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第9話 伯爵ヤラム・マークタット
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それは公爵令嬢マーセリアがアレスターレから追放されてから翌日の昼下がりのこと。
「本当に気分のいい日差しだ」
私、マークタット伯爵家当主ヤラムはひどく上機嫌で歩いていた。
その頭のなかに浮かんでいるのはあの不遜な女マーセリアがこの国を追放された時のことだった。
マーセリアは本当に最後まで憎々しい女だった。
何せあの女は王殺しの罪を追放だけで許され本来であれば泣いて感激せねばならぬところなのにもか関わらず、恥知らずにも自身の財産をひとつとして残すことなくアレスターレから去ったのだ。
マーセリアの自室を探り何一つとして金目のものがないことを知った時、私達は直ぐにアレスターレからマーセリアを探すように達したがその時すでに手遅れだったのだ……
それからしばらく私はマーセリアの欲深さを恨むこととなった。
マーセリアは生意気な上、偶然が重なって名声が上がっただけの女だったが、それでも溜め込んだ金の量だけは確かだったのだ。
その金を他の貴族と当分されたとしても、1割でも手にすることが出来れば今ごろ私は豪華絢爛な生活を遅れていただのだから。
「まあ、今となっては感謝してもいいくらいだが」
けれども、今の私にはマーセリアにたいする怒りは存在しなっかた。
いや、それどころかマーセリアに感謝しているといっても過言ではなかった。
ーーー何せ今の私はマーセリアから手柄を与えて貰ったも同然なのだから。
「おや、もうこんな時間か。急いだ方が良さそうだな。ルスタニアの外務大臣を待たせるわけには行くまい」
ポケットから取り出した銀時計を見た私はそう呟いて早足で歩き出す。
……その口許は優越感に満ちた笑みが浮かんでいた。
◇◆◇
ルスタニア、そこはアレスターレの隣に接する国で精強な兵と英雄と名高い一人の将軍より、絶大な軍事力を有する大国である。
だが、ルスタニアでもっとも恐るべきは英雄だけではなかった。
ルスタニアの要注意人物は英雄ともう一人存在する。
そしてその人物こそが古狐と呼ばれる狡猾な外務大臣、今から私が同盟を結ぶために会談する男だった。
彼の名はアグルス・マーテリ。
アレスターレの文官にとって絶対に外交での会談は絶対に避けたいと言わせる男だ。
普通、外交では相手の国から少しでも有利な条件を引き出すことを求められる。
けれども、アグルスと会談した文官は何故か自国に不利な条件を飲んで戻ってくる。
……それが不利であることにも気づかず。
それがアグルスの弁舌の才能だ。
文宦たちでさえ、アグルスにはあっさりと騙される。
だからアグルスとの会談は絶対に避けようとする。
何せアグルスと会談すること、それすなわち身分の降格に繋がるのだから。
当たり前のことだが、自国に不利な条件を飲んでしまった文官は責任を問われ降格されるのが普通なのだ。
「まあ、降格など私にはあり得ないことなのだがな」
けれども今からアグルスと会談するのにも関わらず、私には一切不安はなかった。
何故なら私は知っているのだ。
今から行うアグルスとの会談の結果を私は知っているのだから。
いや、もうすでにほとんど決まっているといった方が正しいか。
ーーー何せ、アグルスとの会談はもうすでにマーセリアが決めているのだから。
そう私は今から、マーセリアがほとんど最後まで締結しかけていたアレスターレとルスタニアの同盟、その手柄だけを奪おうとしていた。
「本当に気分のいい日差しだ」
私、マークタット伯爵家当主ヤラムはひどく上機嫌で歩いていた。
その頭のなかに浮かんでいるのはあの不遜な女マーセリアがこの国を追放された時のことだった。
マーセリアは本当に最後まで憎々しい女だった。
何せあの女は王殺しの罪を追放だけで許され本来であれば泣いて感激せねばならぬところなのにもか関わらず、恥知らずにも自身の財産をひとつとして残すことなくアレスターレから去ったのだ。
マーセリアの自室を探り何一つとして金目のものがないことを知った時、私達は直ぐにアレスターレからマーセリアを探すように達したがその時すでに手遅れだったのだ……
それからしばらく私はマーセリアの欲深さを恨むこととなった。
マーセリアは生意気な上、偶然が重なって名声が上がっただけの女だったが、それでも溜め込んだ金の量だけは確かだったのだ。
その金を他の貴族と当分されたとしても、1割でも手にすることが出来れば今ごろ私は豪華絢爛な生活を遅れていただのだから。
「まあ、今となっては感謝してもいいくらいだが」
けれども、今の私にはマーセリアにたいする怒りは存在しなっかた。
いや、それどころかマーセリアに感謝しているといっても過言ではなかった。
ーーー何せ今の私はマーセリアから手柄を与えて貰ったも同然なのだから。
「おや、もうこんな時間か。急いだ方が良さそうだな。ルスタニアの外務大臣を待たせるわけには行くまい」
ポケットから取り出した銀時計を見た私はそう呟いて早足で歩き出す。
……その口許は優越感に満ちた笑みが浮かんでいた。
◇◆◇
ルスタニア、そこはアレスターレの隣に接する国で精強な兵と英雄と名高い一人の将軍より、絶大な軍事力を有する大国である。
だが、ルスタニアでもっとも恐るべきは英雄だけではなかった。
ルスタニアの要注意人物は英雄ともう一人存在する。
そしてその人物こそが古狐と呼ばれる狡猾な外務大臣、今から私が同盟を結ぶために会談する男だった。
彼の名はアグルス・マーテリ。
アレスターレの文官にとって絶対に外交での会談は絶対に避けたいと言わせる男だ。
普通、外交では相手の国から少しでも有利な条件を引き出すことを求められる。
けれども、アグルスと会談した文官は何故か自国に不利な条件を飲んで戻ってくる。
……それが不利であることにも気づかず。
それがアグルスの弁舌の才能だ。
文宦たちでさえ、アグルスにはあっさりと騙される。
だからアグルスとの会談は絶対に避けようとする。
何せアグルスと会談すること、それすなわち身分の降格に繋がるのだから。
当たり前のことだが、自国に不利な条件を飲んでしまった文官は責任を問われ降格されるのが普通なのだ。
「まあ、降格など私にはあり得ないことなのだがな」
けれども今からアグルスと会談するのにも関わらず、私には一切不安はなかった。
何故なら私は知っているのだ。
今から行うアグルスとの会談の結果を私は知っているのだから。
いや、もうすでにほとんど決まっているといった方が正しいか。
ーーー何せ、アグルスとの会談はもうすでにマーセリアが決めているのだから。
そう私は今から、マーセリアがほとんど最後まで締結しかけていたアレスターレとルスタニアの同盟、その手柄だけを奪おうとしていた。
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