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第三章
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食堂に入ると直ぐに、声をかけられた。
「ベネディクト、こっちだ」
兄の声に、ベネディクトが声のしたほうを向いて手を振った。
その姿に、今日は生徒会の面々と一緒の昼食になるのだと思った。
給仕係から食事の乗ったトレイを受け取り、兄たちがいるテーブルへと向かうと、先に着ていた彼らはちゃんと二人分の席を確保してくれていた。
生徒会は、兄のアレックスを会長に、三年生が三名、二年生が二名、一年生が一名の計六人から構成されている。
六人一緒となればそれだけでも混雑時のテーブルを占拠することになるのだが、そこにコートニーが加われば更に一人席を取る。
七人で座れば奇数であるから、向かい合わせで座って必ず誰かが一人になる。
コートニーとしては、ランチミーティングの邪魔にならないように、一番端っこの席にいたい。
だが、現会長の兄と副会長のベネディクトが中心となる集団では、コートニーは必然的に真ん中寄りの席となってしまう。
端であるなら食事を終えて、失礼しますとそっと席を立つこともできるのだろうが、両隣を囲まれるような配置となると、そこだけぽっかり席を空けるのは勇気がいった。
ベネディクトが次年度の会長となることが本決まりであるなら、コートニーはそれを機会にミーティングランチに同席することを遠慮しようと思っていた。
それが、今朝には来年の生徒会入りを誘われて、兄まで勧めているということに、薄っすらと落胆をしていたのである。
「コートニー」
名を呼ばれて顔を上げれは、斜め前の席にいる兄と目が合った。
「今日は、お前の好きなピーカンタルトがついているね。良かったな」
兄の言葉通り、トレイには小さく切り分けられたタルトが乗っていた。
「ええ。嬉しいわ」
コートニーが微笑めば、兄は青い瞳を細めて「良かったな」ともう一度言った。
それから暫くは、今日の放課後に取り纏める事項について六人が話すのを、コートニーは静かに聞くともなしに聞きながら食事をする。
「来年度には、コートニーにも入ってもらおうかと思うんだ」
突然、ベネディクトから自分の名が出て、慌てて顔を上げた。話は確かに聞いてはいたが、まだ返事はしていない。寧ろ、どうやって断れば良いのかと思っていたのである。
「ベネディクト様、私はまだお返事してはおりませんわ」
「いいじゃないか、コートニー。現にこうやって今も一緒にいるのだし、それってもう参加しているのと同じだろう?」
兄がすかさずそう言って、コートニーはその先が言えなくなってしまった。
「今朝も言ったけれど、書類仕事を頼めれば、ハリエット嬢も助かると思うんだ」
ベネディクトが言ったハリエットとは、生徒会に所属する女子生徒で、彼女とベネディクトは同じクラスで学んでいる。
何よりハリエットは、兄の婚約者である。
マーモット侯爵家の次女であるハリエットは、学園を卒業したなら兄と結婚することが決まっている。同い年のコートニーとは、近い将来、義姉妹となる。
「確かにコートニー様がいてくだされば、私も助かりますわ」
ハリエットはそう言って、真向かいに座るコートニーに微笑んだ。
「何せ貴方がたときたら、好き勝手に議論をしては話の枝葉をどんどん広げて、それをひとつひとつ議事録に残さねばならないこちらのことなんて、ちっとも考えてくれないのですもの」
そう言って、愚痴も軽やかな冗談にできるハリエットには、侯爵令嬢らしい品と社交的な朗らかさがある。
「悪い悪い、ハリエット。でも君のお陰で生徒会運営が円滑に進んでいるのは確かなことだよ」
兄が隣に座るハリエットにそう言えば、ハリエットは笑みを深めて、
「おだてには乗りませんわ」
と言って、周りに笑い声が起こった。
今ここで反論しても押し切られてしまいそうで、コートニーは、話題がほかに移ったことをよいことに、再び黙って食事をする。
ピーカンタルトがほんのちょっと、沈みかけた気持ちを持ち上げてくれた。
「もしよろしければ」
そこで声を上げたのは、唯一の一年生役員であるイーサンだった。
彼はジョゼフの弟である。
レグモント子爵家は、前妻の遺したジョゼフではなく、後妻の産んだイーサンを嫡男に据えている。
貴族の爵位継承は、男子の直系子孫とされているが、現在の妻が家政を取り仕切る家にあって、一つしか齢の違わない異母兄弟で下の男児が後継になることは、実は稀に見られることである。
ジョゼフもまた、コートニーのように片親を失っていた。
コートニーと違うのは、それがあまりに幼い頃のことで、彼は母親の面影すら憶えていないだろうということだった。
鈍い赤髪に榛色の瞳であるイーサンとジョゼフの見目が全く異なるのは、それぞれが母親に似たからだろう。金髪青眼なのは、今の子爵家ではジョゼフだけである。
「よろしければ、私の婚約者を誘おうかと思っているのですが」
イーサンは、一旦終わった次年度の役員の話を再び持ち出した。
「来年一年、彼女に経験を積んでもらえば、後々先輩がたが卒業されて抜けてしまったあとも、生徒会運営に役立つのではないかと思うんです」
ダービー子爵家の長女であるジョゼフの婚約者も、彼とは同い年であった。
「成る程ね。わかった、考えておこう」
兄の言葉に、コートニーは途端に心が軽くなって、最後のひと口だったピーカンタルトを味わった。
「ベネディクト、こっちだ」
兄の声に、ベネディクトが声のしたほうを向いて手を振った。
その姿に、今日は生徒会の面々と一緒の昼食になるのだと思った。
給仕係から食事の乗ったトレイを受け取り、兄たちがいるテーブルへと向かうと、先に着ていた彼らはちゃんと二人分の席を確保してくれていた。
生徒会は、兄のアレックスを会長に、三年生が三名、二年生が二名、一年生が一名の計六人から構成されている。
六人一緒となればそれだけでも混雑時のテーブルを占拠することになるのだが、そこにコートニーが加われば更に一人席を取る。
七人で座れば奇数であるから、向かい合わせで座って必ず誰かが一人になる。
コートニーとしては、ランチミーティングの邪魔にならないように、一番端っこの席にいたい。
だが、現会長の兄と副会長のベネディクトが中心となる集団では、コートニーは必然的に真ん中寄りの席となってしまう。
端であるなら食事を終えて、失礼しますとそっと席を立つこともできるのだろうが、両隣を囲まれるような配置となると、そこだけぽっかり席を空けるのは勇気がいった。
ベネディクトが次年度の会長となることが本決まりであるなら、コートニーはそれを機会にミーティングランチに同席することを遠慮しようと思っていた。
それが、今朝には来年の生徒会入りを誘われて、兄まで勧めているということに、薄っすらと落胆をしていたのである。
「コートニー」
名を呼ばれて顔を上げれは、斜め前の席にいる兄と目が合った。
「今日は、お前の好きなピーカンタルトがついているね。良かったな」
兄の言葉通り、トレイには小さく切り分けられたタルトが乗っていた。
「ええ。嬉しいわ」
コートニーが微笑めば、兄は青い瞳を細めて「良かったな」ともう一度言った。
それから暫くは、今日の放課後に取り纏める事項について六人が話すのを、コートニーは静かに聞くともなしに聞きながら食事をする。
「来年度には、コートニーにも入ってもらおうかと思うんだ」
突然、ベネディクトから自分の名が出て、慌てて顔を上げた。話は確かに聞いてはいたが、まだ返事はしていない。寧ろ、どうやって断れば良いのかと思っていたのである。
「ベネディクト様、私はまだお返事してはおりませんわ」
「いいじゃないか、コートニー。現にこうやって今も一緒にいるのだし、それってもう参加しているのと同じだろう?」
兄がすかさずそう言って、コートニーはその先が言えなくなってしまった。
「今朝も言ったけれど、書類仕事を頼めれば、ハリエット嬢も助かると思うんだ」
ベネディクトが言ったハリエットとは、生徒会に所属する女子生徒で、彼女とベネディクトは同じクラスで学んでいる。
何よりハリエットは、兄の婚約者である。
マーモット侯爵家の次女であるハリエットは、学園を卒業したなら兄と結婚することが決まっている。同い年のコートニーとは、近い将来、義姉妹となる。
「確かにコートニー様がいてくだされば、私も助かりますわ」
ハリエットはそう言って、真向かいに座るコートニーに微笑んだ。
「何せ貴方がたときたら、好き勝手に議論をしては話の枝葉をどんどん広げて、それをひとつひとつ議事録に残さねばならないこちらのことなんて、ちっとも考えてくれないのですもの」
そう言って、愚痴も軽やかな冗談にできるハリエットには、侯爵令嬢らしい品と社交的な朗らかさがある。
「悪い悪い、ハリエット。でも君のお陰で生徒会運営が円滑に進んでいるのは確かなことだよ」
兄が隣に座るハリエットにそう言えば、ハリエットは笑みを深めて、
「おだてには乗りませんわ」
と言って、周りに笑い声が起こった。
今ここで反論しても押し切られてしまいそうで、コートニーは、話題がほかに移ったことをよいことに、再び黙って食事をする。
ピーカンタルトがほんのちょっと、沈みかけた気持ちを持ち上げてくれた。
「もしよろしければ」
そこで声を上げたのは、唯一の一年生役員であるイーサンだった。
彼はジョゼフの弟である。
レグモント子爵家は、前妻の遺したジョゼフではなく、後妻の産んだイーサンを嫡男に据えている。
貴族の爵位継承は、男子の直系子孫とされているが、現在の妻が家政を取り仕切る家にあって、一つしか齢の違わない異母兄弟で下の男児が後継になることは、実は稀に見られることである。
ジョゼフもまた、コートニーのように片親を失っていた。
コートニーと違うのは、それがあまりに幼い頃のことで、彼は母親の面影すら憶えていないだろうということだった。
鈍い赤髪に榛色の瞳であるイーサンとジョゼフの見目が全く異なるのは、それぞれが母親に似たからだろう。金髪青眼なのは、今の子爵家ではジョゼフだけである。
「よろしければ、私の婚約者を誘おうかと思っているのですが」
イーサンは、一旦終わった次年度の役員の話を再び持ち出した。
「来年一年、彼女に経験を積んでもらえば、後々先輩がたが卒業されて抜けてしまったあとも、生徒会運営に役立つのではないかと思うんです」
ダービー子爵家の長女であるジョゼフの婚約者も、彼とは同い年であった。
「成る程ね。わかった、考えておこう」
兄の言葉に、コートニーは途端に心が軽くなって、最後のひと口だったピーカンタルトを味わった。
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