禁じられた遊び-醜悪と性愛の果て-

柘榴

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第5話 心の傷跡Ⅰ

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 仕事を終え、真奈は自宅へ帰宅する。 
 真奈も夫も共働きで、家族が自宅に揃うのは二十時以降である事がほとんど。それまでの間は息子の悠斗が留守番をしていることが多かった。

 まだ小学生の悠斗を留守番させておく事に多少の心配はあったが、常に戸締りや早めの帰宅をするよう徹底させていたので、今まで何かしらのトラブルなどに巻き込まれることも無かった。

 だが、この日は少し様子がおかしいことに真奈は気付いた。

「……? 鍵、閉め忘れたのかしら」
 いつも施錠されているはずの自宅の鍵が施錠されていなかったのだ。今まで、悠斗が施錠を忘れることなど無かったので、少し不安に感じた。
 しかし、部屋の明かりはついていて、家にいることは違いない。
「ただいま、悠斗? いるの?」
「おかえりママ!」
 真奈が玄関に入ると、悠斗が帰りをずっと待っていたかのように居間から飛び出してくる。
 普段、寂しい思いをさせているからこそ、真奈や夫の帰りを悠斗は心待ちにしている。
「……悠斗、パパかママが帰ってくるまで鍵は閉めておきなさいって言ってるでしょ。今時は物騒なんだから……」
「あ、うん……ごめんなさい。けど……」
 真奈の言葉に、悠斗は視線を逸らす。
 どうやら、単に施錠を忘れたのではなく、何か理由がるようだった。
「どういう……」
 するとその時、真奈の言葉を遮るように居間からもう一人、招かれざる客が真奈の前に姿を現した。 
 乱れた長髪に包帯、ガーゼに包まれた女の姿。見間違えるはずも無かった。
「あ、おかえりお姉ちゃん。お邪魔してるよ~。鍵はね、私が悠斗君に入れてもらった時に私が開けといた。どうせお姉ちゃんすぐに帰ってくると思ってさぁ」
 そこに立っていたのは紛れもなく加奈だった。
 不気味な笑みを浮かべたまま、玄関の真奈と対峙する。
「加奈……あんた、何しに来たのよ」
「酷いなぁ、共働きで悠斗君が寂しい思いしてるっていうからさ、お母さんから合鍵借りて……っていうか、勝手に持って来て入っちゃった、へへ」
 真奈は実家に戻った時、母がいつでも孫の悠斗に会いに来れるようにと自宅の合鍵を渡した。だが、加奈に合鍵など渡すはずも無かった。
 何故なら、真奈の罪を知る加奈の存在は、真奈の新しい家族と生活を脅かす危険性を孕んでいたからだ。

「加奈お姉ちゃん、ずっと遊んでくれてたんだ! 全然寂しくなかった!」
 真奈の心中も知らず、悠斗は輝かしい笑顔でそう語る。
 どうやら、加奈に妙な真似はされていないようでひとまず真奈は安心する。

「……そう、わざわざありがとね加奈」
 悠斗の手前、あまり加奈を疑る事もできず、真奈は建前上、感謝をしておく。
 それに、加奈を下手に刺激する事も避けたかった。母の話を聞く限り、今の加奈は明らかにまともな精神状態ではないことは明白だったからだ。

「いいのいいの。可愛い甥っ子の相手だもん、いろーんな遊びもあって楽しくて仕方ないくらい」
 悠斗の頭を撫でながら、加奈が卑しい笑みを浮かべる。
 それを見て、真奈は今までに感じたことのないような悪寒と悪意を感じた。
 いや、厳密には似たような感覚なら知っていた。それは、過去に真奈が由宇に向けていた、卑しく醜悪な感情と類似していたのだ。
「……加奈、ちょっとこっち来なさい」
 真奈は感じ取った悪寒と悪意を背に、加奈を二階の寝室へと連れ込んだ。

 悠斗を居間に戻らせ、真奈は加奈を寝室へ連れ込み、二人きりの空間を作りだした。
「あんた、悠斗に変な真似してないでしょうね。もし何かしたら本気で許さないから」
「変な真似? お姉ちゃんの言う変な真似ってなんだろうねぇ?」
 加奈は夫婦のベッドに寝ころびながら、小馬鹿にしたような態度で真奈を挑発する。

「ふざけないで……」
「例えばぁ、お姉ちゃんが由宇にしたこととか?」
 加奈は鼻で笑う。
 不謹慎な冗談に、真奈は加奈の胸倉を掴み、ベッドから加奈を引きずり下ろす。
「あんたね……っ!」
「嫌だなぁ、冗談冗談。そんな怒らないでよお姉ちゃん」
 しかし、加奈の笑みは全く崩れていなかった。
 不気味なくらいに、加奈の表情は愉快そうに輝いていたのだ。

「何が目的かは知らないけれど……とにかく、もう悠斗には近づかないで。余計な詮索もね」
 こんなトチ狂った加奈が悠斗に何か妙な真似をしないという確証も無い。
 何としても、加奈を自身の生活に関わらせてはいけない、真奈は本能的にそう感じ取った。

「でも、悠斗君寂しそうだったけどなぁ」
「これはウチの問題よ! あんたには関係ないわ!」
 真奈は強引に加奈から合鍵を取り上げ、その日は加奈を自宅から何とか追い返すことに成功した。

 それから数日間は加奈に何の動きも無かった。実家の母にも連絡し、加奈を見張っておくように頼んだ。
 母に渡しておいた合鍵も回収し、いくら加奈でもこれ以上何かしてくるような愚かな真似はしないだろうと真奈は勘ぐっていた。

 しかし、それは大きな失態だった。
加奈の狂気は、真奈の予想を大きく上回っていたのだ。

「おかえり! ママ、遅かったね!」
「おかえり、夫婦そろって育児放棄なんて、悪い母親だねぇ」
 母から合鍵を取り上げてからわずか三日後の事だった。自宅に帰ると、加奈が悠斗と共に夕飯の支度を行っていたのだ。

「あんた……どうして」
「悠斗君に会いたくてさぁ、放っておけないし、我慢できなくて来ちゃった、へへ」
 合鍵は取り上げたし、予備の鍵は他にないはず。
 すると、真奈の反応を面白がるように、加奈が指の先から一本の鍵をぶら下げる。
 それを見て、真奈の顔から血の気が引く。鍵を取り上げる前に、加奈はスペアの鍵を作っていたのだ。
 そして、そのスペアの鍵を使い、加奈は何の躊躇もなく悠斗に会いに来ていたのだ。その用意周到さに、真奈は心の底から加奈へ恐怖を感じた。

「ママ、加奈お姉ちゃんがね、お風呂入れてくれたの! いつも一人だったけど、すごく楽しかったんだ!」
「……ッ」
 その瞬間、加奈が真奈の方を見て静かに笑みを浮かべる。
そして、真奈の頭の中に過去の忌々しい記憶が蘇る。

 男女の裸体が忌々しく絡み合う、悪夢のような光景。それは、真奈と加奈と由宇の三人。
 そして、更に想像してしまう。加奈と悠斗の裸体が、歪に絡み合う悪夢のような光景を。

「……加奈ッ!」
 真奈は悠斗の目も気にせず、加奈の髪を鷲掴みにし、再び二階の寝室へと連れ込んだ。

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