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第7章 耽溺の刑
第44話 快楽の代償
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自宅の葵の部屋に戻ると、ドアを開ける前から呻き声が微かに漏れていた。苦しみに喘ぎ、半泣きの子供の様な呻き声。予想通り、僕が部屋に戻る頃には葵の覚醒剤の効力は切れていた。
「かっ……はっ……ァ……」
部屋に入ると、床にそのまま葵が倒れ、うずくまっていた。小刻みに震え、その手はやはり皮膚の傷口をぐちゃぐちゃに掻き毟っていた。止まっていた血と膿が再び溢れ、床を汚していた。
「苦しそうだね? 薬の効果が切れ始めた様だ」
「たか、しろ……さん……?」
僕の見下す様な声に、葵はゆっくりと上を向く。目は虚ろで、焦点も合っていない。目の端には大粒の涙が溜まっている。
「戻って来たら、随分と大人しくなっているものだから驚いたよ。どうした?」
僕は分かりきった事をあえて葵に問う。覚醒剤の禁断症状だ。
だが、葵は答えられない。何故なら、自身が打たれた薬が何かすら理解していなかったからだ。
「苦しい、苦しい……何で? 高城さん……何で苦しいの? 何でこんなに、痛くて……痒いの……?」
質問に答えるどころか、意思疎通すら困難かもしれない。何かに縋り付く様に葵は僕の膝に抱き付き、助けを求める。
「禁断症状に加え、麻痺していた痛覚神経も元に戻りつつある……所詮は偽りの幸福か」
「ぇ……? わかんない……わかんないよ……意味……ッ」
傷口から溢れ出た血と膿が僕のズボンを汚す。葵の傷口は更に酷く化膿しており、当初の葵の美しかった白い肌の面影は無い。
「初期だからこの程度で済んでいるが……次回以降の禁断症状はこんなものではないんだろう。君を見ていると、改めてコレを茜に使わずに済んで良かったと思う」
床に転がる注射器を目にしながら言う。僕は茜を従えるのに、『苦痛』と『快楽』のどちらを用いるべきかを考えた。暴力による苦痛を与える為にあらゆる拷問を想定した道具を揃え、薬物による快楽の為に覚醒剤を始めとした薬物を揃えた。
数年間分の生活資金として両親と親戚から受け取った資金を全て注ぎ込み、僕はそれらを揃え、あらゆる手段を想定したが……やはり茜に対しては『快楽』ではなく『苦痛』を選択した事は正しかった様だ。
目の前に転がる『快楽』による薬物中毒者を目にして、改めて僕は感じる。
「禁断、症状……? え……? だって、痒みと炎症を抑える……薬……って、なのに、何でこんなに……苦しくて、痛くて……怖いの……っ?」
突然、快楽が途切れ襲ってきた今まで体験したことの無い痛み、苦しみ、恐怖。自身の身体を蝕むそれらに葵は動揺を隠せない。
「決して間違いではないさ。事実、注入からしばらくは痒みどころか興奮と快楽に満たされていただろう。どこに嘘がある?」
痒みも痛みも無にし、快楽だけを身体に満たす、そんな都合の良い薬などありはしない。
今、葵の身体を蝕んでいるのは快楽と引き換えに苦痛を伴い、やがては人間を完全に破壊してしまう危険な代物。
「ただ……君が勘違いしているとすれば、それは何事にもリスクは付き物という点。今の苦痛は先程までの快楽の代償……苦痛と快楽の等価交換を行った結果、それだけの話だ」
僕の言葉を何度も反復しても、葵の理解は追いつかない様だ。薬に侵された脳では、最早こんな簡単な言葉すら理解する事が困難となっている。
「それ……なに、なんの……くすり、なの……? わたし、いまどうなっ、て……?」
自分の置かれた状況すら理解できていない葵。ただ迫り来る痛み、苦しみに耐える事で精一杯の様子だ。
「知らない方が君の為だとは思うけれどね。まぁ……大方、想像はつくだろう? 明らかに合法の薬では無い事くらいは」
違法薬物と言えば、大方は想像がつくはず。そして、それらの薬物を摂取した人間が最終的にはどうなるのかも理解できるだろう。
「そん、なの……なんで……? なんで、こんな……」
葵の麻痺した思考はようやく現実を受け入れ始め、震える腕を押さえつけながら葵は僕を見つめる。助けを求める様に目を見開き、声にならない音を口から何度も発している。
だが、そんなものは僕には届かない。
「実験の為さ。僕の個人的な探究心を満たす為。そして、茜の進化に転用するための技術の模索……その為の実験動物、それが今の君の存在価値だ……吹山 葵」
僕の言葉に、葵はようやく理解した。
自分が生き残ったのは、姉の犠牲のおかげでも、僕の中に僅かに残った良心のおかげでもない。
ただ、人体実験の為の素材として生かされ、そしてこれから苦しみながら死んでいく。
ただ、それだけの運命であるという事実を。
「かっ……はっ……ァ……」
部屋に入ると、床にそのまま葵が倒れ、うずくまっていた。小刻みに震え、その手はやはり皮膚の傷口をぐちゃぐちゃに掻き毟っていた。止まっていた血と膿が再び溢れ、床を汚していた。
「苦しそうだね? 薬の効果が切れ始めた様だ」
「たか、しろ……さん……?」
僕の見下す様な声に、葵はゆっくりと上を向く。目は虚ろで、焦点も合っていない。目の端には大粒の涙が溜まっている。
「戻って来たら、随分と大人しくなっているものだから驚いたよ。どうした?」
僕は分かりきった事をあえて葵に問う。覚醒剤の禁断症状だ。
だが、葵は答えられない。何故なら、自身が打たれた薬が何かすら理解していなかったからだ。
「苦しい、苦しい……何で? 高城さん……何で苦しいの? 何でこんなに、痛くて……痒いの……?」
質問に答えるどころか、意思疎通すら困難かもしれない。何かに縋り付く様に葵は僕の膝に抱き付き、助けを求める。
「禁断症状に加え、麻痺していた痛覚神経も元に戻りつつある……所詮は偽りの幸福か」
「ぇ……? わかんない……わかんないよ……意味……ッ」
傷口から溢れ出た血と膿が僕のズボンを汚す。葵の傷口は更に酷く化膿しており、当初の葵の美しかった白い肌の面影は無い。
「初期だからこの程度で済んでいるが……次回以降の禁断症状はこんなものではないんだろう。君を見ていると、改めてコレを茜に使わずに済んで良かったと思う」
床に転がる注射器を目にしながら言う。僕は茜を従えるのに、『苦痛』と『快楽』のどちらを用いるべきかを考えた。暴力による苦痛を与える為にあらゆる拷問を想定した道具を揃え、薬物による快楽の為に覚醒剤を始めとした薬物を揃えた。
数年間分の生活資金として両親と親戚から受け取った資金を全て注ぎ込み、僕はそれらを揃え、あらゆる手段を想定したが……やはり茜に対しては『快楽』ではなく『苦痛』を選択した事は正しかった様だ。
目の前に転がる『快楽』による薬物中毒者を目にして、改めて僕は感じる。
「禁断、症状……? え……? だって、痒みと炎症を抑える……薬……って、なのに、何でこんなに……苦しくて、痛くて……怖いの……っ?」
突然、快楽が途切れ襲ってきた今まで体験したことの無い痛み、苦しみ、恐怖。自身の身体を蝕むそれらに葵は動揺を隠せない。
「決して間違いではないさ。事実、注入からしばらくは痒みどころか興奮と快楽に満たされていただろう。どこに嘘がある?」
痒みも痛みも無にし、快楽だけを身体に満たす、そんな都合の良い薬などありはしない。
今、葵の身体を蝕んでいるのは快楽と引き換えに苦痛を伴い、やがては人間を完全に破壊してしまう危険な代物。
「ただ……君が勘違いしているとすれば、それは何事にもリスクは付き物という点。今の苦痛は先程までの快楽の代償……苦痛と快楽の等価交換を行った結果、それだけの話だ」
僕の言葉を何度も反復しても、葵の理解は追いつかない様だ。薬に侵された脳では、最早こんな簡単な言葉すら理解する事が困難となっている。
「それ……なに、なんの……くすり、なの……? わたし、いまどうなっ、て……?」
自分の置かれた状況すら理解できていない葵。ただ迫り来る痛み、苦しみに耐える事で精一杯の様子だ。
「知らない方が君の為だとは思うけれどね。まぁ……大方、想像はつくだろう? 明らかに合法の薬では無い事くらいは」
違法薬物と言えば、大方は想像がつくはず。そして、それらの薬物を摂取した人間が最終的にはどうなるのかも理解できるだろう。
「そん、なの……なんで……? なんで、こんな……」
葵の麻痺した思考はようやく現実を受け入れ始め、震える腕を押さえつけながら葵は僕を見つめる。助けを求める様に目を見開き、声にならない音を口から何度も発している。
だが、そんなものは僕には届かない。
「実験の為さ。僕の個人的な探究心を満たす為。そして、茜の進化に転用するための技術の模索……その為の実験動物、それが今の君の存在価値だ……吹山 葵」
僕の言葉に、葵はようやく理解した。
自分が生き残ったのは、姉の犠牲のおかげでも、僕の中に僅かに残った良心のおかげでもない。
ただ、人体実験の為の素材として生かされ、そしてこれから苦しみながら死んでいく。
ただ、それだけの運命であるという事実を。
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