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弥衣の罪

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 鷲倉小夜とは天使様との運命ともに関係を深めることになったが、それ以前の彼女への印象はよく言えばクールや悪く言えば無愛想。カリスマ的なオーラを纏った大人な女性作家であった。

 いざその彼女と会うようになって彼女の人間性も見えてきた。高雛零梛くんを誘拐したのはその場の流れ、とは言え現在高雛零梛くんを解放していないことを鑑みると自信の興味や欲求に対しては甘いようだ。かと言ってそれが悪なのかは誘拐された本人にしかわからない。

 当の本人と言えば健康体そのものそれどころか美しく優しい男の子に育った。二人の間は親子とは少し違うが互いを大切にしているのが伝わってきた。無愛想と評したが鷲倉小夜は彼の前ではよく笑う。そして彼もよく笑う。

 私は度々そこを訪れまるで家族かのように迎え入れてくれる二人をとても大切に思っていた。

 しかし、鷲倉小夜は時々曇った表情を浮かべていることに気がついた。

 罪悪感。犯罪。誘拐。思想。自我のない子どもを自身の籠の中に閉じ込めてしまっている。不自由なく見えていても、その中身は彼の根底の願いなど汲めていないのではないか。

 様々な葛藤を鷲倉小夜が抱えていることを本人が話してくれた。それでも、私には彼女のために家事をして、彼女に褒められたくて学び、彼女と一緒にいたいと考える天使様を知っている。誘拐の事実を口に出さないというだけ私は、「大丈夫ですよ。なんとかなります」なんて簡単に言えてしまう。全身をこの犯罪に浸かってはいないと思い込んでいたから。

 幸せに見えるこの空間が薄氷の上にあることを私は見ないふりをした。


ーーー


 鷲倉朝日とは古い知り合いなのだが印象としては変なやつだった。姉自慢をよくしていて自分も凄い人なのによく聞かされたものだ。

 鷲倉朝日と知り合いであることは鷲倉小夜には話せていない。しかし、彼女は私を覚えていたのは妹経由で私を簡単に知っていたからかもしれない。

 そして鷲倉朝日には鷲倉小夜が何をしているのかについて話せてはいなかった。


ーーー


 薄氷は簡単に鷲倉小夜自身が砕いた。通報をして自分が犯罪という業を背負ってまで獲得した男の子を突き放す形で。

 私は鷲倉小夜が天使様を詰める場面に居合わせた。涙が止まらなかった。今目の前の二人は今が壊れることを分かっていて、鷲倉小夜壊し方を壊すきっかけを、天使様は回避方法、目を逸らす方へ思考を巡らせている。

 互いを大切に思っているはずなのに大人と子ども、外を知るものと知らぬもの。二人の隔たりは意見として現れた。

 しかし、きっと来る終わりはわかっている。この時間がここまで続いていること自体奇跡なんだ。世間では高雛零梛くんは捜索されている。稜梛ちゃんの証言で話が逸れていたとしても、いつ鷲倉小夜に目が向くかわからない。

 天使様の望む現状維持は不可能。

 私は今になって問題への無関係を貫いてしまったことを後悔する。私は本来この場にいる権利すらない。この二人のために何もしていないのだから。罪を黙っている。なんて考えていたが、これは私が逃げたんだ。向き合うこともせずただこの二人の幸せの上澄みを啜っていただけ。

 今流れる涙は二人ためなのか、後悔から無様に泣いているだけなのか。自分を守るためなのか。私は自分の涙の正体さえ掴めないままだ。


 そして、そこからは全てが早かった。

 鷲倉小夜はすぐに終わりを始めてしまった。

 天使様から電話が来て戸惑って、驚いた。それでも予兆はあったんだと。泣いても解決しないこと、後悔したことを胸に刻んで彼の手助けをしたいと思った。

 私は話を聞いてあげることしかできなかった。

 搬送される病院が鷲倉朝日のいる病院だと気がついてすぐに電話をかけた。今まで何も話していないけど彼女なら彼の理解者になってくれる。

 彼女は終始優しく話してくれた。その様子は姉妹を感じさせた。

 呼び出されて病院に行く。そこから私の知っている話を電話の時より詳しく彼女に話した。その間も彼女は微笑んで話を聞いた。

「姉さんはそういう人だよ。変なところで思い切りが良くて、少しだけ臆病なの。でもとっても優秀で優しい人だったでしょ?」

 鷲倉朝日は話を聞いただけでわかったんだ。私が二人を必死に擁護する必要なんてなくて、理解して二人の関係を受け入れたんだ。

 私が目を逸らしたそれに朝日さんはきっと行動を起こせてしまう。

「ありがとう。二人を見守ってくれて。そしてまだ終わってないよ。むしろこれから、堂々と二人がまた会えるその日が来ることを弥衣は信じているんだろ?」

 そうだ。私は過去を悔やむだけじゃなくて二人のために何かしたい。天使様を守りたいと思うからここへ来たんだ。

 まだここからだ。


 数日しか経っていない彼は変わっていない。それどころか現実が変わったのかと思わされる程の魅力を持っている。

 そして私は光栄にも搾精をすることになって、彼は私に口づけをした。見ていただけ、上澄みだけ啜っていた私を彼は愛してくれている。大切に思ってくれている。身に余る幸せは私が彼のために、小夜さんのためになりたいという気持ちを覚悟に変えた。
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