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第二十八章
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「死にたい」
抱き締めた胸の中から聞こえた声で目が覚めた。小鳥の囀りかと思った。いやそうではない、妖精なのか?声まで可愛らしいなんてどうかしている。危うくこちらが昇天しそうであった。
だがしかし、聞き捨てならない、死なせてならない。
「死んでは駄目だ」
「へ?」
サフィリアの目の前に、綺麗な深緑の瞳が見えた。灯りを絞った室内の薄闇でもわかる、深海のような瞳がサフィリアを見つめていた。
「ど、どなた?」
ぎゅうぅと抱き締める腕の強さに若干酸欠気味になりながら、サフィリアが尋ねる。
すると抱き締めていた手の片方が、さわさわとサフィリアの背中から腰を擦りはじめて、サフィリアは、なんだかお腹がムズムズするような可怪しな気持ちになってしまった。
一方ルクスは、なにを聞かれても妖精、ではなく、サフィリアが可愛くて仕方ない。
「私は、ルクス・バイロン・コットナーという。コットナー伯爵家の者だ」
絶対憶えてほしいから、しっかりフルネームで答えた。この名はいずれ君の名となる。二人同じ姓を名乗るのだ。忘れないで今すぐここで憶えてくれ。
念の為、もういっぺん言ってみようか悩んだが、しつこい漢は嫌われると物の本に書いていたので辞めにした。
その後のことは一日だって忘れない。忘れよう筈もない。サフィリアを娶らんと張り巡らした謀略の数々。その一つ一つが結実に向かっていたのだから。
示し合わせていた姉夫婦が扉を開けて、「まあ!サフィリア」と芝居めいた台詞のあとに事の次第をサフィリアに説明した。勿論、サフィリアの両親もその場にいた。
義兄がチラチラチラチラ確認の視線を寄越すのが若干ウザかったがシカトした。
姉と目が合い、互いに頷く。
今だ、言うぞ。
昨晩何度も練習した台詞をルクスはここで披露した。
「責任を取らせて頂く」
それからは、毎日がスキップしたい日々だった。
両家の顔合わせに始まり、フランシスを通して教会を押さえ、社交シーズンが終わって王都に五月蝿い貴族がいないのを良いことに、身内だけで密かに挙式すべく段取りをする。
知らぬはサフィリアばかりなり。
彼女は夜会の出会いが偶然だと信じている。
すまない、サフィリア。全部罠だ。愛しい子栗鼠、もとい可愛いサフィリアを手中に収めるために、両家が一致団結して君に仕掛けた罠なんだ。
サフィリアは、どうやらあの控えの間で、二人が酩酊状態のまま事に及んでしまったと思っている。
純潔を喪失したばかりに、必然的にルクスの妻となったと信じている。
どう誤解してくれても構わない。
お胸は確かにモミモミした。手の平に収まりきってしまう囁かな膨らみが愛おしかった。
君が気に病む「乙女の喪失」なんて、そんなものは憂いにもならない。なにせ直ぐに無くなるんだから。
喪失だなんて間違えないでもらいたい。
己はサフィリアに与えるのみ。尽きることのない愛と子種を君にひたすら与えるのだ。失ったなんて悲しまないでくれないか。
婚約期間はゼロ期間、出会い=婚姻という、この年、王国で最短記録の婚礼は、ひと夏の間に速やかに為された。なので喪失を気に病む暇がないほどに、結局、サフィリアは初夜であっという間に乙女を失った。
あれから二年。
あのボケナス王太子の無茶振りのお陰で、ルクスはなかなか家に帰れない。帰れないが帰った日には、遅れを取り返そうと長すぎる蜜月を楽しんだ。
素直なサフィリアは直ぐにルクスに馴染んだ。使用人たちも、そんな彼女を大切にしている。
伯爵家は、まるで最初からサフィリアを迎え入れるための場所だと思えた。それくらいサフィリアは、若夫人としてルクスにも伯爵家にも溶け込んでいた。
城に泊まる日には着替えを持って王城に来るサフィリアは自慢の妻だ。
どうだ我が妻、可愛いだろう。ルクスはそこいら中にそれとなくサフィリアを見せびらかした。
堅物のデキる漢ルクスの豹変に、王城の人間は皆驚いたが、王太子だけは「そうか?アイツはそういう奴だろう」と納得していた。
どうやらサフィリアは、自分を「地味」だなんて思い違いをしている。それはあの強烈な姉を見すぎたからだ。
姉が匂い立つ深紅の薔薇なら君は可憐なペンペン草。路傍を愛らしく飾る私だけの花。
そう古い友人に聞かせていたのだが、奴は朴念仁だから、可怪しな表情をするだけだった。
そんの可怪しな表情をする友人フランシスは貴族の三男で、継ぐ家がないからと神籍に入った。学園時代からの友である。
そのフランシスがある日、王城を訪ねてきた。会うなり可及的速やかに対処しろと言われた。
そこで聞かされた事実の数々。サフィリアがフランシスに語ったという話に、ルクスは奈落の底に沈み込むような絶望を感じた。
それは思い違いも甚だしい、「離縁」だなんて呪わしい計画についての話だった。
「それから、もしや夫人、聖女に認定されたんだろう?お前、それを無視しただろう」
フランシスの言った言葉は耳に入っていた。だが、彼女を奪う魔の手だなんてク◯喰らえ、そう思っていたからやはり無視した。
それどころではない。ルクスはサフィリアの元に可及的速やかに帰らねばならないのだから。
抱き締めた胸の中から聞こえた声で目が覚めた。小鳥の囀りかと思った。いやそうではない、妖精なのか?声まで可愛らしいなんてどうかしている。危うくこちらが昇天しそうであった。
だがしかし、聞き捨てならない、死なせてならない。
「死んでは駄目だ」
「へ?」
サフィリアの目の前に、綺麗な深緑の瞳が見えた。灯りを絞った室内の薄闇でもわかる、深海のような瞳がサフィリアを見つめていた。
「ど、どなた?」
ぎゅうぅと抱き締める腕の強さに若干酸欠気味になりながら、サフィリアが尋ねる。
すると抱き締めていた手の片方が、さわさわとサフィリアの背中から腰を擦りはじめて、サフィリアは、なんだかお腹がムズムズするような可怪しな気持ちになってしまった。
一方ルクスは、なにを聞かれても妖精、ではなく、サフィリアが可愛くて仕方ない。
「私は、ルクス・バイロン・コットナーという。コットナー伯爵家の者だ」
絶対憶えてほしいから、しっかりフルネームで答えた。この名はいずれ君の名となる。二人同じ姓を名乗るのだ。忘れないで今すぐここで憶えてくれ。
念の為、もういっぺん言ってみようか悩んだが、しつこい漢は嫌われると物の本に書いていたので辞めにした。
その後のことは一日だって忘れない。忘れよう筈もない。サフィリアを娶らんと張り巡らした謀略の数々。その一つ一つが結実に向かっていたのだから。
示し合わせていた姉夫婦が扉を開けて、「まあ!サフィリア」と芝居めいた台詞のあとに事の次第をサフィリアに説明した。勿論、サフィリアの両親もその場にいた。
義兄がチラチラチラチラ確認の視線を寄越すのが若干ウザかったがシカトした。
姉と目が合い、互いに頷く。
今だ、言うぞ。
昨晩何度も練習した台詞をルクスはここで披露した。
「責任を取らせて頂く」
それからは、毎日がスキップしたい日々だった。
両家の顔合わせに始まり、フランシスを通して教会を押さえ、社交シーズンが終わって王都に五月蝿い貴族がいないのを良いことに、身内だけで密かに挙式すべく段取りをする。
知らぬはサフィリアばかりなり。
彼女は夜会の出会いが偶然だと信じている。
すまない、サフィリア。全部罠だ。愛しい子栗鼠、もとい可愛いサフィリアを手中に収めるために、両家が一致団結して君に仕掛けた罠なんだ。
サフィリアは、どうやらあの控えの間で、二人が酩酊状態のまま事に及んでしまったと思っている。
純潔を喪失したばかりに、必然的にルクスの妻となったと信じている。
どう誤解してくれても構わない。
お胸は確かにモミモミした。手の平に収まりきってしまう囁かな膨らみが愛おしかった。
君が気に病む「乙女の喪失」なんて、そんなものは憂いにもならない。なにせ直ぐに無くなるんだから。
喪失だなんて間違えないでもらいたい。
己はサフィリアに与えるのみ。尽きることのない愛と子種を君にひたすら与えるのだ。失ったなんて悲しまないでくれないか。
婚約期間はゼロ期間、出会い=婚姻という、この年、王国で最短記録の婚礼は、ひと夏の間に速やかに為された。なので喪失を気に病む暇がないほどに、結局、サフィリアは初夜であっという間に乙女を失った。
あれから二年。
あのボケナス王太子の無茶振りのお陰で、ルクスはなかなか家に帰れない。帰れないが帰った日には、遅れを取り返そうと長すぎる蜜月を楽しんだ。
素直なサフィリアは直ぐにルクスに馴染んだ。使用人たちも、そんな彼女を大切にしている。
伯爵家は、まるで最初からサフィリアを迎え入れるための場所だと思えた。それくらいサフィリアは、若夫人としてルクスにも伯爵家にも溶け込んでいた。
城に泊まる日には着替えを持って王城に来るサフィリアは自慢の妻だ。
どうだ我が妻、可愛いだろう。ルクスはそこいら中にそれとなくサフィリアを見せびらかした。
堅物のデキる漢ルクスの豹変に、王城の人間は皆驚いたが、王太子だけは「そうか?アイツはそういう奴だろう」と納得していた。
どうやらサフィリアは、自分を「地味」だなんて思い違いをしている。それはあの強烈な姉を見すぎたからだ。
姉が匂い立つ深紅の薔薇なら君は可憐なペンペン草。路傍を愛らしく飾る私だけの花。
そう古い友人に聞かせていたのだが、奴は朴念仁だから、可怪しな表情をするだけだった。
そんの可怪しな表情をする友人フランシスは貴族の三男で、継ぐ家がないからと神籍に入った。学園時代からの友である。
そのフランシスがある日、王城を訪ねてきた。会うなり可及的速やかに対処しろと言われた。
そこで聞かされた事実の数々。サフィリアがフランシスに語ったという話に、ルクスは奈落の底に沈み込むような絶望を感じた。
それは思い違いも甚だしい、「離縁」だなんて呪わしい計画についての話だった。
「それから、もしや夫人、聖女に認定されたんだろう?お前、それを無視しただろう」
フランシスの言った言葉は耳に入っていた。だが、彼女を奪う魔の手だなんてク◯喰らえ、そう思っていたからやはり無視した。
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