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 催眠が本当に効くのかどうかは知らない。
 だけど、既成事実を作って……そうしたら身体の関係から徐々に本当の夫婦に近付けたら……。

「いいから、このぬいぐるみの眼をみてください! 私の言うことを聞きたくなってください! ほら、言うことを聞いてください……! 良いから私をちゃんと妻にしてください! でないと私は……私は……」


 テレーゼの瞳から涙が零れ落ちた。


「テレーゼ」


 崩れ落ちた彼女は切々と告げる。


「別に愛がなくても構いません。妻としての義務を果たしたいだけなんです」


 彼のこめかみがピクリと動いたが気づいていない。


「ここまでお前が思いつめているとは思わなかった。今までお前から逃げて来た俺にも非がある。だが、こんな形で、義務を果たすとか言って、どうでも良い男に愛されても良いのかよ? お前は……」


 ぽつりとマクシミリアンが告げた。


「良いんです。このままだと、私は貴方と別れさせられて、他の男に嫁がされるだけで……そんなの祖国とやっていることは同じです。私は母のように二夫にふまみえたくないのです……愛は要らなくて……だから、どうかお願いだから、私を貴方の妻に……」


 泣き崩れたテレーゼの手の中で、黒猫のぬいぐるみがぐしゃりとつぶれる。
 彼女のそばにマクシミリアンが跪いた。
 部屋の端にあるコスモスの花が揺れる。

「素直にならないと全てを失う……か」

 節くれだった指が彼女の髪を梳きはじめる。

「ああ、まずいな……体が勝手に動きはじめた」

「え……?」

 マクシミリアンがテレーゼを見つめる。
 アイスブルーの瞳に溶けてしまいそうな気持ちになった。

「いつの間にか、本当に綺麗に育ったな……テレーゼ」

 何度か髪を梳かれた後、彼の唇が彼女の唇に近付いてくる。

「んっ……」

 初めての柔らかな口づけ。
 テレーゼの心が躍った。
 彼の大きな手が、なだらかな膨らみに沈みこんできて、変形をはじめる。

「あっ……んっ……はっ……」

 懊悩な声が漏れ出た。
 しばらく愛撫が続いたかと思うと、彼の手が離れた。

「あんまり煽ってくれるなよ……――?」

 テレーゼの身体は、ひょいとマクシミリアンに抱きかかえられる。
 そうして、ベッドの上に押し倒された。
 彼の重みが柔らかく彼女の上にかかった。彼女は下腹部に熱の塊を感じる。
 心なしか夫の青い瞳が蕩けて見えた。


「テレーゼ……――ずっと我慢してたんだ。もう制御は効かない。お前からの催眠が効いちまったみたいだ。なあ、俺をこうした責任をとってくれよ……――」


(――催眠が効いた……――!?)


 夫から妻への愛撫がはじまった光景を、一輪のコスモスが見守っていたのだった。

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