婚約破棄～追放された悪役令嬢～

第7話

 「な、何でこんなところに平民が！」

 突然現れた平民、それにレイナが顔に浮かべたのは嫌悪感だった。
 隠そうともしないその表情に、貴族達も賛同するかのように蔑みの視線を平民達に送る。

 「み、みんな？」

 けれども、その時貴族の様子に私は全く気づいていなかった。
 その眼に映るのはこの場所に突然現れた平民達。

 「おぉ、ルイア！助けに来たぞ！」

 何故なら彼らは私の本当の家族、つまり今まで一緒にいた人間なのだから。
 そしてその家族達は私を助けるために必死にここまでやって来てくれていた。
 そのことを私は彼らの顔から悟る。

 「来ないで！」

 ……だからこそ、私はそう叫んだ。

 レイナが平民を虐めたとして私を追放しようとした理由、それは決して平民を虐めることが重い罪だからではない。

 平民ならば何を言われても黙殺することができるからだ。

 つまり、ここで皆が助けに来てくれるということは貴族に狙われる可能性があることを示していて……
 だから、私はそう必死に叫ぶ。

 「ふざけるな！そんなこと聞けるか！お前の罪だっておれ達が聞かされたのは殆ど他の貴族がおれ達にやって来たことだぞ！そんなこと、認められるはずが！」

 けれども、その私の言葉をみんなは聞こうとしなかった。
 顔に怒りまで浮かべ、私の言葉を拒否する。
 それには心の底からの私への親愛の情が浮かんでいて……

 「私はそんなこと望んでないから！」

 けれども、その言葉を私が認めるわけにはいかなかった。
 そな言葉を認めて、私が逃げようとでもしたら最後、家族達は死ぬことになるかもしれないのだ。
 そんなこと、絶対に私が認めるわけにはいかなくて……

 「へぇ、貴女がそんな顔を浮かべるなんて」

 「っ！」

 だけど、もう手遅れだったことを耳元で囁いたレイナの姿に私は悟った。
 顔から血の気が引いて、ここに来て最大の動揺を漏らしてしまったことを私は悟る。

 「お願い！あの人達だけは！」

 けれども、今の私にそんなことを気にしている余裕などなかった。
 必死に頭を下げてレイナへと頼み込む。

 「ふん！そんなこと、誰が聞くと思いますか？」

 「くっ！」

 ……しかし、その私の嘆願をレイナは鼻で笑った。
 そしてその態度に私は悟る。

 レイナは私へと嫌がらせのためだけに家族を殺そうとすることを。

 「やめて！お願い！いえ、お願いします！」

 私は必死にレイナへと嘆願する。
 家族を殺される、そんなことを私は認めることが出来るはずがなかった。
 そんなことがあり得ないように、そのために私は素直にこの場に来たのだ。
 もしかしたら家族に危害が及ぶかもしれないが、絶対にそんなことは許さないと誓って。

 「だから、誰が貴女の言うことなんて……」

 だが、そんな私に対して一切レイナは頷くことはなかった。
 そしてそのレイナの態度に私の胸に黒い絶望が凝り固まって行く。

 「いや、そんな奴に嘆願する必要なんて無いぞルイア」

 「っぁ、」

 ーーー しかし、その時私と同じくらい怒りが込められた声がその場に響いた。

 そしてその声の主は私の頭に手を置く。

 「レイス」

 それから声の主、王子は大声で何者かの名前を呼んだ……