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第13章 捕食の刑
第112話 夢の喪失
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食事を終え、何時間が経過しただろうか。
沈黙に包まれた空間の中、僕とティエラ、そして茜がいる。
……ずっと、待っているのだ。
茜が目を覚まし、再びその肉体に魂が取り戻される瞬間を。
「……茜」
僕の言葉に茜からの返答は無い。
口の端を肉の破片で汚したまま、変わらず塗り固められた人形の様な冷たい眼差しで僕を見下している。
「茜、茜……」
僕の調理した料理は既に全てを与えた。
だが、一切の妥協の無い芸術的な料理を食してなお、何故……茜は目を覚まさない?
不安と恐怖に駆られ、僕は思わず茜の下へ駆け寄るが、茜の表情はやはり変わらない。
「何故? 何故なんだ? 何故、どうして戻って来てくれない? 何が、何が一体……」
茜へ与えたのは、新鮮な少女の血と神経が通った肉。神秘と加護が宿り、美を体現する正当な材料としては申し分無かった筈だ。
味付けだって、一切手を抜いた部分は無い。肉以外の具、調味料、食器……全て最高級のものを取り揃えた。
美しく、清らかで、神秘と加護の宿った究極の料理だった筈。
なのに……何故?
何度考えても、答えは見つからない。
「何が足りない? 何か足りないものがあるのなら、そう言ってくれ。君の求めるのなら、僕は何だって……」
茜の乾き切った皮膚に手をやり、僕は問う。徐々に失われつつある美を目の当たりに、僕の焦りと不安は更に増すばかりだった。
もし、このまま茜が目を覚まさなければ……と、僕は最悪の事態を思い浮かべるも、直前でそれを頭の中で塗り潰す。
駄目だ、それを認めてしまえば……僕と茜の世界は跡形も無く壊れてしまう。
「ふ……っ……」
そして、狼狽える僕の姿を見たティエラは、椅子に縛られたまま力無く僕を嘲笑する。
瀕死の状態でありながらも、僕を嘲笑うティエラに、僕は激しい憎悪を抱いた。
「何が可笑しい!」
手足を失い、胴体を椅子に縛り付けられたティエラに対し、僕は容赦無く張り手を浴びせる。
しかし、最早ティエラには痛みを訴える力すら残ってはいなかった。虚ろな目を開き、僕の暴行を受けながらも薄っすらと笑みを浮かべている。
「……だって、可笑しいでしょ……? 必死になって、目の前の現実から目を背けて、逃げて……本当に、滑稽……」
ティエラはその濁った目で茜をぼんやりと見つめると、鼻で笑った。
それは人を見る目では無く、死んだ動物の死骸か、もしくは道に転がる汚物を見る様な冷たいものだった。
「今更、何をしても……その子は戻らない。猿にだって分かるわ……この子の頭の中を見れば、ね」
「……黙れ……ッ!」
僕は自らの声でティエラの声を掻き消そうとするも、既に遅かった。
耳に入ったティエラの言葉で、あの悍ましい光景が頭の中へ再び蘇る。
老人の脳の様に萎縮し、形状も崩れ、一部では溶解すら始まっていた茜の脳……いや、あれは既に脳と呼べる機能と働きを持つものとは言えない程であった。
「あんただって、分かってるんでしょ……呪術? 儀式? そんな事をしたって、もうこの子は……二度と……」
ティエラの言葉が容赦無く僕を責め立て、追い詰める。
そして、僕は頭が割れそうなくらいに激しい頭痛と吐き気に襲われる。
「黙、れ……」
僕は息を切らしながらティエラの言葉を遮る様に彼女の首へ手を伸ばし、彼女の喉元を締め上げる。
「殺す……? 好きにすれば……? 何も、変わりはしない、けれど……」
「認めない……認めてやるものか……こんな、こんな……結果を……っ」
そして、ティエラの言葉を否定し続ける。
……だが、本当は分かっていた。ティエラに言われなくとも頭ではとっくに理解していたのだ。
けれど、認めたくない。認めてしまえば、僕とティエラの世界は終わりを迎えてしまう。
だから、呪術、儀式……何でも良い。ティエラの魂の救済が期待できるのなら、僕は何にでも縋る。
「誰か……教えてくれ……僕は、僕は……どうすれば、良いんだ……?」
僕は両手に力を込めながら、茜でもティエラでも無い、誰かに教えを請うも、当然答えなど返っては来ない。
茜は目覚めなかった。それだけが確かな現実。
そして、認めざるを得ない。
この先、あらゆる手段を用いて脳死の茜と向き合い続けても……茜は戻って来ないのだ、と。
「誰か……誰か」
こうして僕は、茜を失った。
その現実を突きつけられ、追い詰められた時……僕はティエラの首元を締める手を緩め、その場に力無く座り込む事しか出来なかった。
沈黙に包まれた空間の中、僕とティエラ、そして茜がいる。
……ずっと、待っているのだ。
茜が目を覚まし、再びその肉体に魂が取り戻される瞬間を。
「……茜」
僕の言葉に茜からの返答は無い。
口の端を肉の破片で汚したまま、変わらず塗り固められた人形の様な冷たい眼差しで僕を見下している。
「茜、茜……」
僕の調理した料理は既に全てを与えた。
だが、一切の妥協の無い芸術的な料理を食してなお、何故……茜は目を覚まさない?
不安と恐怖に駆られ、僕は思わず茜の下へ駆け寄るが、茜の表情はやはり変わらない。
「何故? 何故なんだ? 何故、どうして戻って来てくれない? 何が、何が一体……」
茜へ与えたのは、新鮮な少女の血と神経が通った肉。神秘と加護が宿り、美を体現する正当な材料としては申し分無かった筈だ。
味付けだって、一切手を抜いた部分は無い。肉以外の具、調味料、食器……全て最高級のものを取り揃えた。
美しく、清らかで、神秘と加護の宿った究極の料理だった筈。
なのに……何故?
何度考えても、答えは見つからない。
「何が足りない? 何か足りないものがあるのなら、そう言ってくれ。君の求めるのなら、僕は何だって……」
茜の乾き切った皮膚に手をやり、僕は問う。徐々に失われつつある美を目の当たりに、僕の焦りと不安は更に増すばかりだった。
もし、このまま茜が目を覚まさなければ……と、僕は最悪の事態を思い浮かべるも、直前でそれを頭の中で塗り潰す。
駄目だ、それを認めてしまえば……僕と茜の世界は跡形も無く壊れてしまう。
「ふ……っ……」
そして、狼狽える僕の姿を見たティエラは、椅子に縛られたまま力無く僕を嘲笑する。
瀕死の状態でありながらも、僕を嘲笑うティエラに、僕は激しい憎悪を抱いた。
「何が可笑しい!」
手足を失い、胴体を椅子に縛り付けられたティエラに対し、僕は容赦無く張り手を浴びせる。
しかし、最早ティエラには痛みを訴える力すら残ってはいなかった。虚ろな目を開き、僕の暴行を受けながらも薄っすらと笑みを浮かべている。
「……だって、可笑しいでしょ……? 必死になって、目の前の現実から目を背けて、逃げて……本当に、滑稽……」
ティエラはその濁った目で茜をぼんやりと見つめると、鼻で笑った。
それは人を見る目では無く、死んだ動物の死骸か、もしくは道に転がる汚物を見る様な冷たいものだった。
「今更、何をしても……その子は戻らない。猿にだって分かるわ……この子の頭の中を見れば、ね」
「……黙れ……ッ!」
僕は自らの声でティエラの声を掻き消そうとするも、既に遅かった。
耳に入ったティエラの言葉で、あの悍ましい光景が頭の中へ再び蘇る。
老人の脳の様に萎縮し、形状も崩れ、一部では溶解すら始まっていた茜の脳……いや、あれは既に脳と呼べる機能と働きを持つものとは言えない程であった。
「あんただって、分かってるんでしょ……呪術? 儀式? そんな事をしたって、もうこの子は……二度と……」
ティエラの言葉が容赦無く僕を責め立て、追い詰める。
そして、僕は頭が割れそうなくらいに激しい頭痛と吐き気に襲われる。
「黙、れ……」
僕は息を切らしながらティエラの言葉を遮る様に彼女の首へ手を伸ばし、彼女の喉元を締め上げる。
「殺す……? 好きにすれば……? 何も、変わりはしない、けれど……」
「認めない……認めてやるものか……こんな、こんな……結果を……っ」
そして、ティエラの言葉を否定し続ける。
……だが、本当は分かっていた。ティエラに言われなくとも頭ではとっくに理解していたのだ。
けれど、認めたくない。認めてしまえば、僕とティエラの世界は終わりを迎えてしまう。
だから、呪術、儀式……何でも良い。ティエラの魂の救済が期待できるのなら、僕は何にでも縋る。
「誰か……教えてくれ……僕は、僕は……どうすれば、良いんだ……?」
僕は両手に力を込めながら、茜でもティエラでも無い、誰かに教えを請うも、当然答えなど返っては来ない。
茜は目覚めなかった。それだけが確かな現実。
そして、認めざるを得ない。
この先、あらゆる手段を用いて脳死の茜と向き合い続けても……茜は戻って来ないのだ、と。
「誰か……誰か」
こうして僕は、茜を失った。
その現実を突きつけられ、追い詰められた時……僕はティエラの首元を締める手を緩め、その場に力無く座り込む事しか出来なかった。
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