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第四十一章
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折角、回避したのに。
アンネマリーは、わざわざ遠回りしたのに、それが結局徒労に終わってしまったことを残念に思った。ここにきて面倒な集団とかち合った。
アンドリューは王国の第三王子で、アンネマリーやリリベットより一つ年下。学園にはこの春入学したばかりである。王族の入学は数年ぶりで、彼の人気は高い。
先ほどの人集りも、アンドリュー見たさアンドリューに接触したい令嬢たちが、甘い蜜に集る蟻のように集まったものだ。
幼い頃にクローディアに連れられて参加した王城の茶会。それがアンドリューとの初めての出会いだった。
そう言えば、あの日もアンドリューはこんな風に手を差し伸べてきた。アンドリューに手を引かれて、アンネマリーは王城の庭園を散策したのだ。あれはとても楽しかった。
アンドリューは、あの頃と同じようにこちらに手を差し伸べて、
「これから昼食?丁度良いね、僕らも今からなんだ一緒に行かないか」
まるでエスコートでもするように、そう言った。
幼い頃には、庭園の散策が猫がまたたびに引き寄せられるように魅力的に思えたが、今のアンネマリーは違った。
「お誘い頂きありがとうございます。ですが私、これから用がありまして、教室に戻るところなんです」
アンネマリーは今直ぐ教室に戻ったなら、数学教師から借りた本を貪り読むのだ。だからその手を引っ込めてほしい。
キラキラ金髪頭の王子様と一緒に歩いて、きゃーきゃー言う黄色い声を一緒に浴びるつもりは毛頭ない。
「ふうん。用ってコレのことかな?」
アンドリューはそう言ながら、こちらに一歩近づいて、アンネマリーが大切そうに胸に抱え持つ本を人差し指でトンとつついた。
指先でトンとつついただけなのに、その小さな振動はアンネマリーの身体に直接響くようだった。
「あの教師から?」
「あのとは、どの?」
「あいつだよ」
「あいつとは、どいつ?」
トンチンカンな問答を交わすように、二人の会話は噛み合わない。
アンドリューはアンネマリーへ向けた視線を、横にいるリリベットへ移した。リリベットはそれを面倒に思ったのか、わかりやすく顎を上げて「何?」という素振りをした。
伯爵令嬢でありながら、こんな行為を不敬と思わないリリベットは猛者だと思う。
「リリベット。君が側にいて何をしてたんだ?」
「私たち、課題ノートを届けただけですもの。後ろめたいことなんて一つもございませんわ」
「へえ。男性教師の部屋に?」
「他にどこへ行けと?先生に届けるのに先生の部屋を訪ねるのは当然でしょう?」
リリベットに口で勝てると思うのだろうか。アンネマリーは、アンドリューはまだまだだなと思いながら二人を眺めた。
「先生、先生というけれど、ヤツは歴とした男だよ。間違っても女子だけで会うべきではないし、こんな風に気安く手なずけられては困るんだ」
矛先はリリベットから直ぐにこちらに戻されて、アンネマリーは次は自分が攻撃をうけるのだなと気がついた。
「『天体運行の周期について』。王城の図書室にこの続編がある」
「え!」
なんですと?そういうことなら話は違う。もう早く言ってよ~。
案外現金なアンネマリーは、先ほどまで面倒なのに捕まったと辟易していたことをすっかり忘れた。
「アンネマリー、釣られちゃ駄目よ」
「君は邪魔立てしないでくれないか」
「殿下、昼食に行くのでしょう?お早くなさっては?席がなくなりましてよ」
再びアンドリューとリリベットがわちゃわちゃしだして、廊下の真ん中で王子集団VS女子生徒の構図となった。
「殿下。その話」
「駄目よアンネマリー。そんな餌に乗せられちゃ」
「リリベット黙ってくれないか、今アンネマリーが話してるんだ」
アンドリューはリリベットをキッと睨んでから、アンネマリーに微笑んだ。
「続編には、外惑星について書かれているよ」
「え!」
外惑星とは遠い星々である。肉眼で見えるのは土星が最も近くそれが限界である。薄っすら赤みを帯びたその星をアンネマリーも知っている。
だがそれよりも更に遠い星、天王星とか海王星については、望遠鏡観測でしか見られない。
星好きのアンネマリーにとって、外惑星は憧れのお星さまなのだ。
面白いほどあっさり釣られたアンネマリーに、アンドリューはうっそりと笑みを深めた。
「読みたい?なんなら図鑑もあるよ?あんな男から借りるより、ずっともっと君が楽しめる書物が他にも沢山あるんだよ」
そうだな、とアンドリューは何か考えるような仕草をしてからは再びアンネマリーを見た。
「今度の休みの午後なら君を案内できるな。王城の図書室には王族しか入れないが、」
そう言って、もう一歩前に踏み出す。
もう既に十分接近していたから、アンネマリーは直ぐ目の前でアンドリューを見上げることとなった。
「僕と一緒なら入ることができる」
「まあ!」
アンネマリーはちょろかった。星オタクは王城図書室に弱かった。
「素敵!殿下!私もご一緒したいわ!」
リリベットが無理くり同じ舟に乗ろうとする。アンドリューが「お前は黙っとれ」という視線を向けたのはきっと気の所為。
「殿下」
その時、アンドリューの後ろから声がした。声の主は最初からずっとここにいたのだが、黙して姉たちの会話を静観していた。
「なに?ロナルド」
ロナルドは、今現在、アンドリューの側近ポジションにいる。アンドリューは将来、臣籍降下して侯爵家を賜るのだが、伯爵家当主となるロナルドはその傘下に入ることになっている。
学園では、ロナルドのほかに近衛騎士団副団長の子息やら宰相の次男やらが、所謂ブレーンとしてアンドリューの側にいた。
「私もご一緒致します」
「……へえ。君、星が好きだった?そんなロマンチストだったかな」
ロナルドの突然の申し出に嫌味を言ったアンドリューに、
「お星さまは幼い頃より好きなんです」
ロナルドは、それは絶対嘘だろうとバレバレな発言を、いけしゃあしゃあと言い放った。
アンネマリーは、わざわざ遠回りしたのに、それが結局徒労に終わってしまったことを残念に思った。ここにきて面倒な集団とかち合った。
アンドリューは王国の第三王子で、アンネマリーやリリベットより一つ年下。学園にはこの春入学したばかりである。王族の入学は数年ぶりで、彼の人気は高い。
先ほどの人集りも、アンドリュー見たさアンドリューに接触したい令嬢たちが、甘い蜜に集る蟻のように集まったものだ。
幼い頃にクローディアに連れられて参加した王城の茶会。それがアンドリューとの初めての出会いだった。
そう言えば、あの日もアンドリューはこんな風に手を差し伸べてきた。アンドリューに手を引かれて、アンネマリーは王城の庭園を散策したのだ。あれはとても楽しかった。
アンドリューは、あの頃と同じようにこちらに手を差し伸べて、
「これから昼食?丁度良いね、僕らも今からなんだ一緒に行かないか」
まるでエスコートでもするように、そう言った。
幼い頃には、庭園の散策が猫がまたたびに引き寄せられるように魅力的に思えたが、今のアンネマリーは違った。
「お誘い頂きありがとうございます。ですが私、これから用がありまして、教室に戻るところなんです」
アンネマリーは今直ぐ教室に戻ったなら、数学教師から借りた本を貪り読むのだ。だからその手を引っ込めてほしい。
キラキラ金髪頭の王子様と一緒に歩いて、きゃーきゃー言う黄色い声を一緒に浴びるつもりは毛頭ない。
「ふうん。用ってコレのことかな?」
アンドリューはそう言ながら、こちらに一歩近づいて、アンネマリーが大切そうに胸に抱え持つ本を人差し指でトンとつついた。
指先でトンとつついただけなのに、その小さな振動はアンネマリーの身体に直接響くようだった。
「あの教師から?」
「あのとは、どの?」
「あいつだよ」
「あいつとは、どいつ?」
トンチンカンな問答を交わすように、二人の会話は噛み合わない。
アンドリューはアンネマリーへ向けた視線を、横にいるリリベットへ移した。リリベットはそれを面倒に思ったのか、わかりやすく顎を上げて「何?」という素振りをした。
伯爵令嬢でありながら、こんな行為を不敬と思わないリリベットは猛者だと思う。
「リリベット。君が側にいて何をしてたんだ?」
「私たち、課題ノートを届けただけですもの。後ろめたいことなんて一つもございませんわ」
「へえ。男性教師の部屋に?」
「他にどこへ行けと?先生に届けるのに先生の部屋を訪ねるのは当然でしょう?」
リリベットに口で勝てると思うのだろうか。アンネマリーは、アンドリューはまだまだだなと思いながら二人を眺めた。
「先生、先生というけれど、ヤツは歴とした男だよ。間違っても女子だけで会うべきではないし、こんな風に気安く手なずけられては困るんだ」
矛先はリリベットから直ぐにこちらに戻されて、アンネマリーは次は自分が攻撃をうけるのだなと気がついた。
「『天体運行の周期について』。王城の図書室にこの続編がある」
「え!」
なんですと?そういうことなら話は違う。もう早く言ってよ~。
案外現金なアンネマリーは、先ほどまで面倒なのに捕まったと辟易していたことをすっかり忘れた。
「アンネマリー、釣られちゃ駄目よ」
「君は邪魔立てしないでくれないか」
「殿下、昼食に行くのでしょう?お早くなさっては?席がなくなりましてよ」
再びアンドリューとリリベットがわちゃわちゃしだして、廊下の真ん中で王子集団VS女子生徒の構図となった。
「殿下。その話」
「駄目よアンネマリー。そんな餌に乗せられちゃ」
「リリベット黙ってくれないか、今アンネマリーが話してるんだ」
アンドリューはリリベットをキッと睨んでから、アンネマリーに微笑んだ。
「続編には、外惑星について書かれているよ」
「え!」
外惑星とは遠い星々である。肉眼で見えるのは土星が最も近くそれが限界である。薄っすら赤みを帯びたその星をアンネマリーも知っている。
だがそれよりも更に遠い星、天王星とか海王星については、望遠鏡観測でしか見られない。
星好きのアンネマリーにとって、外惑星は憧れのお星さまなのだ。
面白いほどあっさり釣られたアンネマリーに、アンドリューはうっそりと笑みを深めた。
「読みたい?なんなら図鑑もあるよ?あんな男から借りるより、ずっともっと君が楽しめる書物が他にも沢山あるんだよ」
そうだな、とアンドリューは何か考えるような仕草をしてからは再びアンネマリーを見た。
「今度の休みの午後なら君を案内できるな。王城の図書室には王族しか入れないが、」
そう言って、もう一歩前に踏み出す。
もう既に十分接近していたから、アンネマリーは直ぐ目の前でアンドリューを見上げることとなった。
「僕と一緒なら入ることができる」
「まあ!」
アンネマリーはちょろかった。星オタクは王城図書室に弱かった。
「素敵!殿下!私もご一緒したいわ!」
リリベットが無理くり同じ舟に乗ろうとする。アンドリューが「お前は黙っとれ」という視線を向けたのはきっと気の所為。
「殿下」
その時、アンドリューの後ろから声がした。声の主は最初からずっとここにいたのだが、黙して姉たちの会話を静観していた。
「なに?ロナルド」
ロナルドは、今現在、アンドリューの側近ポジションにいる。アンドリューは将来、臣籍降下して侯爵家を賜るのだが、伯爵家当主となるロナルドはその傘下に入ることになっている。
学園では、ロナルドのほかに近衛騎士団副団長の子息やら宰相の次男やらが、所謂ブレーンとしてアンドリューの側にいた。
「私もご一緒致します」
「……へえ。君、星が好きだった?そんなロマンチストだったかな」
ロナルドの突然の申し出に嫌味を言ったアンドリューに、
「お星さまは幼い頃より好きなんです」
ロナルドは、それは絶対嘘だろうとバレバレな発言を、いけしゃあしゃあと言い放った。
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