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1.ギルド編
第43話 後悔(エイナ目線)
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私、エイナは酷く個人的な理由だと分かっていながら、翔というあの冒険者を意識せずにはいられなかった。
何故なら彼は今までまるで音沙汰がなかった恩人に推薦され、冒険者となった存在なのだったから。
……いや、それだけでは無い。
それだけであれば、その恩人の無事を喜びはすれ、ここまで感情的になることはなかっただろう。
……翔野格好が、伝聞に聞く黒髪黒目というそんな格好でなければ。
そして彼が勇者なのだとすれば、それは恩人であるあの人を裏切った王国がまたあの人を利用したこと以外の何者でもなかった。
だから私は感情的に彼に接した。
いや、感情を抑えられなかった。
あの人に対する王国の態度、それは決して許すことのできないもので、だからこそその上であの人を利用しようとする王国の手先が許せなかったのだ。
……けれども、彼が勇者などという存在ではないことを直ぐに私は悟ることとなった。
王国でさ蔑みの対象となるはずの冒険者達と直ぐに親交を深めた彼の様子、それこそが彼が勇者という存在ではない何よりの証拠だった。
しかし、そのことがわかりながらも、私は素直に彼を受け入れることはできなかった。
最初のように決して業務に私情を挟むつもりはない。
けれども、プライベートに関しては別だと、彼に対して好意的な感情を持たないようにしたのだ。
それは本来なら決して問題になるようなことではなかっただろう。
いち冒険者といちギルド職員の険悪な仲、それは他のギルドであればよく話で、そしてその関係を業務に持ち込まなければ何の影響もない。
「俺は悪くない!あんただって、俺と同じようにあいつを疎んでただろうが!」
……けれども、ようやく今になって私は自分が周りにどれほどの影響を及ぼしていたのかを悟ることになった。
自分は悪くない、そう叫びながらことの有様を全て暴露したギルド職員。
だが、彼ともう1人ペアの行動は明らかに問題があった。
何せ、新人冒険者が気づいた痕跡に対して、彼は新人だからと、無視してその結果これほどの被害を生み出したのだから。
「あの状況なら、誰でも逃げる!」
……そして今、私の目の前でそう自分を正当化しているギルド職員に関しては論外だった。
何せ彼は自分の失態を悟りながら、それでも逃亡を選んだのだ。
たしかにあの状況ならだれか知らせに行くものが必要になる。
けれども、それは普通なら後衛のギルド職員か、新人冒険者に託す役目だった。
何せ彼が見た状況では、普通よりも強力なダイウルフと、ポイズンウルフのリーダーという、乱戦になれば後衛ならばほとんど役に立たない状況だったのだから。
「っ!」
それは考えられる限り、最悪の状況で。
……けれども、その責任の一端が自分にあることを私は悟っていた。
あの時私はたしかに適正なレベルだと、それどころか容易にこなすだろうとさえ考え翔の依頼を決めた。
……けれども、その際に私は共に行くギルド職員に関して何らかの考えを巡らしてはいなかった。
……いや、それどころか私は自分か周りに与える影響力に関しても考えようとせず、その結果が今の状況を引き起こしたと言っても過言ではない。
ーーー そして、その自身の失態で今もなお、かけるは危機に陥っているのだ。
その私の感情の高ぶりで私の手に力が入り、大剣の切っ先が震える。
「ま、まってくれ!俺は悪くない!仕方がなかったんだ!」
そしてその私の興奮に気づいてギルド職員が焦ったように声をあげるのがわかる。
その言葉は変わらない自己弁護の言葉で、私は怒りを覚える。
けれども、今はそれどころではないことを私は分かっていた。
「黙れ!」
「っ!」
そんな言葉と共に手に持っていたギルド職員を投げ捨て私は走り出す。
「他の人間は全員避難してくれ!」
そして私はその言葉を最後に、間に合ってくれと願いながら走り出した……
何故なら彼は今までまるで音沙汰がなかった恩人に推薦され、冒険者となった存在なのだったから。
……いや、それだけでは無い。
それだけであれば、その恩人の無事を喜びはすれ、ここまで感情的になることはなかっただろう。
……翔野格好が、伝聞に聞く黒髪黒目というそんな格好でなければ。
そして彼が勇者なのだとすれば、それは恩人であるあの人を裏切った王国がまたあの人を利用したこと以外の何者でもなかった。
だから私は感情的に彼に接した。
いや、感情を抑えられなかった。
あの人に対する王国の態度、それは決して許すことのできないもので、だからこそその上であの人を利用しようとする王国の手先が許せなかったのだ。
……けれども、彼が勇者などという存在ではないことを直ぐに私は悟ることとなった。
王国でさ蔑みの対象となるはずの冒険者達と直ぐに親交を深めた彼の様子、それこそが彼が勇者という存在ではない何よりの証拠だった。
しかし、そのことがわかりながらも、私は素直に彼を受け入れることはできなかった。
最初のように決して業務に私情を挟むつもりはない。
けれども、プライベートに関しては別だと、彼に対して好意的な感情を持たないようにしたのだ。
それは本来なら決して問題になるようなことではなかっただろう。
いち冒険者といちギルド職員の険悪な仲、それは他のギルドであればよく話で、そしてその関係を業務に持ち込まなければ何の影響もない。
「俺は悪くない!あんただって、俺と同じようにあいつを疎んでただろうが!」
……けれども、ようやく今になって私は自分が周りにどれほどの影響を及ぼしていたのかを悟ることになった。
自分は悪くない、そう叫びながらことの有様を全て暴露したギルド職員。
だが、彼ともう1人ペアの行動は明らかに問題があった。
何せ、新人冒険者が気づいた痕跡に対して、彼は新人だからと、無視してその結果これほどの被害を生み出したのだから。
「あの状況なら、誰でも逃げる!」
……そして今、私の目の前でそう自分を正当化しているギルド職員に関しては論外だった。
何せ彼は自分の失態を悟りながら、それでも逃亡を選んだのだ。
たしかにあの状況ならだれか知らせに行くものが必要になる。
けれども、それは普通なら後衛のギルド職員か、新人冒険者に託す役目だった。
何せ彼が見た状況では、普通よりも強力なダイウルフと、ポイズンウルフのリーダーという、乱戦になれば後衛ならばほとんど役に立たない状況だったのだから。
「っ!」
それは考えられる限り、最悪の状況で。
……けれども、その責任の一端が自分にあることを私は悟っていた。
あの時私はたしかに適正なレベルだと、それどころか容易にこなすだろうとさえ考え翔の依頼を決めた。
……けれども、その際に私は共に行くギルド職員に関して何らかの考えを巡らしてはいなかった。
……いや、それどころか私は自分か周りに与える影響力に関しても考えようとせず、その結果が今の状況を引き起こしたと言っても過言ではない。
ーーー そして、その自身の失態で今もなお、かけるは危機に陥っているのだ。
その私の感情の高ぶりで私の手に力が入り、大剣の切っ先が震える。
「ま、まってくれ!俺は悪くない!仕方がなかったんだ!」
そしてその私の興奮に気づいてギルド職員が焦ったように声をあげるのがわかる。
その言葉は変わらない自己弁護の言葉で、私は怒りを覚える。
けれども、今はそれどころではないことを私は分かっていた。
「黙れ!」
「っ!」
そんな言葉と共に手に持っていたギルド職員を投げ捨て私は走り出す。
「他の人間は全員避難してくれ!」
そして私はその言葉を最後に、間に合ってくれと願いながら走り出した……
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