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第二十章
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「ジェマイマ。もう登校して大丈夫なのか?」
食堂の窓際席で、向かい合わせに座ったローレルが尋ねてきた。
「ええ。体調はすっかり良くなりました。それよりも、その、倒れた節は殿下のお手を煩わせてしまい申し訳ございません」
ちょっとしょんぼり風に言ってみたのだが、ローレルは、
「そんな神妙らしく言わなくてもいいよ」
と、まるでジェマイマが内心では全く全然申し訳なく思っていないような言いぶりをした。
ジェマイマは昨日学園を休んだが、どうやらそれで正解のようだった。
神殿での神事の様子は、昨日の新聞に大々的に載っていた。ジェマイマは読まなかったが、ジェーンが詳しく教えてくれた。
なにせ、卒業まで伏せておくはずの婚約者と揃っての公務だった。
神官の前に二人が並び立つ挿絵とともに、
「王太子殿下がお迎えになられた婚約者は、大切に愛されているご様子だった」
と、朝刊の一面に報じられていたのである。
学園では、やはりクラフトン侯爵令嬢であったかと言う声が多かったらしく、そんな中、ジェマイマが体調不良を理由に休んでしまった。
そのために、ジェマイマに気を遣おうという声も出たりで、お陰で今日登校したジェマイマは思ったより平穏に過ごせていた。
だが、ローレルの婚約者としてすっかりバレたからか、午前の授業が終わって教室を出たところでローレル一行とばったり遭遇してしまった。
「ジェマイマ。一緒にお昼を食べよう」
麗しい王太子がこちらに手を差し伸べると、辺りから「きゃあ」と小さな声が幾つも聞こえた。
「それはランチボックスかな?」
「ええ。ワタクシ、お昼はカフェテラスで頂戴しておりますの」
「ふうん。それは明日から持ってこなくて大丈夫だよ」
「ええっと、それってどういう意味ですの?」
「婚約者殿と昼時を一緒に過ごしたいのだけれど、駄目かな?」
駄目かな、というところでローレルは上目遣いをした。
ジェマイマよりも背が高いクセに上目遣いができるとは。
とんだ器用者であるローレルに、ジェマイマは呆れてしまって胡乱な眼差しを向けた。
だが、ジェマイマを迎えにきてくれたらしいローレルに、お断りをするなんて無理である。
ローレルの背後には、フレデリクとオスカーが控えており、「断るなよ」的な視線を向けていた。
こうしてジェマイマは、強制的に婚約者との昼時の逢瀬に組み込まれることになったのである。
ジェマイマは、食堂でランチボックスを食べることはできなかった。なぜか用意したランチボックスはオスカーが食べて、ジェマイマにはローレルが食堂のメニューを説明して、ジェマイマの分も料理を受け取ってくれた。
「君の姿を食堂を見たことがなかったけれど、これまで利用したことがないのかな?」
ローレルが一言なにかを言うたびに、周囲が明らかに静かになる。
ようやく姿を現した婚約者と、王子がどんな会話をしているのかを、皆、興味津々になって窺っているようだった。
「入学してすぐの頃は利用したこともございますわ」
ちょっと澄まして言ってみれば、ローレルは瞳に悪戯な光を浮かべた。多分、取り澄ましたジェマイマを揶揄うつもりなのだろう。
「へえ」
だが、彼はすんなり聞き入れた。どうやらジェマイマの考え過ぎのようだった。
「でもこれからご一緒願うよ。愛しい婚約者殿」
辺りから、きゃあきゃあ黄色い声が飛び交って、食堂はいっとき騒然となった。
《殿下、なにを仰ってるの?》
ジェマイマは、なるべく声を潜めて、ほとんどクチパクに近い声音でローレルに抗議をした。
「いや、本心だけれどね。神官殿にも仲良しだって言われたじゃない」
なにが「じゃない」だ。
周囲の女子生徒たちから熱い痛い居た堪れない視線を向けられて、ジェマイマはローレルの悪戯に抗議すべく睨みつけた。
「そんな顔をしても可愛いだけだよ」
《なに言ってんだ!》
声なき抗議は抗議とはならず、ローレルは薄らと笑みを浮かべて口角を上げた。
結局、その後もローレルは、周囲に「仲良し」と誤解を与えるようなことを言い連ねた。
お陰で、食事を終えて食堂を出る頃には、通路が演劇の舞台の花道になったように、両脇を生徒たちに囲まれて退室することとなってしまった。
「ジェマイマ。これから毎日誘うよ」
「三日に一度でよろしいですわ」
「それは少なすぎるだろう。婚約者だよ、私たちは」
むきー。ローレルは態と「婚約者」を連発している。ジェマイマがいちいち顔に出すのが面白いようだった。
「最初からこうしていれば良かったんだ」
「え?」
「婚約した最初から、君とこうして一緒に過ごせば良かったんだ。君に遠慮なんかしないで」
「はあ?どこが遠慮してました?いつだって殿下は言いたいことを好きなだけ仰っておられたのではないですか?」
ジェマイマは、若干呆れ気味そう言った。
「それができるのが、君だったということだよ」
ローレルはそう言うと、前を向いてジェマイマから視線を外してしまった。
「殿下?」
「⋯⋯」
「殿下?」
「⋯⋯」
「ローレルでん」「そこまででよいよ」
ローレルは、ジェマイマの言葉を途中で止めて、自身も立ち止まってしまった。
「名前で呼んで構わない」
「ローレルで」「そうじゃない」
駄目出しをしたローレルは、真顔だった。
「ローレル様」
ジェマイマがそう呼ぶと、ローレルはお得意の華やかな笑みを浮かべて「なんだい?ジェマイマ」と答えた。
食堂の窓際席で、向かい合わせに座ったローレルが尋ねてきた。
「ええ。体調はすっかり良くなりました。それよりも、その、倒れた節は殿下のお手を煩わせてしまい申し訳ございません」
ちょっとしょんぼり風に言ってみたのだが、ローレルは、
「そんな神妙らしく言わなくてもいいよ」
と、まるでジェマイマが内心では全く全然申し訳なく思っていないような言いぶりをした。
ジェマイマは昨日学園を休んだが、どうやらそれで正解のようだった。
神殿での神事の様子は、昨日の新聞に大々的に載っていた。ジェマイマは読まなかったが、ジェーンが詳しく教えてくれた。
なにせ、卒業まで伏せておくはずの婚約者と揃っての公務だった。
神官の前に二人が並び立つ挿絵とともに、
「王太子殿下がお迎えになられた婚約者は、大切に愛されているご様子だった」
と、朝刊の一面に報じられていたのである。
学園では、やはりクラフトン侯爵令嬢であったかと言う声が多かったらしく、そんな中、ジェマイマが体調不良を理由に休んでしまった。
そのために、ジェマイマに気を遣おうという声も出たりで、お陰で今日登校したジェマイマは思ったより平穏に過ごせていた。
だが、ローレルの婚約者としてすっかりバレたからか、午前の授業が終わって教室を出たところでローレル一行とばったり遭遇してしまった。
「ジェマイマ。一緒にお昼を食べよう」
麗しい王太子がこちらに手を差し伸べると、辺りから「きゃあ」と小さな声が幾つも聞こえた。
「それはランチボックスかな?」
「ええ。ワタクシ、お昼はカフェテラスで頂戴しておりますの」
「ふうん。それは明日から持ってこなくて大丈夫だよ」
「ええっと、それってどういう意味ですの?」
「婚約者殿と昼時を一緒に過ごしたいのだけれど、駄目かな?」
駄目かな、というところでローレルは上目遣いをした。
ジェマイマよりも背が高いクセに上目遣いができるとは。
とんだ器用者であるローレルに、ジェマイマは呆れてしまって胡乱な眼差しを向けた。
だが、ジェマイマを迎えにきてくれたらしいローレルに、お断りをするなんて無理である。
ローレルの背後には、フレデリクとオスカーが控えており、「断るなよ」的な視線を向けていた。
こうしてジェマイマは、強制的に婚約者との昼時の逢瀬に組み込まれることになったのである。
ジェマイマは、食堂でランチボックスを食べることはできなかった。なぜか用意したランチボックスはオスカーが食べて、ジェマイマにはローレルが食堂のメニューを説明して、ジェマイマの分も料理を受け取ってくれた。
「君の姿を食堂を見たことがなかったけれど、これまで利用したことがないのかな?」
ローレルが一言なにかを言うたびに、周囲が明らかに静かになる。
ようやく姿を現した婚約者と、王子がどんな会話をしているのかを、皆、興味津々になって窺っているようだった。
「入学してすぐの頃は利用したこともございますわ」
ちょっと澄まして言ってみれば、ローレルは瞳に悪戯な光を浮かべた。多分、取り澄ましたジェマイマを揶揄うつもりなのだろう。
「へえ」
だが、彼はすんなり聞き入れた。どうやらジェマイマの考え過ぎのようだった。
「でもこれからご一緒願うよ。愛しい婚約者殿」
辺りから、きゃあきゃあ黄色い声が飛び交って、食堂はいっとき騒然となった。
《殿下、なにを仰ってるの?》
ジェマイマは、なるべく声を潜めて、ほとんどクチパクに近い声音でローレルに抗議をした。
「いや、本心だけれどね。神官殿にも仲良しだって言われたじゃない」
なにが「じゃない」だ。
周囲の女子生徒たちから熱い痛い居た堪れない視線を向けられて、ジェマイマはローレルの悪戯に抗議すべく睨みつけた。
「そんな顔をしても可愛いだけだよ」
《なに言ってんだ!》
声なき抗議は抗議とはならず、ローレルは薄らと笑みを浮かべて口角を上げた。
結局、その後もローレルは、周囲に「仲良し」と誤解を与えるようなことを言い連ねた。
お陰で、食事を終えて食堂を出る頃には、通路が演劇の舞台の花道になったように、両脇を生徒たちに囲まれて退室することとなってしまった。
「ジェマイマ。これから毎日誘うよ」
「三日に一度でよろしいですわ」
「それは少なすぎるだろう。婚約者だよ、私たちは」
むきー。ローレルは態と「婚約者」を連発している。ジェマイマがいちいち顔に出すのが面白いようだった。
「最初からこうしていれば良かったんだ」
「え?」
「婚約した最初から、君とこうして一緒に過ごせば良かったんだ。君に遠慮なんかしないで」
「はあ?どこが遠慮してました?いつだって殿下は言いたいことを好きなだけ仰っておられたのではないですか?」
ジェマイマは、若干呆れ気味そう言った。
「それができるのが、君だったということだよ」
ローレルはそう言うと、前を向いてジェマイマから視線を外してしまった。
「殿下?」
「⋯⋯」
「殿下?」
「⋯⋯」
「ローレルでん」「そこまででよいよ」
ローレルは、ジェマイマの言葉を途中で止めて、自身も立ち止まってしまった。
「名前で呼んで構わない」
「ローレルで」「そうじゃない」
駄目出しをしたローレルは、真顔だった。
「ローレル様」
ジェマイマがそう呼ぶと、ローレルはお得意の華やかな笑みを浮かべて「なんだい?ジェマイマ」と答えた。
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