【R18】異母妹を正妻にするのでしょう? でしたら、悪妻の私は死ぬことにしますね

おうぎまちこ(あきたこまち)

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10 アルフォンスside

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 アルフォンスは急いで馬車で公爵家の屋敷へと戻っていた。
 キャビネットの中、窓の外を眺めながら溜息を吐く。

(どうしてだろう……)

 どうして自分はこんなにも自分の想いを伝えることが出来ないのだろうか?
 レティシア。
 幼少期から、幼馴染というには遠くて、他人というには近しい存在だった。
 妻になってくれたけれど、相変わらず遠い所にいる気がしている。

(あの人は……)

 けれども、彼女が自分のことを苦手に思っているのは知っている。
 だけど、どうにか関心が引けないだろうかとずっと考えていたのだ。
 浅はかだとは思っていたけれど……
 他の女性と自分が懇意にしていると噂が流れれば、もしかしたら、彼女の関心が引けるのではないか?
 そんな愚かな考えが頭を過ってしまった。

「そんなことで関心が引けるわけもないのにな」
 
 アルフォンスは自嘲めいた笑みを浮かべた。

「愚かで醜いな」

 初めて出会った鈴蘭の丘。

『死者と話す僕を気味が悪いと思わないのか?』

『……思わないわ。だって生者の方がよほど恐ろしいことを考えているもの』

 当時から、死霊遣いと噂されていた自分に対しても、分け隔てなく接してくれた彼女。
 幼い頃から、彼女のことだけをずっとずっと愛しているのに……

 病弱な彼女にとって、身体を重ねるだけでも、かなりの負担がかかる。だから、いつも慎重に彼女を抱いた。
 死ねば別の娘を娶れば良いと――異母妹を娶れば良いと父は宣ったが、許せなかった。
 周囲が何と言おうとも、彼女の命を縮めるような真似はしたくなかった。

 最後に抱いた彼女の肌の感触が忘れられない。
 あの可憐な金糸雀のような嬌声が、脳裏に浮かんでくる。
 甘美な思い出に浸っていたい。
 身体が繋がり合っている時だけは、唯一彼女が自分の妻になってくれたのだと実感できるのだから。

(だが、そんな日々ももう終わりだ)

 病弱だと育てられたレティシアだったが、複雑な魔術が施されていることを突き止めたのだ。
 解呪さえすれば、彼女は健康な身体を取り戻すことができる。
 レティシアもきっと喜んでくれるはずだ。

(レティシアに施された魔術の解呪について調べていたら、帰るのが数か月ぶりになってしまったな)

 馬車を降りると急ぎ足で階段を登り、寝室へと向かう。
 扉の前に立つと緊張して仕方がなかった。

「レティシア、入るぞ」

 懐妊したという彼女に祝いの言葉を投げかけたくて、予定よりも早く帰国したのだ。
 けれども、扉を開ける前に、中から女性の悲鳴が聞こえた。

「何よ、この光は……!?」

 扉を開け放つと絶望が一気に押し寄せてきた。
 
「……どうして?」

 震える。

「お前……が……ここにいる?」

 待ち構えていたのは――

「アルフォンス様、お姉さまが大変なことになってしまったのです」

 媚びるような耳障りな女の声。
 確か――名前は忘れたが、レティシアの異母妹だ。
 そして、彼女の足元には――動かなくなった女性の姿。
 アルフォンスは虚ろな瞳で目障りな女を睨みつけると、一言だけ口にした。

「……死ね」

 彼の操る死者たちが姿を現した。
 肉が削げて骨が露わになっており、腐敗臭を放て放っている。
 その内の一体が異母妹へと襲いかかる。

「いやああっ……! た、助けてください、アルフォンス様、いやっ、やめてっ……!」

 死者数体が異母妹を押し倒すと体の上に乗り上げた。
 煩い女の悲鳴と絹が裂く音が響く中――アルフォンスはそっと動かないレティシアの身体を抱き寄せた。

「俺が……不甲斐ないせいで……」
 
 その時。
 彼女の内側から光を感じた。

「これは……まさか、レティシア、俺の子を、孕んでいたから……」

 母体が死ねば、胎児も自然と死ぬはずだ。
 なのに……

「膨大な魔力の波動」

 頭の中に声が聞こえてくる。

『……契約を』

 二人――否、三人の身体は、真っ白な光に包み込まれたのだった。



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