42 / 125
第7章 耽溺の刑
第42話 快楽による支配
しおりを挟む
「は……は……っ」
部屋には葵の乾いた笑い声が響く。特段、面白い事があった訳でもないのだが葵は虚空を見つめながら一人、へらへらと笑っている。
薬を注入してしばらくすると、葵に異変が起こり始めた。人格が変わったかの様に笑い始めたり、独り言を呟いて、それを聞いてまた笑い始めたり……明らかに普通の様子ではなかった。
「随分と陽気だね。どうだい気分は?」
「すごく……気持ち良い、です……痒みも和らいで……凄い……ふふ」
部屋の簡易ベッドに寝転びながら葵は笑う。注入した薬は痒みを和らげる効果も炎症を抑える効果も無い。ただ、葵の身体の感覚に偽りの『快楽』を上書きしたに過ぎない。アンフェタミン類の精神刺激薬……つまり覚醒剤と呼ばれる代物だ。
だが、葵はその現実にも気付かず呑気に笑い転げている。自身が薬物中毒に陥っている事にすら気付かずに。
「それは良かった。効果が薄れたと思ったら言ってくれ、まだ予備はある」
「これってぇ……もっと、いっぱい使ったら……もっと気持ち良くなれる?」
葵は空になった注射器を手に持ち、それをぼーっと虚ろな目で見つめる。
最初という事で少量の摂取に抑えておいたが、葵は既に更なる快楽を求め始めていた。
「……ああ、とても気持ちが良いだろうね。けれど量は少しずつ増やしていこう。何事もやり過ぎは禁物だ」
だが、葵の経過も観察しながら量は調整しなければならない。物量的な理由もあるが、何より好き勝手に摂取されて勝手に死なれては僕が困る。
葵には最後まで働いてもらう、実験動物のモルモットとして。それまでは僕の実験に、そして茜の進化の為に付き合ってもらおう。
「えぇ~……高城さんも……どうです? あ、お姉ちゃんも……」
葵は酔っ払いの様な絡んでくるが、その手を僕は振り払う。
薬物中毒の戯言に付き合っている暇など無い。
「遠慮しておくよ。必要な人が必要な分だけ使う、薬とはそういうものだからね」
……元はと言えば茜の調整と進化に役立つ事を考慮して仕入れておいた薬だが、茜に使う前に実験しておいて良かったと改めては思う。
だらしなく口角を吊り上げ、その端からは涎を垂れ流し、醜く笑い転げる葵の姿を見る。薬に狂わされ、快楽に溺れる人間がここまで醜いとは思わなかった。
僕はゆっくりと簡易ベッドから立ち上がる。
「……哀れだね」
葵に対し、捨て台詞の様に呟くが葵は聞いてすらいない。今も虚空を見つめながら何かぶつぶつと言葉を放ち、そして笑っているだけ。
「さて……僕は茜の所に一旦向かうよ。しばらくしてから戻るから、それまではゆっくりしているといい」
「はぁ~ぃ……」
葵は気の抜けた返事で僕を見送った。
最近は葵に構ってばかりだったから、そろそろ茜にも構ってあげないと。僕は厳重な施錠を施してから葵の監禁部屋を後にする。
僕が監禁部屋に戻る頃には、葵の薬の効果が切れる頃。
その時の葵の姿を想像すると、少し楽しみだ。
部屋には葵の乾いた笑い声が響く。特段、面白い事があった訳でもないのだが葵は虚空を見つめながら一人、へらへらと笑っている。
薬を注入してしばらくすると、葵に異変が起こり始めた。人格が変わったかの様に笑い始めたり、独り言を呟いて、それを聞いてまた笑い始めたり……明らかに普通の様子ではなかった。
「随分と陽気だね。どうだい気分は?」
「すごく……気持ち良い、です……痒みも和らいで……凄い……ふふ」
部屋の簡易ベッドに寝転びながら葵は笑う。注入した薬は痒みを和らげる効果も炎症を抑える効果も無い。ただ、葵の身体の感覚に偽りの『快楽』を上書きしたに過ぎない。アンフェタミン類の精神刺激薬……つまり覚醒剤と呼ばれる代物だ。
だが、葵はその現実にも気付かず呑気に笑い転げている。自身が薬物中毒に陥っている事にすら気付かずに。
「それは良かった。効果が薄れたと思ったら言ってくれ、まだ予備はある」
「これってぇ……もっと、いっぱい使ったら……もっと気持ち良くなれる?」
葵は空になった注射器を手に持ち、それをぼーっと虚ろな目で見つめる。
最初という事で少量の摂取に抑えておいたが、葵は既に更なる快楽を求め始めていた。
「……ああ、とても気持ちが良いだろうね。けれど量は少しずつ増やしていこう。何事もやり過ぎは禁物だ」
だが、葵の経過も観察しながら量は調整しなければならない。物量的な理由もあるが、何より好き勝手に摂取されて勝手に死なれては僕が困る。
葵には最後まで働いてもらう、実験動物のモルモットとして。それまでは僕の実験に、そして茜の進化の為に付き合ってもらおう。
「えぇ~……高城さんも……どうです? あ、お姉ちゃんも……」
葵は酔っ払いの様な絡んでくるが、その手を僕は振り払う。
薬物中毒の戯言に付き合っている暇など無い。
「遠慮しておくよ。必要な人が必要な分だけ使う、薬とはそういうものだからね」
……元はと言えば茜の調整と進化に役立つ事を考慮して仕入れておいた薬だが、茜に使う前に実験しておいて良かったと改めては思う。
だらしなく口角を吊り上げ、その端からは涎を垂れ流し、醜く笑い転げる葵の姿を見る。薬に狂わされ、快楽に溺れる人間がここまで醜いとは思わなかった。
僕はゆっくりと簡易ベッドから立ち上がる。
「……哀れだね」
葵に対し、捨て台詞の様に呟くが葵は聞いてすらいない。今も虚空を見つめながら何かぶつぶつと言葉を放ち、そして笑っているだけ。
「さて……僕は茜の所に一旦向かうよ。しばらくしてから戻るから、それまではゆっくりしているといい」
「はぁ~ぃ……」
葵は気の抜けた返事で僕を見送った。
最近は葵に構ってばかりだったから、そろそろ茜にも構ってあげないと。僕は厳重な施錠を施してから葵の監禁部屋を後にする。
僕が監禁部屋に戻る頃には、葵の薬の効果が切れる頃。
その時の葵の姿を想像すると、少し楽しみだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる