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第四十一章
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「毎回毎回、よくもこれほど私の心を煽ってくれるものだ。今世では、狂わないように重々気をつける。けれど狂おしい気持ちになるのは仕方ないかな」
いつも見上げている麗しい顔を、ジェマイマはこの日はじめて見下ろした。
「ねえ、ジェマイマ。君は今の生でも私を愛してくれるんだろう?」
そう言ったよね、と言ってローレルは口角を片方だけ上げた。
この笑みに、自分がすっかり馴染んでいることに気がついて、前もその前も、今もこれからの人生でも、もう彼とは離れがたい運命なのだと諦めた。
諦めたと思いながら、離れようがないことを嬉しく思った。
「不思議だったの。どうしてこんなに容易く貴方を好きになっちゃったのか。自分は慎重派だと思っていたのに、思った以上のチョロさだわ。でも、仕方ないわよね」
ジェマイマは、ローレルの膝の上で抱きかかえられながら微笑んだ。
表情筋が硬いから、上手く笑えていないかもしれない。でもきっと、ローレルはそんなジェマイマに慣れていて、どんな笑みでもわかってくれるだろう。
だって、前世も今世も来生もこのひとは、狂おしいほどジェマイマを愛してくれるはずだから。
「いつだって貴方のことが好きなのだもの」
ローレルの目尻はまだ涙が乾かずに、なのに口角を片方だけ上げる意地悪な笑みを浮かべて、そんなアンバランスな表情をするローレルは、堪らなく愛おしいと思った。
「ジェマイマ、キスしても良い?」
夢の中で、毎夜心が壊れそうになるほどジェマイマを激しく求めたローレルは、今はまだ純情を滲ませてジェマイマに口づけを願った。
ジェマイマは、そんなローレルを待つことなく、自分から唇を寄せてローレルにキスをした。
初めて触れる柔らかな感触は、どこか懐かしいものだった。
触れるだけのキスをしたつもりなのに、ローレル覚醒のスイッチを押してしまったことに気づいたのは、腰を抱く腕に力がこもって身体を引き寄せられてからだった。
優しくキスを強請った恋人は、ジェマイマを簡単に離す気はないようで、口づけは深く濃くジェマイマを呑み込んだ。
「ふっ」
甘い余韻を残す溜め息が漏れた。息も絶えだえになるほどの口づけは、ジェマイマの心を蕩かした。身体までふにゃりと力をなくして、ジェマイマはローレルの肩に頬を預けた。
ローレルがそっとジェマイマを抱き締める。その体温を懐かしく思うのは、うっかり湖に落ちたときに抱き上げられていたからか、それとも何度も繰り返す人生で、こんなふうに抱き締められていたからか。
ローレルは、今世こそが二人が初めて出会った生かもしれないと言った。
そうであるなら神様は、不器用ですれ違う二人に、迷子になってしまった四通りの人生を夢で見せてくれたのだろうか。
ジェマイマには、どれが真実なのかはわからなかった。ただ、誰にも感じたことのない、ローレルを思うときに胸の奥底から湧いてくる温かな感情を味わった。
もしも来世というものが本当にあるのだとしたら、この胸の温かな感触を忘れずに憶えていようと思った。
また生まれ変わって出会った時に、思い出せるように。
扉を叩く音がして、「ちっ」とローレルが舌打ちをした。
「ローレル様、舌打ちなんてそんなこと、一体どこで覚えたの?」
まるで幼い息子を叱る母親のように、ジェマイマはローレルを諌めた。思えば、夢の中のジェマイマはレオンを産んで、けれど母親らしいふれ合いを知らぬまま命を閉じた。
「あのノックは君の護衛だよ。こんなふうに私の膝の上で、君がけしからんことをされているんじゃないかと気を揉んでいるんだ」
「けしからん⋯⋯」
確かにこんな姿を見たなら、アルフレッドは抜刀しかけてひっ捕らえられてしまうのではなかろうか。
「ふふ」
「なにが可笑しい?私は全然面白くないけどね」
悪戯な手の平がジェマイマを更に抱き締めて、痩せた身体を確かめるように細い腰を撫でた。
「懐かしい」
そう言ってローレルは、ジェマイマに笑みを見せた。夢の自分が求め続けた優しい笑顔を、ジェマイマは過去に存在したかもしれない四人の自分に見せてあげたいと思った。
きっと彼女たちはこの笑みを知っている。四人ともこの王子と恋をして、何度も優しい微笑みと口づけを交わして甘い言葉を囁き合った。
だからどれほどローレルが狂っても、諦めきれなかったのだろう。
眠れなくなるほどに、自死を願うほどに、愛が冷めてしまったことに絶望をしてしまったのだろう。
「お嬢様。初夜は今ではありません」
扉から開く音よりも、アルフレッドの声が先に聞こえた。
「こら、アルフレッド殿、お控えください」
続いてスティーブの声がして、その後から近衛騎士らが入室してきた。
ジェマイマは慌ててローレルの膝から降りようと思ったのに、腰をホールドする腕がそれを拒んだ。
「は、離して、ローレル様」
「嫌だ」
どこの幼子だ。三歳のマシューのほうがよほど聞き分けが良いぞ。
ジェマイマはローレルを睨んでみたが、ローレルはそんなのはそよ風くらいにしか思わないようだった。
「殿下、お控えください。我々の目の前で交わるおつもりですか」
何言ってんだこの侍従!
ジェマイマは首だけ後ろに回して、とんでもないことを言ったスティーブを見た。だが、彼の隣で能面のような顔をするアルフレッドとうっかり目が合って、ギギギと音がするようにローレルへと向き直った。
「アルフレッドが怒っているわ。ローレル様、血を見たくなければ降ろしてちょうだい」
「は?アイツ、私になにかする気かな?良いよ、受けて立ってやろう」
今世でも、とことんヤル気なローレルだった。
いつも見上げている麗しい顔を、ジェマイマはこの日はじめて見下ろした。
「ねえ、ジェマイマ。君は今の生でも私を愛してくれるんだろう?」
そう言ったよね、と言ってローレルは口角を片方だけ上げた。
この笑みに、自分がすっかり馴染んでいることに気がついて、前もその前も、今もこれからの人生でも、もう彼とは離れがたい運命なのだと諦めた。
諦めたと思いながら、離れようがないことを嬉しく思った。
「不思議だったの。どうしてこんなに容易く貴方を好きになっちゃったのか。自分は慎重派だと思っていたのに、思った以上のチョロさだわ。でも、仕方ないわよね」
ジェマイマは、ローレルの膝の上で抱きかかえられながら微笑んだ。
表情筋が硬いから、上手く笑えていないかもしれない。でもきっと、ローレルはそんなジェマイマに慣れていて、どんな笑みでもわかってくれるだろう。
だって、前世も今世も来生もこのひとは、狂おしいほどジェマイマを愛してくれるはずだから。
「いつだって貴方のことが好きなのだもの」
ローレルの目尻はまだ涙が乾かずに、なのに口角を片方だけ上げる意地悪な笑みを浮かべて、そんなアンバランスな表情をするローレルは、堪らなく愛おしいと思った。
「ジェマイマ、キスしても良い?」
夢の中で、毎夜心が壊れそうになるほどジェマイマを激しく求めたローレルは、今はまだ純情を滲ませてジェマイマに口づけを願った。
ジェマイマは、そんなローレルを待つことなく、自分から唇を寄せてローレルにキスをした。
初めて触れる柔らかな感触は、どこか懐かしいものだった。
触れるだけのキスをしたつもりなのに、ローレル覚醒のスイッチを押してしまったことに気づいたのは、腰を抱く腕に力がこもって身体を引き寄せられてからだった。
優しくキスを強請った恋人は、ジェマイマを簡単に離す気はないようで、口づけは深く濃くジェマイマを呑み込んだ。
「ふっ」
甘い余韻を残す溜め息が漏れた。息も絶えだえになるほどの口づけは、ジェマイマの心を蕩かした。身体までふにゃりと力をなくして、ジェマイマはローレルの肩に頬を預けた。
ローレルがそっとジェマイマを抱き締める。その体温を懐かしく思うのは、うっかり湖に落ちたときに抱き上げられていたからか、それとも何度も繰り返す人生で、こんなふうに抱き締められていたからか。
ローレルは、今世こそが二人が初めて出会った生かもしれないと言った。
そうであるなら神様は、不器用ですれ違う二人に、迷子になってしまった四通りの人生を夢で見せてくれたのだろうか。
ジェマイマには、どれが真実なのかはわからなかった。ただ、誰にも感じたことのない、ローレルを思うときに胸の奥底から湧いてくる温かな感情を味わった。
もしも来世というものが本当にあるのだとしたら、この胸の温かな感触を忘れずに憶えていようと思った。
また生まれ変わって出会った時に、思い出せるように。
扉を叩く音がして、「ちっ」とローレルが舌打ちをした。
「ローレル様、舌打ちなんてそんなこと、一体どこで覚えたの?」
まるで幼い息子を叱る母親のように、ジェマイマはローレルを諌めた。思えば、夢の中のジェマイマはレオンを産んで、けれど母親らしいふれ合いを知らぬまま命を閉じた。
「あのノックは君の護衛だよ。こんなふうに私の膝の上で、君がけしからんことをされているんじゃないかと気を揉んでいるんだ」
「けしからん⋯⋯」
確かにこんな姿を見たなら、アルフレッドは抜刀しかけてひっ捕らえられてしまうのではなかろうか。
「ふふ」
「なにが可笑しい?私は全然面白くないけどね」
悪戯な手の平がジェマイマを更に抱き締めて、痩せた身体を確かめるように細い腰を撫でた。
「懐かしい」
そう言ってローレルは、ジェマイマに笑みを見せた。夢の自分が求め続けた優しい笑顔を、ジェマイマは過去に存在したかもしれない四人の自分に見せてあげたいと思った。
きっと彼女たちはこの笑みを知っている。四人ともこの王子と恋をして、何度も優しい微笑みと口づけを交わして甘い言葉を囁き合った。
だからどれほどローレルが狂っても、諦めきれなかったのだろう。
眠れなくなるほどに、自死を願うほどに、愛が冷めてしまったことに絶望をしてしまったのだろう。
「お嬢様。初夜は今ではありません」
扉から開く音よりも、アルフレッドの声が先に聞こえた。
「こら、アルフレッド殿、お控えください」
続いてスティーブの声がして、その後から近衛騎士らが入室してきた。
ジェマイマは慌ててローレルの膝から降りようと思ったのに、腰をホールドする腕がそれを拒んだ。
「は、離して、ローレル様」
「嫌だ」
どこの幼子だ。三歳のマシューのほうがよほど聞き分けが良いぞ。
ジェマイマはローレルを睨んでみたが、ローレルはそんなのはそよ風くらいにしか思わないようだった。
「殿下、お控えください。我々の目の前で交わるおつもりですか」
何言ってんだこの侍従!
ジェマイマは首だけ後ろに回して、とんでもないことを言ったスティーブを見た。だが、彼の隣で能面のような顔をするアルフレッドとうっかり目が合って、ギギギと音がするようにローレルへと向き直った。
「アルフレッドが怒っているわ。ローレル様、血を見たくなければ降ろしてちょうだい」
「は?アイツ、私になにかする気かな?良いよ、受けて立ってやろう」
今世でも、とことんヤル気なローレルだった。
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