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お飾り王妃の瞳
「神眼?」
「そう。神眼ではないかと思うんだ」
王妃の間に客人が訪れている。
王ではない。王は1時間毎の王妃の間巡回業務を怠ることは決してないが、本日は王都郊外まで視察に出でいる。
では王妃は帯同しなくて良いのかと聞けば、
「お外は雨が降っている。濡れてはいけない。君は残っていなさい」
と、どこの幼子へ言っているのかという戯言を言ってブリジットを城に残した。
なんてことはない。工場視察であったのだが、男ばかりの工場と聞いた。野郎共の視線に妻を曝すのが嫌なだけであったのだが。(誰も王妃を邪な目で見たりせん、邪なのはお前じゃあと皆思っている)
結果、妻とこの男との茶会を意図せず許してしまうという下手に打つことになった。
帰ってきたら、キーっとかクーっとか、ヒステリーの御婦人の如くハンカチを噛み千切るのが目に見えているが、ブリジットも使用人たちもそんなことは知った事ではない。
「まあ、良い香り」
「そうでしょう?初摘みの茶葉なんだよ」
「ええ、確かに。爽やかな果実の香りがするわ。流石は貴方の国の初摘み茶葉ね」
「喜んでもらえたなら嬉しいよ」
お前たちも飲んでみてね、とブリジットが目配せをして使用人たちもありがとうございますと黙礼する。
全て無言のやり取りであったが、互いの言いたいことは手に取るようにわかる主従たちなのである。
その様子を眦を下げて見つめていた男が、
「貴女のその瞳は神眼なのだと思うんだ」
ブリジットの向かいで紅茶の香りを楽しんで、ひとくち口に含んだ隣国の第二王子、ヘンリー殿下が言う。
先の夜会に招かれてから暫くこちらに滞在している。
「我が国の聖教はご存知かな?」
「ええ、女神を信仰するものだと」
「そう。女神は神眼をお持ちなのだよ」
「まあ。それはどういう?」
「真実を見通す力さ。女神の御前で偽りも謀りも許されることはない。真実のみを映し出す尊い瞳さ」
「それが私とどういう関係が?」
「君の瞳だよ」
学園生時代に発現したブリジットの能力。
よく見、聞き、そして忘れず。
日頃から、己を軸に360度全範囲に注意を注ぎ、よく見てよく聴く習慣が超の付く能力まで昇華されたがために、視野を外れた広範囲の音を認識できるようになった。
瞳を閉じて心を鎮め、密かな物音に耳を傾ける。精神を研ぎ澄まして注力すると、あら不思議。
眼前に活動写真の如く映像が展開される。
それがブリジットの能力である。
彼女はこの力を駆使して、先日大失敗(三日三晩の受難)したばかりである。
「私のこれは単なる習慣からのものよ。そんな大層な力ではないわ」
「そうかな?君のその能力は君が思う以上に有名だよ」
ヘンリーの言葉は決して大袈裟なものではない。ブリジットのこの能力は実のところ広く世間に知られている。当然、王城の中ばかりではなく民にも周知されている。
それは国を離れた大陸諸国に於いても同様であった。王妃様には何でも聴こえて何でも見える。
嘘偽りは見破られる。
民はそう語っているし、幼子はそう親から教わる。
城の者達も、何でもお見通しの王妃のお膝元で不正を行おうなどとは考えも及ばない。王妃の稀有な能力が抑止力となって、王国の政にも均衡が保たれている。
本人はその力の貴重性を全く理解しておらず、王城サーチもお飾りの役立たず王妃が暇つぶしに、ちょっとそこいらを覗いているくらいにしか考えていない。
ロビンがブリジットの身辺に神経質なほど細心の注意を払うのは、とりも直さず、妻が至極美しい(ロビン調べ)上に、聖人とも認められて当然のその希少な能力(ロビン調べ)故に、国内ばかりか諸外国からも狙われて拐われでもしてはならないと警戒しているからであった。
「そう。神眼ではないかと思うんだ」
王妃の間に客人が訪れている。
王ではない。王は1時間毎の王妃の間巡回業務を怠ることは決してないが、本日は王都郊外まで視察に出でいる。
では王妃は帯同しなくて良いのかと聞けば、
「お外は雨が降っている。濡れてはいけない。君は残っていなさい」
と、どこの幼子へ言っているのかという戯言を言ってブリジットを城に残した。
なんてことはない。工場視察であったのだが、男ばかりの工場と聞いた。野郎共の視線に妻を曝すのが嫌なだけであったのだが。(誰も王妃を邪な目で見たりせん、邪なのはお前じゃあと皆思っている)
結果、妻とこの男との茶会を意図せず許してしまうという下手に打つことになった。
帰ってきたら、キーっとかクーっとか、ヒステリーの御婦人の如くハンカチを噛み千切るのが目に見えているが、ブリジットも使用人たちもそんなことは知った事ではない。
「まあ、良い香り」
「そうでしょう?初摘みの茶葉なんだよ」
「ええ、確かに。爽やかな果実の香りがするわ。流石は貴方の国の初摘み茶葉ね」
「喜んでもらえたなら嬉しいよ」
お前たちも飲んでみてね、とブリジットが目配せをして使用人たちもありがとうございますと黙礼する。
全て無言のやり取りであったが、互いの言いたいことは手に取るようにわかる主従たちなのである。
その様子を眦を下げて見つめていた男が、
「貴女のその瞳は神眼なのだと思うんだ」
ブリジットの向かいで紅茶の香りを楽しんで、ひとくち口に含んだ隣国の第二王子、ヘンリー殿下が言う。
先の夜会に招かれてから暫くこちらに滞在している。
「我が国の聖教はご存知かな?」
「ええ、女神を信仰するものだと」
「そう。女神は神眼をお持ちなのだよ」
「まあ。それはどういう?」
「真実を見通す力さ。女神の御前で偽りも謀りも許されることはない。真実のみを映し出す尊い瞳さ」
「それが私とどういう関係が?」
「君の瞳だよ」
学園生時代に発現したブリジットの能力。
よく見、聞き、そして忘れず。
日頃から、己を軸に360度全範囲に注意を注ぎ、よく見てよく聴く習慣が超の付く能力まで昇華されたがために、視野を外れた広範囲の音を認識できるようになった。
瞳を閉じて心を鎮め、密かな物音に耳を傾ける。精神を研ぎ澄まして注力すると、あら不思議。
眼前に活動写真の如く映像が展開される。
それがブリジットの能力である。
彼女はこの力を駆使して、先日大失敗(三日三晩の受難)したばかりである。
「私のこれは単なる習慣からのものよ。そんな大層な力ではないわ」
「そうかな?君のその能力は君が思う以上に有名だよ」
ヘンリーの言葉は決して大袈裟なものではない。ブリジットのこの能力は実のところ広く世間に知られている。当然、王城の中ばかりではなく民にも周知されている。
それは国を離れた大陸諸国に於いても同様であった。王妃様には何でも聴こえて何でも見える。
嘘偽りは見破られる。
民はそう語っているし、幼子はそう親から教わる。
城の者達も、何でもお見通しの王妃のお膝元で不正を行おうなどとは考えも及ばない。王妃の稀有な能力が抑止力となって、王国の政にも均衡が保たれている。
本人はその力の貴重性を全く理解しておらず、王城サーチもお飾りの役立たず王妃が暇つぶしに、ちょっとそこいらを覗いているくらいにしか考えていない。
ロビンがブリジットの身辺に神経質なほど細心の注意を払うのは、とりも直さず、妻が至極美しい(ロビン調べ)上に、聖人とも認められて当然のその希少な能力(ロビン調べ)故に、国内ばかりか諸外国からも狙われて拐われでもしてはならないと警戒しているからであった。
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