ヴィオレットの夢

桃井すもも

文字の大きさ
11 / 48

東国の諺

しおりを挟む
東の国には「棚から牡丹餅」と云う諺があるらしい。

それでは、コレがそう云うことね!
と、ヴィオレットは心の内で手を叩いた。


「ああ、その夢なら多分僕が叶えられるよ。」

昼食の席でアルフレッドが造作も無いと云うふうに語った。
ヴィオレットはこの時、嬉しさの余り目眩を覚えたのを覚えている。

クラスでは、帝国の公爵家令嬢であるクラリスと席を並べている。

影が薄くとも王女であるヴィオレットに、学園側で忖度したのか公爵家の思惑があるのか、そこは考えないことにした。そうして直ぐにクラリスとは懇意になった。

クラリスの影響で、帝国貴族の子息子女ら学友とも近しくなれたし、昼食の際に声を掛けられる事もある。不敬なんて言葉は、ここには無い。


問題発言は、北西に領地を有する侯爵子息のものであった。

アルフレッドは侯爵家の嫡男である。

帝国の北西に位置する白く輝く山峰。
学園の何処其処から頂を見ることが出来ると噂の白い山は、アルフレッドの生家の領地にあった。
なんと、件の「青い花」の生息する山であった。


帝国に来たならば、いつの日か必ず見たいものがある、と少々鼻息も粗く語ったヴィオレットに、彼は事も無げに叶えられる云ったのであった。


そうであるなら、何時か案内出来るよ。学園の長期休みなどどうかな? 

なんですって!本当によろしいの?!
ああ、でも国元の許可が必要かしら。
ああ、でも是非とも行きたい!

なら、わたくしもご一緒したいわ。殿下にも伺ってみようかしら。

アルフレッドの誘いにヴィオレッタが食い気味に反応すると、クラリスが同調する。

クラリスは帝国の第二皇子の婚約者である。
皇子とは一回り年が違う。

皇子は現在、女王陛下と皇太子を支えながら国政に携わっている。クラリスと婚姻後は、皇太子が後継の男児を得た後に臣下に降りて公爵位を新たに賜る。 
クラリスはそれまでは皇宮で第二皇子妃として暮らすことになる。

一回りも年上の男に乞われて皇族入りするクラリス。
これこそが、愛される令嬢、政略の旨味のある令嬢と云うのだろう、影の薄い己とは大違いである。

ヴィオレットはクラリスを眩しいものを見るような尊敬の念で見つめた。

そんなヴィオレットの心情など微塵も気付かぬクラリスが、殿下はきっと自分も着いて行くと言いそうね。アルフレッド、面倒事になったらごめんなさいね、などと心配している。

ヴィオレットの隣には、金髪に濃い蒼の瞳のクラリス。その隣に焦げ茶の髪に榛色の瞳のアルフレッドが並ぶ。

色の異なる小さな頭を三つ寄せ合って
あれこれ話し込む姿が可愛らしかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...