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第5話
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「そんなこと了承できる訳が無いでしょう!」
お父様のあまりにも理不尽な言葉に、私は感情を露わにして叫んだ。
幾らアリミナが妹だろうが、彼女に婚約者を譲る気になど、ある訳がなかった。
絶対にそんなこと了承しないという意思を込め、私はお父様を睨みつける。
「……私達は公爵家の人間だ。あの昼行灯の王子を逃したとしても、婚約者候補は多い。今回の婚約が破談となっても、お前の未来になんの支障もないのだぞ」
「っ!」
……だが、お父様にその思いが伝わることはなかった。
面倒臭そうに告げられたその言葉に、私は激しい怒りを覚える。
間違えているのは貴方なのに、当然のようにそんな言葉を口にできるのかと。
それにあの人を、ライルハート様をお父様が馬鹿にするのをどうしても私は許せなかった。
あの人が、どれだけ苦労してきたのか何も知らないくせに。
その思いを胸に、私はお父様へと微笑みかけた。
「その言葉は是非、アリミナに言ってあげてくださいませ」
私の態度に、お父様の顔が歪む。
「……当主命令だと言ってもか?」
次の瞬間、確認するように問いかけてきたお父様に対し、表面上は笑顔で私は即答した。
「王族との婚約を公爵家ごときが潰せるとでも?」
「……引く気は無しか」
その時になってようやくお父様は、私に引く気がないことを理解し、苦々しい顔を浮かべた。
そう、幾ら公爵家当主であろうが、王族との婚約には大きく介入することはできないのだ。
せめて、当人が了承しなければ。
そして、私に了承する気など欠片も存在しなかった。
それを知るからこそ、私は余裕の態度を保つことが出来て……だからこそ、次のお父様の言葉に私は動揺を隠せなかった。
「では、全てをあの第二王子に決めてもらうことにするしかないな。アリミナとお前、一体どちらがいいか本人に決めてもらおう」
「………え?」
そのお父様の言葉に、私は呆然と立ち尽くすこととなった。
その状態の中、私は考えられる限り最悪の状況となったことを悟る。
お父様の言葉はアリミナがどんなことをしようが、自分は何も手を出さないという宣言と同義だ。
その結果、アリミナにライルハート様が恋をしてアリミナとの婚約を望めば、私の意思関係なしに婚約破棄は成立するだろう。
瞬間、私が今まで私にあった余裕は消し飛ぶこととなった。
酷く美しい義妹の姿が、私の頭に浮かぶ。
数々の令息達を骨抜きにしてきたアリミナの美しさを、姉である私はよく理解していた。
……自分なんて、アリミナの足元にも及ばない程度の人間でしないことも。
だからこそ、私はなんとか必死に最悪の事態を避けようとする。
「ま、待って下さい!」
「何をだ?どちらをライルハート様が選ぼうが、公爵家と王家の繋がりは変わりない。だとしたら、私が手を出すのもおかしな話だとは思わないか?」
しかし、その私の言葉をお父様が聞くわけがなかった。
お父様は私の嘆願をあっさりと流し、その顔に嘲りを浮かべて口を開いた。
「それに、これはライルハート様にとっても決して悪くない話ではないとは思わないか?なあ、アイリス。お前との婚約を第2王子は本当に望んでいるのか?──お前と共にいる時、あの王子が笑った所を私は見たことがないぞ」
「───っ!」
……そのお父様の言葉に、私は反論することが出来なかった。
確かに、私はライルハート様のことを愛している。
そして、ライルハート様が私のことをよく気にかけてくれるのも事実だ。
だから、私はライルハート様も私を受け入れてくれていると思っていた。
けれど、お父様の言葉に私は気づいてしまう。
本当にそうなのか、分からないことに。
──なぜならあの日から、ライルハート様が私に微笑みかけてくれることはなかったのだから。
胸を締め付けるような感覚に、何も言えず私はただ黙り込む。
そんな私の姿を鼻で笑った後、お父様は口を開いた。
「話は終わりだ。退がれ」
明らかに私の婚約破棄を確信したそのお父様の言葉、それに私の心に残った僅かな怒りが膨れ上がる。
「……私は認めません」
だが、私にできたのは部屋を後にする直前、負け惜しみのようにそう吐き捨てることだけだった……
お父様のあまりにも理不尽な言葉に、私は感情を露わにして叫んだ。
幾らアリミナが妹だろうが、彼女に婚約者を譲る気になど、ある訳がなかった。
絶対にそんなこと了承しないという意思を込め、私はお父様を睨みつける。
「……私達は公爵家の人間だ。あの昼行灯の王子を逃したとしても、婚約者候補は多い。今回の婚約が破談となっても、お前の未来になんの支障もないのだぞ」
「っ!」
……だが、お父様にその思いが伝わることはなかった。
面倒臭そうに告げられたその言葉に、私は激しい怒りを覚える。
間違えているのは貴方なのに、当然のようにそんな言葉を口にできるのかと。
それにあの人を、ライルハート様をお父様が馬鹿にするのをどうしても私は許せなかった。
あの人が、どれだけ苦労してきたのか何も知らないくせに。
その思いを胸に、私はお父様へと微笑みかけた。
「その言葉は是非、アリミナに言ってあげてくださいませ」
私の態度に、お父様の顔が歪む。
「……当主命令だと言ってもか?」
次の瞬間、確認するように問いかけてきたお父様に対し、表面上は笑顔で私は即答した。
「王族との婚約を公爵家ごときが潰せるとでも?」
「……引く気は無しか」
その時になってようやくお父様は、私に引く気がないことを理解し、苦々しい顔を浮かべた。
そう、幾ら公爵家当主であろうが、王族との婚約には大きく介入することはできないのだ。
せめて、当人が了承しなければ。
そして、私に了承する気など欠片も存在しなかった。
それを知るからこそ、私は余裕の態度を保つことが出来て……だからこそ、次のお父様の言葉に私は動揺を隠せなかった。
「では、全てをあの第二王子に決めてもらうことにするしかないな。アリミナとお前、一体どちらがいいか本人に決めてもらおう」
「………え?」
そのお父様の言葉に、私は呆然と立ち尽くすこととなった。
その状態の中、私は考えられる限り最悪の状況となったことを悟る。
お父様の言葉はアリミナがどんなことをしようが、自分は何も手を出さないという宣言と同義だ。
その結果、アリミナにライルハート様が恋をしてアリミナとの婚約を望めば、私の意思関係なしに婚約破棄は成立するだろう。
瞬間、私が今まで私にあった余裕は消し飛ぶこととなった。
酷く美しい義妹の姿が、私の頭に浮かぶ。
数々の令息達を骨抜きにしてきたアリミナの美しさを、姉である私はよく理解していた。
……自分なんて、アリミナの足元にも及ばない程度の人間でしないことも。
だからこそ、私はなんとか必死に最悪の事態を避けようとする。
「ま、待って下さい!」
「何をだ?どちらをライルハート様が選ぼうが、公爵家と王家の繋がりは変わりない。だとしたら、私が手を出すのもおかしな話だとは思わないか?」
しかし、その私の言葉をお父様が聞くわけがなかった。
お父様は私の嘆願をあっさりと流し、その顔に嘲りを浮かべて口を開いた。
「それに、これはライルハート様にとっても決して悪くない話ではないとは思わないか?なあ、アイリス。お前との婚約を第2王子は本当に望んでいるのか?──お前と共にいる時、あの王子が笑った所を私は見たことがないぞ」
「───っ!」
……そのお父様の言葉に、私は反論することが出来なかった。
確かに、私はライルハート様のことを愛している。
そして、ライルハート様が私のことをよく気にかけてくれるのも事実だ。
だから、私はライルハート様も私を受け入れてくれていると思っていた。
けれど、お父様の言葉に私は気づいてしまう。
本当にそうなのか、分からないことに。
──なぜならあの日から、ライルハート様が私に微笑みかけてくれることはなかったのだから。
胸を締め付けるような感覚に、何も言えず私はただ黙り込む。
そんな私の姿を鼻で笑った後、お父様は口を開いた。
「話は終わりだ。退がれ」
明らかに私の婚約破棄を確信したそのお父様の言葉、それに私の心に残った僅かな怒りが膨れ上がる。
「……私は認めません」
だが、私にできたのは部屋を後にする直前、負け惜しみのようにそう吐き捨てることだけだった……
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