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凍てつく百合の令嬢は、婚約者の弟に狂おしく愛される
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しおりを挟むグラース様が置いていった一輪挿しに目をやる。
「グラース様は、嘘が苦手な方だわ」
彼は嘘をつくとき、頬がぴくりと動く癖がある。
昔から知っているからこそ、分かる仕草だった。
(ずっと気づいていた、だけど気づかないふりをしていた。イグニス様が、私を愛してなどいないことに……)
だけど、そうだったとしても、私はイグニス様のことが好きで、彼と一緒に添い遂げたいと、ずっと思っていたのだ。
(私は……私が悪いから、イグニス様に愛されないのだと思ってずっと生きていた)
その事実を受け入れるのに時間がかかってしまった。
(ぶつけようのない怒りを、グラース様は受け入れようとしてくれていた)
おそらく、彼が嘘をついていなければ、自分はあのまま自死を繰り返して、今生きていなかったかもしれない。
「優しい人……」
(あの人に抱かれていって、確かに生を感じることの出来る感覚が戻ってきたように思う。彼に抱かれたからこそ、私を非難して自分を省みないイグニス様が間違っていたのだと分かる)
死者に抱くべき感情ではないかもしれないが、生前のイグニスの呪縛から解き放たれたような気がしていた。
「私も、グラース様のことを……」
次に彼が訪れた時に、嘘に気づいていることを伝えてみようと思う。
百合の花へと目をやる。
孤高の百合が、窓から吹く風に、嬉しそうにそっと揺れていた。
※※※
彼らが、互いの想いを伝え合う瞬間はもうすぐそこまでやってきていたのだった。
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