同じ元勇者----異世界での経験がある冒険者じゃないと、出来ない事だからである。

「(せっかく、逃げ切ったと思ったのに、また逃げなくてはならないんですか)」

 空海大地には、貴重な【世界球体パンクスフィア】のうち、【桃太郎世界】と【着ぐるみ世界】を閉じ込めた【世界球体パンクスフィア】を破壊された恨みがある。
 あの2つの世界を与えた召喚獣が倒されたため、この世界に新たなる職業ジョブ----【桃太郎】と【着ぐるみ】の2つが解放されてしまった。
 今、壊れてしまった【世界球体パンクスフィア】も合わせると、3つもだ。

「(これは一度、空海大地にはお仕置きをしなくてはね)」

 佐鳥愛理はそう言って、4つ目の----とっておき・・・・・の【世界球体パンクスフィア】を手にする。



「見せつけてあげましょう、私が持つ【世界球体パンクスフィア】の中で。
 最も奇妙なマナ系統の職業ジョブを閉じ込めた、コイツの力を」
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