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第11章 逃避の刑
第98話 心の死
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その後、ティエラとは話し合いにもならず僕はリビングから席を立った。
ティエラも僕に愛想を尽かしたのか、足早にリビングから退散し僕が貸し出している自宅の部屋へと篭ってしまった。
「……つまんない、もうお終いね」
これがティエラの捨て台詞だった。
もう僕には用は無い、明日にでも日本を発つつもりだという。
実験体も失い、僕との意見も食い違った。僕自身も脳改造の実験が終わった以上、これ以上ティエラに用など無い。
このまま放っておいてもティエラは僕の事を周囲に喋る事も無いだろう。ティエラ自身の行いが明らかになる危険性もあるし、それ以前にティエラにとっては既に興味の無い話だろうから……僕は、ティエラを引き留める事はしなかった。
僕は行き場もなく、ガレージに座する茜の元へ向かった。
埃で満たされた空間の中に座する茜。
生命は辛うじて維持してはいるが、その表情は無に等しい。
「茜、葵は無事に解放した。発見され保護されるのも時間の問題だろう」
「そう……あり、がとう……」
僕の言葉に、葵は瞬き一つせずな感謝を述べた。
ほんの少しだけ、表現が和らいだ様に見えた。
「……疑わないのか?」
「うそをつくくらいなら……わたしのめのまえで……ころしてるでしょ」
茜は葵がこの場から逃れた事だけに安堵している。元の世界にさえ戻れば、ティエラが言うように奇跡が起こるのだと、下らない幻想を抱いているのだ。
「保護されれば大きく報道もされるだろう。その時は、君にも伝えるよ」
「うん……」
下らない。そんなもの、この世界には存在しない。僕はこの世界の冷たさを知っている。
ティエラといい、茜といい……平和ボケした連中の下らない言い草に、僕は苛立ちを覚えていた。
「随分と……落ち着いているね」
「もう、わたしの……のぞみは、かなったから……もう、どうでもいいの……なにも、かも……もう」
そして……茜は最後の力を振り絞り……満面の笑みを浮かべた。
「……っ、茜……」
そして、その時だった。幻覚か夢か……妄想なのかもしれない。
茜の表情から、憑き物が落ちるかの様に……何かが身体から抜け落ちた様に見えた。
抽象的な表現をするのなら、魂か。
魂が抜けたかの様に見えたのだ。
「……茜?」
「ありがとう」
僕の言葉にも反応もせず、茜は最後にそれだけを言い残し……笑みを浮かべたまま、本当の意味で人形の様に生気の無い肉の塊と成り果てたのだ。
僕には、はっきりとそれが分かった。
「茜……茜!」
茜が茜で無くなってしまった。
生きる事を諦め、最後の望みであった葵の生存を知った事で……肉体を残し魂が浄化したのだ。
心臓は動き、地も巡っている。けれど、違う。僕の求める『聖処女』……吹山 葵は……ただの肉塊であってはならない。
「茜! 茜!」
だが、それから数時間……何度呼びかけても茜は魂の抜けた肉の塊か自我を取り戻す訳では無かった。
葵を救った事と引き換えに……葵の心は本当の意味で死んだのだ。
ティエラも僕に愛想を尽かしたのか、足早にリビングから退散し僕が貸し出している自宅の部屋へと篭ってしまった。
「……つまんない、もうお終いね」
これがティエラの捨て台詞だった。
もう僕には用は無い、明日にでも日本を発つつもりだという。
実験体も失い、僕との意見も食い違った。僕自身も脳改造の実験が終わった以上、これ以上ティエラに用など無い。
このまま放っておいてもティエラは僕の事を周囲に喋る事も無いだろう。ティエラ自身の行いが明らかになる危険性もあるし、それ以前にティエラにとっては既に興味の無い話だろうから……僕は、ティエラを引き留める事はしなかった。
僕は行き場もなく、ガレージに座する茜の元へ向かった。
埃で満たされた空間の中に座する茜。
生命は辛うじて維持してはいるが、その表情は無に等しい。
「茜、葵は無事に解放した。発見され保護されるのも時間の問題だろう」
「そう……あり、がとう……」
僕の言葉に、葵は瞬き一つせずな感謝を述べた。
ほんの少しだけ、表現が和らいだ様に見えた。
「……疑わないのか?」
「うそをつくくらいなら……わたしのめのまえで……ころしてるでしょ」
茜は葵がこの場から逃れた事だけに安堵している。元の世界にさえ戻れば、ティエラが言うように奇跡が起こるのだと、下らない幻想を抱いているのだ。
「保護されれば大きく報道もされるだろう。その時は、君にも伝えるよ」
「うん……」
下らない。そんなもの、この世界には存在しない。僕はこの世界の冷たさを知っている。
ティエラといい、茜といい……平和ボケした連中の下らない言い草に、僕は苛立ちを覚えていた。
「随分と……落ち着いているね」
「もう、わたしの……のぞみは、かなったから……もう、どうでもいいの……なにも、かも……もう」
そして……茜は最後の力を振り絞り……満面の笑みを浮かべた。
「……っ、茜……」
そして、その時だった。幻覚か夢か……妄想なのかもしれない。
茜の表情から、憑き物が落ちるかの様に……何かが身体から抜け落ちた様に見えた。
抽象的な表現をするのなら、魂か。
魂が抜けたかの様に見えたのだ。
「……茜?」
「ありがとう」
僕の言葉にも反応もせず、茜は最後にそれだけを言い残し……笑みを浮かべたまま、本当の意味で人形の様に生気の無い肉の塊と成り果てたのだ。
僕には、はっきりとそれが分かった。
「茜……茜!」
茜が茜で無くなってしまった。
生きる事を諦め、最後の望みであった葵の生存を知った事で……肉体を残し魂が浄化したのだ。
心臓は動き、地も巡っている。けれど、違う。僕の求める『聖処女』……吹山 葵は……ただの肉塊であってはならない。
「茜! 茜!」
だが、それから数時間……何度呼びかけても茜は魂の抜けた肉の塊か自我を取り戻す訳では無かった。
葵を救った事と引き換えに……葵の心は本当の意味で死んだのだ。
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