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第二十九章
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ベネディクトとの離縁は、呆気ないものだった。
それらは、公爵家も伯爵家の義父も承知のことで、最後まで知らされずにいたのはコートニーただ一人だった。
コートニーが心をジョゼフに向けたままベネディクトに身を寄せたのとは逆に、ベネディクトはまるで、王女に寄り添いながら心ばかりはコートニーを求めている、そんな有り様だった。
離縁して帰国をすると、第二王女は姫君の頃に戻ったようにますます美しさに磨きをかけて、二人は想い合う物語の主人公のように噂された。
それは学生時代に読み耽ったあの小説を思い出させた。
ベネディクトもまた、身分違いの恋に捕われてしまったのだろう。
身分の高いものから求められて、力が及ばなければそれを受けるほかは道がない。
それはまるで、嘗ての母と父であり、義父と母であり、ベネディクトとコートニーのようであった。
今はそれが王家と公爵家であり、王女とベネディクトなのだろう。
王女とは逢瀬を重ねるのに、ベネディクトは夜になると執拗にコートニーを求めた。まるで置いていかないでと駄々をこねる幼子のように、コートニーを抱きしめて朝まで離してはくれなかった。
だがある夜を境に、ベネディクトはコートニーに子種を授けることをやめた。そしてその翌日、彼は結婚して初めての外泊をした。
晩餐の席にはベネディクトの場所だけがぽっかりと空いており、義父も義母もそれにはなにも言わなかった。
彼らは寧ろ、コートニーを気にかけていた。
なにが起こっても、コートニーからはなにも尋ねることはなかったから、彼らはきっと、コートニーが全てを承知して身を引く覚悟を持っていると思ったのだろう。
離縁に際しては、十分すぎるほどの慰謝料が提示された。
公爵家嫡男の妻の身分と貴族の籍を失っても、これまでと変わらない質の暮らしができることは、額面を聞いただけで容易にわかった。
王女との交わりを得たベネディクトは、コートニーには触れられなくなった。離縁の名目がコートニーの不妊にあるなら、万が一にもこんなときに懐妊されては困るのだろう。
美しい王女を迎え入れるために、密かに公爵家が支度を始めているのも薄々感じられることだった。
公爵邸にいて、コートニーの周りだけが薄い膜で覆われるように、あらゆることが密やかに進められる気配があった。
それなのに、相変わらずなにも尋ねることのないコートニーに、どうしてなのかベネディクトのほうが泣きたいような顔を見せた。
寝台を別にしてひと月が経ち、コートニーに月のものが始まったその翌日に、コートニーはベネディクトから離縁を告げられた。
二人が幾度もお茶を楽しんだティールームではなく、話し合いは応接室で行われた。話し合いというよりも、一方的な通告である。
テーブルの上にはすでに、離縁誓約書とペンが用意されていた。空白は、コートニーの署名欄だけだった。
随分と残酷なことをされているのだろう。元より話し合いではなく、選べる道は一つしかなかった。
「コートニー、すまない」
ベネディクトは、コートニーが粗方のことを知っていると思ったのだろう。開口一番に謝罪した。
「受けないわけにはいかなかった。ロレイン王女には、当家よりほかには行く宛てがなかった」
名だたる名門貴族の中で、年頃の合う令息には全て伴侶がいた。子もいる夫婦を引き離すことは、娘から引き離された王女にはできないことで、そこで白羽の矢が立ったのがベネディクトなのだと言った。
ロレイン王女が隣国へ嫁ぐ前からベネディクトに恋慕を抱いていたという噂について、ベネディクトは触れることはしなかった。
王家に忠誠を誓う公爵家には、王命に近い申し出を断ることはできなかったと、ベネディクトは青い顔に汗を滲ませて説明した。
彼は不誠実ではなかったと思う。全ては王家の計らいの上にあり、コートニーには最後まで秘していなければならなかったのだろう。
コートニーは、そこを確かめても仕方のないことだと思った。抗えない奔流に呑み込まれているのはコートニーばかりではないのだと、目の前の、もうすぐ別れる夫の顔を見つめて思った。
もうすでに舞台は整えられて、あとはコートニーが退場するばかりだった。
「離縁だなんて、そんなこと⋯⋯」
苦しそうに呟いてから、ベネディクトは訥々と語りはじめた。
「君との婚約を望んだときに、母ははじめ好ましくは思ってくれなかった」
それはコートニーも知っていることだった。
片親に男爵家の血筋を持つコートニーとの縁談に、公爵夫人は当初は渋っていた。
「それを勤勉に学んで、母のお墨付きをもらったのは君の努力があってのことだ。君は私と公爵家を軽んじることはしなかった」
軽んじる術なんて、はじめからコートニーは持ち合わせてはいなかった。
「あの男を選ばなかったことで、母は君を認めていたんだ」
「ご存知だったの?」
コートニーは驚いた。まさかベネディクトと公爵家がジョゼフの存在を知っていたなんて。
「ああ」
ベネディクトはそこで、ふっと笑みを漏らした。
いつだか学園でジョゼフを追い越したときに、ベネディクトは鞄がぶつかってもそれには謝罪をしなかった。もしかしたら、あの頃にはすでにコートニーの気持ちに気づいていたのだろうか。
「君は一度も私を愛しているとは言ってくれなかったね。嘘をつけない、そんなところも私は好きだった。それなのに君を裏切ったのは私のほうだ」
ベネディクトは貴族らしい鷹揚な気質で、滅多なことでは謝罪をしない。離縁がその滅多なことであるのに、コートニーは苦しげに頭を下げたベネディクトを不思議な気持ちで見つめていた。
ベネディクトは、ずっと変わらずコートニーに愛情を傾けて、だがそれに応えなかったのはコートニーのほうだった。
どれだけ従順に全てを受け入れても、心の奥に住むジョゼフを手放すことはしなかった。
「どうか、幸せになってくれ」
ベネディクトはまるで、自分の幸福ごと別れを告げるようなことを言った。
だがコートニーは、彼はこれからも幸せであるだろうと思った。
ジョゼフとの人生を諦めたコートニーは、だからと言って不幸なわけではなかった。
結果がどうあれ、ベネディクトと公爵家はコートニーを受け入れて大切にしてくれたし、日々は哀しいばかりではなかった。
愛されることに後ろめたさを感じていても、夫から熱烈に愛を囁かれることは、確かに妻にとっての幸せなのだと知った。
ベネディクトには、感謝をしていた。
なにもなければこのままずっと、心の奥にジョゼフを抱きながら、コートニーはベネディクトの妻としてベネディクトに寄り添い生きていたのだろう。
長い年月を経た後には、もしかしたらジョゼフのことも、いずれ甘く切なく懐かしい思い出になったのかもしれない。
そんな人生も或いはあったかもしれないのに、運命は再びコートニーに道を差し出した。
「貴方も。どうかお幸せに、ベネディクト様」
今度はベネディクトを愛する女性と、幸せを得てほしいと思った。
だがベネディクトは、
「君を失って得られる幸福なんて、あるわけがないだろう」
そう言って、瞼を震わせ目を伏せた。
それらは、公爵家も伯爵家の義父も承知のことで、最後まで知らされずにいたのはコートニーただ一人だった。
コートニーが心をジョゼフに向けたままベネディクトに身を寄せたのとは逆に、ベネディクトはまるで、王女に寄り添いながら心ばかりはコートニーを求めている、そんな有り様だった。
離縁して帰国をすると、第二王女は姫君の頃に戻ったようにますます美しさに磨きをかけて、二人は想い合う物語の主人公のように噂された。
それは学生時代に読み耽ったあの小説を思い出させた。
ベネディクトもまた、身分違いの恋に捕われてしまったのだろう。
身分の高いものから求められて、力が及ばなければそれを受けるほかは道がない。
それはまるで、嘗ての母と父であり、義父と母であり、ベネディクトとコートニーのようであった。
今はそれが王家と公爵家であり、王女とベネディクトなのだろう。
王女とは逢瀬を重ねるのに、ベネディクトは夜になると執拗にコートニーを求めた。まるで置いていかないでと駄々をこねる幼子のように、コートニーを抱きしめて朝まで離してはくれなかった。
だがある夜を境に、ベネディクトはコートニーに子種を授けることをやめた。そしてその翌日、彼は結婚して初めての外泊をした。
晩餐の席にはベネディクトの場所だけがぽっかりと空いており、義父も義母もそれにはなにも言わなかった。
彼らは寧ろ、コートニーを気にかけていた。
なにが起こっても、コートニーからはなにも尋ねることはなかったから、彼らはきっと、コートニーが全てを承知して身を引く覚悟を持っていると思ったのだろう。
離縁に際しては、十分すぎるほどの慰謝料が提示された。
公爵家嫡男の妻の身分と貴族の籍を失っても、これまでと変わらない質の暮らしができることは、額面を聞いただけで容易にわかった。
王女との交わりを得たベネディクトは、コートニーには触れられなくなった。離縁の名目がコートニーの不妊にあるなら、万が一にもこんなときに懐妊されては困るのだろう。
美しい王女を迎え入れるために、密かに公爵家が支度を始めているのも薄々感じられることだった。
公爵邸にいて、コートニーの周りだけが薄い膜で覆われるように、あらゆることが密やかに進められる気配があった。
それなのに、相変わらずなにも尋ねることのないコートニーに、どうしてなのかベネディクトのほうが泣きたいような顔を見せた。
寝台を別にしてひと月が経ち、コートニーに月のものが始まったその翌日に、コートニーはベネディクトから離縁を告げられた。
二人が幾度もお茶を楽しんだティールームではなく、話し合いは応接室で行われた。話し合いというよりも、一方的な通告である。
テーブルの上にはすでに、離縁誓約書とペンが用意されていた。空白は、コートニーの署名欄だけだった。
随分と残酷なことをされているのだろう。元より話し合いではなく、選べる道は一つしかなかった。
「コートニー、すまない」
ベネディクトは、コートニーが粗方のことを知っていると思ったのだろう。開口一番に謝罪した。
「受けないわけにはいかなかった。ロレイン王女には、当家よりほかには行く宛てがなかった」
名だたる名門貴族の中で、年頃の合う令息には全て伴侶がいた。子もいる夫婦を引き離すことは、娘から引き離された王女にはできないことで、そこで白羽の矢が立ったのがベネディクトなのだと言った。
ロレイン王女が隣国へ嫁ぐ前からベネディクトに恋慕を抱いていたという噂について、ベネディクトは触れることはしなかった。
王家に忠誠を誓う公爵家には、王命に近い申し出を断ることはできなかったと、ベネディクトは青い顔に汗を滲ませて説明した。
彼は不誠実ではなかったと思う。全ては王家の計らいの上にあり、コートニーには最後まで秘していなければならなかったのだろう。
コートニーは、そこを確かめても仕方のないことだと思った。抗えない奔流に呑み込まれているのはコートニーばかりではないのだと、目の前の、もうすぐ別れる夫の顔を見つめて思った。
もうすでに舞台は整えられて、あとはコートニーが退場するばかりだった。
「離縁だなんて、そんなこと⋯⋯」
苦しそうに呟いてから、ベネディクトは訥々と語りはじめた。
「君との婚約を望んだときに、母ははじめ好ましくは思ってくれなかった」
それはコートニーも知っていることだった。
片親に男爵家の血筋を持つコートニーとの縁談に、公爵夫人は当初は渋っていた。
「それを勤勉に学んで、母のお墨付きをもらったのは君の努力があってのことだ。君は私と公爵家を軽んじることはしなかった」
軽んじる術なんて、はじめからコートニーは持ち合わせてはいなかった。
「あの男を選ばなかったことで、母は君を認めていたんだ」
「ご存知だったの?」
コートニーは驚いた。まさかベネディクトと公爵家がジョゼフの存在を知っていたなんて。
「ああ」
ベネディクトはそこで、ふっと笑みを漏らした。
いつだか学園でジョゼフを追い越したときに、ベネディクトは鞄がぶつかってもそれには謝罪をしなかった。もしかしたら、あの頃にはすでにコートニーの気持ちに気づいていたのだろうか。
「君は一度も私を愛しているとは言ってくれなかったね。嘘をつけない、そんなところも私は好きだった。それなのに君を裏切ったのは私のほうだ」
ベネディクトは貴族らしい鷹揚な気質で、滅多なことでは謝罪をしない。離縁がその滅多なことであるのに、コートニーは苦しげに頭を下げたベネディクトを不思議な気持ちで見つめていた。
ベネディクトは、ずっと変わらずコートニーに愛情を傾けて、だがそれに応えなかったのはコートニーのほうだった。
どれだけ従順に全てを受け入れても、心の奥に住むジョゼフを手放すことはしなかった。
「どうか、幸せになってくれ」
ベネディクトはまるで、自分の幸福ごと別れを告げるようなことを言った。
だがコートニーは、彼はこれからも幸せであるだろうと思った。
ジョゼフとの人生を諦めたコートニーは、だからと言って不幸なわけではなかった。
結果がどうあれ、ベネディクトと公爵家はコートニーを受け入れて大切にしてくれたし、日々は哀しいばかりではなかった。
愛されることに後ろめたさを感じていても、夫から熱烈に愛を囁かれることは、確かに妻にとっての幸せなのだと知った。
ベネディクトには、感謝をしていた。
なにもなければこのままずっと、心の奥にジョゼフを抱きながら、コートニーはベネディクトの妻としてベネディクトに寄り添い生きていたのだろう。
長い年月を経た後には、もしかしたらジョゼフのことも、いずれ甘く切なく懐かしい思い出になったのかもしれない。
そんな人生も或いはあったかもしれないのに、運命は再びコートニーに道を差し出した。
「貴方も。どうかお幸せに、ベネディクト様」
今度はベネディクトを愛する女性と、幸せを得てほしいと思った。
だがベネディクトは、
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