王妃の手習い

桃井すもも

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貴方の声が届かない

「オフィーリア」

再び名を呼ばれる。

何でしょう。
オフィーリアは、一年分の点呼を受けている気がして来た。


「君は耳が良いそうだね。」

まただ。


「僕が君を呼ぶ声は、どうやら君には聴こえていないらしいね。」

「流石の君の耳にも、僕の声は届かないらしい。」


オフィーリアは漸く気が付いた。

アンドリューが痛烈な嫌味を放っている。

ネチネチ、
ネチネチと。


と、その時

ガタンと小さな音がして、殿下が立ち上がったかと思うと、二人の間に置かれているローテブルを跨いだ。
アンドリューの両膝がオフィーリアの身体を挟む。


あっ、と思わず小さく声が漏れると同時に、「殿下!」という、囁くような、それでいて窘めの強さを持つ侍従の声が重なる。


一瞬何が起こったのか理解が及ばなかった。

何時ぞやのデジャヴのような感覚に思考が混乱する。


ローテーブルを乗り越えたアンドリューが、向かいに座っているオフィーリアに飛び乗って来たのだと理解した時には、

オフィーリアは完全にアンドリューの屈んだ両足に挟まれていた。


「殿下!」
再び侍従の、例の囁くような、それでいて窘めの強さを持つ声が掛かる。

戸惑う護衛に侍女。


「オフィーリア。」

両手でオフィーリアの頬を包んで顔を上向かせたアンドリューが、声を掛ける。


「君には解って欲しいんだよ。僕が何を思っているのか。」


余りの出来事に慄いていたオフィーリアであったが、荒ぶるアンドリューの考えも及ばない行動とは裏腹に、

蒼い瞳が美し過ぎて、なんだか泣いているように見えた。
    

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