ヴィオレットの夢

桃井すもも

文字の大きさ
33 / 48

夜会2

しおりを挟む
ホルターネックのドレスを選んだのは、ヴィオレットの僅かばかりの反抗だった。

胸元が駄目だというなら、背を。

意を酌んだ侍女達も、それならば旦那様をギャフンと言わせましょう、とばかりに猛スピードで仕上げてくれた。
侍女、エクセレント。

裾のドレープが美しい。
首元まで隠されているのに、背中は剥き出しになる。
前からは見えないから、ショールを外すまでデイビッドは気付かない筈だ。
後ろ姿は煽情的で、若妻を大人の女性に見せた。

「素晴らしゅうございます、奥様。」
侍女頭の言葉に背を押され、いざ参らん!と戦に出る武人の心持ちとなる。

そうして戦士、もとい侍女らを引き連れて再びデイビッドの元へ戻った。

出立の時間に間に合った。
素晴らしい戦士、もとい侍女らの働きに、後ろ向きの怒りが前向きのそれにチェンジした。

赦すまじ、旦那様。

私は貝になる。
今宵私は、貴方へ一言も発することは無い。

いつかの女教師ポーズのように顎を上げて前に進む。
誰かが「女王様」と呟く声が聴こえた。不敬ですよ。

心無し目線をうろつかせたデイビッドに、宜しくて?参りましょう、と声を掛けてそのまま返事も聞かずに歩みを進める。

小さく漏れ出た笑い、あれはきっと執事だわ。

デイビッドの腕に手を掛けてエスコートを受ける。 

馬車の中では、始終視線は窓の外。

デイビッドがどんな表情をしているかは分からなった。けれど、今夜は一言だって口をきかない決心だ。


ホールに着いてから肩に掛けていたショールを外すと、滑らかな生地から白い背が溢れ覗く。

腰に手を添えて歩みを進めようとしたデイビッドが立ち止まり、こちらを見下ろした。

例の顎を上げた「女教師」のポーズのまま前に進むと、ヴィオレットと呟く小さな声が聴こえた。

それからは、御婦人方に囲まれて、そのドレスはどちらのもの?とか、帝国の流行りを教えて下さらない?とか、ヴィオレットの社交は盛況だ。

苦虫を噛み潰した男(デイビッド)には誰も声を掛けられなかったので、彼の社交は進まなかった。

途中、兄がドレスを褒めてデイビッドに睨まれた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

処理中です...