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4 バッシュの後悔
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しおりを挟むあまり何かに執着しないように生きていたバッシュだったが、マリーンのことだけは気になって仕方がなかった。
だけど、どう抗いようのない身分の差がある。
マリーンの父である子爵は、自分たちの仲を認めようとはしてくれなかった。
彼女がいっそ誰か他の男と一緒になってしまえば――苦しみから解放される。
そう思って、自分から後輩のアイザックをマリーンに勧めた。
そのくせ、アイザックと一緒に過ごすマリーンを見ると、嫉妬心で息がしづらくてしょうがなかった。
自分はアイザックよりも劣っている。あいつは一人前の男だが、俺は半人前の男なのだとつき突き付けられる。
醜い感情が沸いて溢れて止まらない。
結局――想いを抑えきれずに、もうアイザックの妻になってしまっているマリーンを抱いてしまった。
いつまでも清らかな存在であってほしかった彼女のことを自身で犯した時、異常な興奮に包まれたが――一方で、後悔に苛まれた。
このままアイザックから彼女を奪って攫ってしまいたい。
だけど、バッシュはマリーンが妊娠していることに気づいてしまう。
(アイザックの子以外はあり得ない……)
もちろん、子を成せるアイザックへの嫉妬心は燃え盛る炎のように渦巻いていた。
だけど、きっとマリーンならば良い母になるだろう。
だからこそ、バッシュ自身は不実な夜は過去の過ちだとして、潔く身を引こう。
そう思っていたのに――。
彼女はなかなかアイザックのいる僻地には向かおうとはしなかった。
バッシュの目の届くところで彼女は子を産んだ。
だというのに、出産してすぐの産褥期の体のまま、マリーンは王都を旅立った。
「なんだって、そんな無茶を……マリーン様……」
そんな中、彼女から一通の手紙が届いた。
それに目を通して、バッシュの手に力が入り、便箋がぐしゃりとつぶれた。
「いかないと――マリーン」
バッシュは僻地に向かう早馬を借りて駆けはじめた。
――僻地に集結する四人。
――くるくると、運命の輪は回り始めたのだった。
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