自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸

文字の大きさ
6 / 77

第5話

 「何を仰っているのですか、お父様」

 お父様のあまりにも理不尽な言葉に、私は怒りを覚える。
 必死に怒りを教えながらも、お父様を睨みつける私の目に怒りが混じる。
 アリミナにライルハート様を譲る? そんなことを私が許す訳がなかった。

 「……私達は公爵家の人間だ。あの昼行灯の王子を逃したとしても、婚約者候補は多い。今回の婚約が破談となっても、お前の未来になんの支障もないのだぞ」

 ……だが、お父様にその思いが伝わることはなかった。
 面倒臭そうに告げられたその言葉に、私は激しい怒りを覚える。
 間違えているのは貴方なのに、当然のようにそんな言葉を口にできるのかと。

 それにあの人を、ライルハート様をお父様が馬鹿にするのをどうしても私は許せなかった。
 あの人が、どれだけ苦労してきたのか何も知らないくせに。
 ……自身がその原因でありながら。

 その思いを胸に、私はお父様へと微笑みかけた。

 「その言葉は是非、アリミナに言ってあげてくださいませ」

 私の態度に、お父様の顔が歪む。

 「……当主命令だと言ってもか?」

 次の瞬間、確認するように問いかけてきたお父様に対し、表面上は笑顔で私は即答した。

 「王族との婚約を公爵家ごときが潰せるとでも?」

 「……引く気は無しか」

 その時になってようやくお父様は、私に引く気がないことを理解し、苦々しい顔を浮かべた。

 そう、幾ら公爵家当主であろうが、王族との婚約には大きく介入することはできない。
 せめて、当人が了承しなければ。
 そして、私に了承する気など欠片も存在しなかった。

 それを知るからこそ、私は余裕の態度を保つことができた。
 ただ、同時に私は理解していた。
 ……ある方法を取られれば、その限りではないことを。

 「では、全てをあの第二王子に決めてもらうことにするしかないな。アリミナとお前、一体どちらがいいか本人に決めてもらおう」

「……っ!」

 そして、父が口にした方法こそ私の考えていた方法だった。
 ……常識的に考えれば、そんな方法を取るわけがない。
 そう思っていたが故に衝撃を隠せない私に対し、父の口元に浮かぶのは嫌らしい笑みだった。

 このお父様の言葉はアリミナがどんなことをしようが、自分は何も手を出さないという宣言と同義だ。
 その結果、アリミナにライルハート様が恋をしてアリミナとの婚約を望めば、私の意思関係なしに婚約破棄は成立するだろう。

 酷く美しい義妹の姿が、私の頭に浮かぶ。
 数々の令息達を骨抜きにしてきたアリミナの美しさを、姉である私はよく理解していた。

 ……自分なんて、アリミナの足元にも及ばない程度の人間でしないことも。

 そう理解できるが故に父の判断を私は許すわけにはいかなかった。
 アリミナにライルハート様を託す訳にはいかない。
 故に私は父へと告げる。

「正気ですか? 例えアリミナとライルハート様が婚約しても、どちらにも得がないではありませんか!」

 「何の話だ? どちらをライルハート様が選ぼうが、公爵家と王家の繋がりは変わりない。だとしたら、私が手を出すのもおかしな話だとは思わないか?」

 しかし、その私の言葉をお父様が聞くわけがなかった。
 お父様は私の嘆願をあっさりと流し、その顔に嘲りを浮かべて口を開いた。

 「それに、これはライルハート様にとっても決して悪くない話ではないとは思わないか?なあ、アイリス。お前との婚約を第二王子は本当に望んでいるのか?──お前と共にいる時、あの王子が笑った所を私は見たことがないぞ」

 ……そのお父様の言葉に、私は反論することが出来なかった。

 確かに、私はライルハート様のことを愛している。
 そして、ライルハート様が私のことをよく気にかけてくれるのも事実だ。
 だが私は理解していた。
 自分は決して許されないことをしたことを。

 ──そして、実際にライルハート様が私へと微笑むことが少なくなっているのに私は気づいていた。

 胸を締め付けるような感覚に、何も言えず私はただ黙り込む。
 そんな私の姿を鼻で笑った後、お父様は口を開いた。

 「話は終わりだ。退がれ」

 明らかに私の婚約破棄を確信したそのお父様の言葉、それに私の心に残った僅かな怒りが膨れ上がる。
 あの日から私は覚悟していた。
 もし、ライルハート様が私を必要としなければ、婚約者の立場から引き下がろうと。
 しかし、それは今じゃない。
 アリミナとライルハート様の婚約は二人の為にはならない。

「私は認めませんので」

 その決意を胸に、私は部屋を後にする。
 最後に目に入ったのは、勝利を確信したような父の顔だった。
 
感想 106

あなたにおすすめの小説

何やってんのヒロイン

ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。 自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。 始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・ それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。 そんな中とうとうヒロインが入学する年に。 ・・・え、ヒロイン何してくれてんの? ※本編・番外編完結。小話待ち。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。