お飾り王妃の日常

桃井すもも

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お飾り王妃の回想

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 ふう。暇ね。
 飾られ過ぎて本日も暇なり。
 外は晴天なり。

 はぁ、日記に書けるのが、暇とお天気だけだなんて。夏休みの宿題失格ね。

 暇だから回想しよう。
 私の半生。聞いても面白くない、平凡な私の生い立ち。


 ブリジットは二十四年前、クラレンス公爵家の三女として生を受けた。
 春の日差しを体現したような淡い金の髪に菫色の瞳を持った美しい嬰児みどりごであった。

 時の王妃が懐妊中で、同じ月が産み月になる予定であったのが、ブリジットがひと足先に誕生した。
 王妃の産むお子が姫であればお友達側近に、王子であれば妃になるのは既定のことであった。

 過去にも幾度も妃を輩出し、王女の降嫁の歴史があるクラレンス公爵家は、既にもう一つの王家と言っても過言ではない。

 貴族カースト最高峰に位置する令嬢、それがブリジットであった。


 ブリジットは、幼心に自分自身を平凡で面白みの無い人物だと自覚していた。母も二人の姉も、何なら父も兄も、美の極致であったから。

 王家の血も流れる公爵家に美が集まるのは必然で、美しい男子が生まれれば美しい妻が娶られる。代々重ねられた美には、もう王家すら敵わない。
 そんな中で、ブリジットは控えめであった。

 姉が華やかな金髪であれば、ブリジットは淡い金の髪。母が濃いサファイアの瞳であれば、ブリジットは菫色。
 肌ばかりが抜けるように白く、夕暮れ時に鏡の前を通ったブリジットは、鏡に映る己の姿を幽鬼と見間違い、大泣きに泣いた。

 侍女が、「ブリジット様は幽鬼などではありません。妖精姫なのです」
と慰めたのを、大人はみんな嘘つきなのだと覚えた。

 右を見ても左を見ても美しい家族に囲まれて、どこまでも己を低く評する、そんな令嬢であった。


「こんな可憐な王子っているの?」

 だからブリジットは、生まれながらの婚約者、第一王子・ロビンに会っても、この世には華やかな美のみならず、可憐な美があるのだと慄いた。

 幼いロビンは可憐であった。
 顎で切り揃えた髪がもっと長くて、そこにドレスを着たならば、他国の王子が妃にと望んだとしても責められまい。

 ロビンの隣にいるのは、ブリジットは苦手であった。生まれたときから一緒にいるのに全然慣れない。

 ロビンばかりが、ブリジット、ブリジットと、まるで姉を慕うようについて歩く。

 ブリジット→ロビン→侍従→侍女1→侍女2→護衛1→護衛2の具合に、百虫ムカデさながらの行列は王城名物であった。

 幼い頃は小柄であったロビンが、少しばかり背の高いブリジットの妹に見えても仕方あるまい。

 烟る金の髪はブリジットにはない鮮やかな艶がある。ロイヤルブルーの瞳は言わずもがな。だってロイヤルなのだから。

 王家を体現する王子の婚約者である自身を、完全なる役不足とブリジットが捉えるのに然程年数はかからなかった。

 物心がつく頃には、私は職業王妃になるのだわと、誰も一言もそんなことは言っていないのに、当然の事だと受け止めたブリジットなのであった。


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