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奪われたので、奪い返すことにしました

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(わたし、シリウスにキスされてる……)

 まさか初めての口づけが、女性相手になるとは思いもしない。
 
 彼女の舌が、わたしの口の中をぬるりと動いた。
 初めて感じるぞくぞくとした感覚に、自分のものとは思えないあられもない声が上がる。

「っあ……んっ……ふ……」

 デネブが嘆く。

「君たち、女性同士だというのに……」

 そんな彼に向かって、シリウスは微笑んだ。

「私の格好をよく見て、デネブ侯」

 デネブの視線が、シリウスの着ている服へと移る。

「ま、まさか……あなたは……セレーネ家の……」

 わたしも追って、シリウスの格好に目をやる。

(え? そんな……嘘でしょう?)


 シリウスは白いフロックコートに青いクラヴァットを身に着けていたのだ。
 震えるデネブに、シリウスは蕩けるような笑顔を向け、こう言った。


「そう、ご名答。私は、セレーネ家次期当主・シリウス・セレーネ。正真正銘、女性じゃなくて男性だよ」

 わたしは声にならない声をあげた。

(シリウスが男性だったなんて……!)

「そ、そんな……そんな……」

 シリウスと対峙しているデネブは、混乱しているようだった。
 そんなデネブに、シリウスは問いかける。

「ねえ、デネブ侯、今日は私の婚約者の発表だったよね? さて、その婚約者は誰だと思う?」

(そう言えば、そういう話だった気がする)

「ま、まさか……」

「私の婚約者は、スピカだよ。元婚約者さん」


(え、え~~!!!!?)

 またしても衝撃的な事実をシリウスは口にする。

 彼はデネブに続けた。

「スピカから話は聞いているよ。なんでも酷い振り方をしたらしいね。さて、どうしたものか?」

「ひっ……!」

 シリウスはいったいどんな顔を浮かべていたのだろうか?

 シリウスの笑顔を受けたデネブは、慌ててその場を立ち去ったのだった。

(さようなら、デネブ……)

 もう自分は彼に全く未練がないことに気づいてしまう。

「パーティの会場で、デネブ候が、私のスピカを連れて行ってしまった。ねえ、だからね……」

 そうして、残されたシリウスが、わたしに向かって手を差し伸ばしてきた。

「奪われたから、奪い返すことにしたんだ」

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