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第十七章
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「ダーリン、大丈夫?」
「うん、ハニー。大丈夫じゃない」
「まあ」
この日、王太子妃クラウディアは伏せった夫の枕元にいた。
「サフィリアからお見舞いの品が届いたの」
「ん?なにかな?」
「ほら、見てみて」
ジャーンと広げて見せたのは、真っ白な生地に真っ赤な巨大苺が刺繍されたピローケースだった。
「苺、大好きでしょ?元気出るわよ」
普段冷淡な妃も、病の夫には優しい。王太子は元気なのが取り柄で、幼い頃から滅多に伏せったことがない。
だから今回の病ですっかり身も心も弱ってしまい、そこに妃に優しくされて、その上大好きな苺のピローケースまで贈られて、危うく涙が零れるところだった。身体が弱った時に受ける人情に泣けてきた。
「元気になるよ、きっと必ず」
一方その頃。
「誠に快適な日々であるな」
ルクスは主不在の執務室で、右から左へぐるりと室内を見回して言った。
「全くルクス殿の言う通りですな」
隣の席の文官もその言葉に頷いた。
「諸君、本日も定時退勤を目指そうではないか。細君との健全な家族計画に勤しもうではないか」
おう!と声が上がる。心做しかテキパキキビキビと、無駄な動きが減って見えた。今世紀では実現しないと思われた「定時退勤」。
それがヤツが居ないだけで叶ってしまった。
今日はお家に帰ろう、早くお家に帰ろうと、文官らは無駄口という言葉すら忘れて一秒も無駄にしない。
そんな中でルクスは思った。
休日出勤のない暮らし。余暇最高だな。
もうサフィリアに淋しい思いなんてさせはしない。二度とあんな哀しい顔をさせはしない。サフィリアが笑い出しそうになるのを堪えていただけなのだが、ルクスには涙を堪える顔に見えていた。
夜の寝台の中ばかりでなく、朝も昼も夜も、沢山沢山可愛がってあげたい。夜が重複しているのには気づかぬフリをした。
待っていてくれ、サフィリア。
今すぐ目の前の仕事をやっつけて、君の元に帰るから。
ここ最近、ルクスの帰りが毎日早い。
王太子が寝込んだ為であるらしい。タバサの呪詛が効いたのか、それとも働きづめの身体に風邪菌が大暴れしたのか。真実は神のみぞ知る。
邪魔者がいない為に、無茶振りされる仕事が無くて、それで最近文官たちは早帰りを満喫していた。
彼らの残業が無いことで、夜間にバカスカ灯されていた蝋燭やらオイルランプの消耗が激減して経費節減、総務からも用度係から大層喜ばれていた。
ついでに宿泊する文官がいないことで、ベッドメーキングを担当する使用人たちの負担が激減した。ランドリーメイドらは涙を溢して喜んだ。
王太子一人が寝込んでいれば、全てが丸く収まる。
王太子は決して馬鹿王子ではない。どちらかといえば聡明で公明。近隣諸国では優れた王子、天才などと呼ばれている。
だが天才はまた、仕事を作る天才だった。ああすれば更に良い、こうすればもっと良いと、次々次々ようまあ思いつくと呆れるほどにあちこち改善提案するものだから、もう既に次の世代の王太子の分まで改変してしまった。
多分、次の王太子、つまりは王太子のお子は、する事がないばかりに「何もしない盆暗」だと濡れ衣を着せられる事になるだろう。
そう考えれば、王太子の天才的な無茶振りを阻止した侍女の呪詛は、未来の王太子を救ったことになる。叙爵してやってもよいほどだ。
それはさておき、ルクスである。
連チャンで城に泊まらずともよいから、当り前に邸に帰ってくる。帰ってきたルクスは精力的にサフィリアを愛した。
晩餐の時間を半刻繰り上げて、早々に食事を終えてその後は、サフィリアを連れ込んで朝まで夫妻の寝室から出てこなかった。
当然、サフィリアは彼とセットであるから、サフィリアこそ体力の限界を毎夜突破しながら、愛される妻として頭角を現していた。
初めから競う相手などいないのだから、現す頭角も何もないのだが、毎晩幾度も愛されるうちに体力がついてきた。先日なんて、告解するのに椅子を引き摺ることなく片手で難なく持ち上げた。
だがしかし、体力があるのと夜通し何度も攻められるのはまた別のお話である。
「旦那様、た、タイム」
「なんのこれしき。まだまだだ」
なにがこれしき?
愛されすぎてぼおっとする頭で考えて、サフィリアは、はっと気がついた。
これは罰だわ。サフィリアを娶らされることになってしまった夫による、現実的な体罰だ。
罰にこれだけ蕩かされるだなんて悔しいけれど、愛する旦那様には敵わない。私に体罰を加えることで、それで旦那様のお気が済むなら幾らでも受け入れねばならない。
まな板の上のサフィリア。
サフィリアは、罰を受けるべく寝台の上で大の字になった。さあ来い、旦那様。貴方の全てを受け入れます。
その闘志にルクスの火がついて、サフィリアは一晩中甘く蕩かされる体罰を受けまくった。
残念ながら、養生していた王太子が復活した。人情と苺のピローケースに慰められて、心安らかに養生して漸く完全復活したのだが、彼が寝込んでいるうちに、宰相と文官たちが一致団結して法改正の草案を纏めていた。
直ぐに議会に掛けられて、総務に用度係にベッドメーキングの使用人、ランドリーメイドらからの証言もあって、早帰り推奨法が可決された。
王太子が執務室に復帰した時には、法律で早帰りが定められて、無闇な残業やお泊りがなくなっていた。
それはやはり侍女の呪詛が発端であるから、彼女は城中の文官たちに感謝されるべき、やはり叙爵されるべきであるのだが、肝心の侍女がそこのところを分かっていなかったから、結局そんなことにはならなかった。
「うん、ハニー。大丈夫じゃない」
「まあ」
この日、王太子妃クラウディアは伏せった夫の枕元にいた。
「サフィリアからお見舞いの品が届いたの」
「ん?なにかな?」
「ほら、見てみて」
ジャーンと広げて見せたのは、真っ白な生地に真っ赤な巨大苺が刺繍されたピローケースだった。
「苺、大好きでしょ?元気出るわよ」
普段冷淡な妃も、病の夫には優しい。王太子は元気なのが取り柄で、幼い頃から滅多に伏せったことがない。
だから今回の病ですっかり身も心も弱ってしまい、そこに妃に優しくされて、その上大好きな苺のピローケースまで贈られて、危うく涙が零れるところだった。身体が弱った時に受ける人情に泣けてきた。
「元気になるよ、きっと必ず」
一方その頃。
「誠に快適な日々であるな」
ルクスは主不在の執務室で、右から左へぐるりと室内を見回して言った。
「全くルクス殿の言う通りですな」
隣の席の文官もその言葉に頷いた。
「諸君、本日も定時退勤を目指そうではないか。細君との健全な家族計画に勤しもうではないか」
おう!と声が上がる。心做しかテキパキキビキビと、無駄な動きが減って見えた。今世紀では実現しないと思われた「定時退勤」。
それがヤツが居ないだけで叶ってしまった。
今日はお家に帰ろう、早くお家に帰ろうと、文官らは無駄口という言葉すら忘れて一秒も無駄にしない。
そんな中でルクスは思った。
休日出勤のない暮らし。余暇最高だな。
もうサフィリアに淋しい思いなんてさせはしない。二度とあんな哀しい顔をさせはしない。サフィリアが笑い出しそうになるのを堪えていただけなのだが、ルクスには涙を堪える顔に見えていた。
夜の寝台の中ばかりでなく、朝も昼も夜も、沢山沢山可愛がってあげたい。夜が重複しているのには気づかぬフリをした。
待っていてくれ、サフィリア。
今すぐ目の前の仕事をやっつけて、君の元に帰るから。
ここ最近、ルクスの帰りが毎日早い。
王太子が寝込んだ為であるらしい。タバサの呪詛が効いたのか、それとも働きづめの身体に風邪菌が大暴れしたのか。真実は神のみぞ知る。
邪魔者がいない為に、無茶振りされる仕事が無くて、それで最近文官たちは早帰りを満喫していた。
彼らの残業が無いことで、夜間にバカスカ灯されていた蝋燭やらオイルランプの消耗が激減して経費節減、総務からも用度係から大層喜ばれていた。
ついでに宿泊する文官がいないことで、ベッドメーキングを担当する使用人たちの負担が激減した。ランドリーメイドらは涙を溢して喜んだ。
王太子一人が寝込んでいれば、全てが丸く収まる。
王太子は決して馬鹿王子ではない。どちらかといえば聡明で公明。近隣諸国では優れた王子、天才などと呼ばれている。
だが天才はまた、仕事を作る天才だった。ああすれば更に良い、こうすればもっと良いと、次々次々ようまあ思いつくと呆れるほどにあちこち改善提案するものだから、もう既に次の世代の王太子の分まで改変してしまった。
多分、次の王太子、つまりは王太子のお子は、する事がないばかりに「何もしない盆暗」だと濡れ衣を着せられる事になるだろう。
そう考えれば、王太子の天才的な無茶振りを阻止した侍女の呪詛は、未来の王太子を救ったことになる。叙爵してやってもよいほどだ。
それはさておき、ルクスである。
連チャンで城に泊まらずともよいから、当り前に邸に帰ってくる。帰ってきたルクスは精力的にサフィリアを愛した。
晩餐の時間を半刻繰り上げて、早々に食事を終えてその後は、サフィリアを連れ込んで朝まで夫妻の寝室から出てこなかった。
当然、サフィリアは彼とセットであるから、サフィリアこそ体力の限界を毎夜突破しながら、愛される妻として頭角を現していた。
初めから競う相手などいないのだから、現す頭角も何もないのだが、毎晩幾度も愛されるうちに体力がついてきた。先日なんて、告解するのに椅子を引き摺ることなく片手で難なく持ち上げた。
だがしかし、体力があるのと夜通し何度も攻められるのはまた別のお話である。
「旦那様、た、タイム」
「なんのこれしき。まだまだだ」
なにがこれしき?
愛されすぎてぼおっとする頭で考えて、サフィリアは、はっと気がついた。
これは罰だわ。サフィリアを娶らされることになってしまった夫による、現実的な体罰だ。
罰にこれだけ蕩かされるだなんて悔しいけれど、愛する旦那様には敵わない。私に体罰を加えることで、それで旦那様のお気が済むなら幾らでも受け入れねばならない。
まな板の上のサフィリア。
サフィリアは、罰を受けるべく寝台の上で大の字になった。さあ来い、旦那様。貴方の全てを受け入れます。
その闘志にルクスの火がついて、サフィリアは一晩中甘く蕩かされる体罰を受けまくった。
残念ながら、養生していた王太子が復活した。人情と苺のピローケースに慰められて、心安らかに養生して漸く完全復活したのだが、彼が寝込んでいるうちに、宰相と文官たちが一致団結して法改正の草案を纏めていた。
直ぐに議会に掛けられて、総務に用度係にベッドメーキングの使用人、ランドリーメイドらからの証言もあって、早帰り推奨法が可決された。
王太子が執務室に復帰した時には、法律で早帰りが定められて、無闇な残業やお泊りがなくなっていた。
それはやはり侍女の呪詛が発端であるから、彼女は城中の文官たちに感謝されるべき、やはり叙爵されるべきであるのだが、肝心の侍女がそこのところを分かっていなかったから、結局そんなことにはならなかった。
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