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5 4人の邂逅
19 ミリー
しおりを挟む窓の外、明けきれない空が瑠璃色に輝いている。
一人取り残された部屋の中、愛する青年アイザックの温もりが残るシーツに顔を埋めていた。
「アイザック……っ……くっ……」
嗚咽をもらせば洩らすほどに、熱が急速に失われていくようだ。
彼の体温を忘れたくなくて、シーツを抱きしめたまま、そっと顔を上げた。
ちょうど、机の上の鏡に映る自身と目が合う。
「ミリー、泣き腫らして悲惨な顔をしているわよ……泣いちゃダメ……」
……自身の犯している罪を思えば、簡単に泣いてはいけない。
それどころか、泣くことさえ許されないのかもしれない。
「今日は休暇ね……一人で何をしようかしら……」
同年代の女性騎士たちは、結婚を機に退職する者達が多いのだ。
そんな中、誰とも結婚できないままでいる自分。
それだけでも、なんだか惨めな思いになることもあるぐらいだ。
挙句、好きになった相手は、子持ちの既婚者。
「もう笑うしかないわね……」
自虐的な笑みが勝手に出てきてしまった。
自業自得で、アイザックは何も悪くない。
付き合ってほしいと伝えたわけでもない。
彼に交際相手や妻子の有無の確認を怠った自分に落ち度がある。
「名前は、マリーンさん……」
私が好きになった彼の心を射止めた女性。
彼女はいったいどんな女性なのだろう。
一人で過ごしていると、悶々とそんなことを考えてしまう。
(どんな女性なのだろう……旦那様の帰りを待つ健気な女性……愛しい夫が見知らぬ女とこんなことになっていると知れば、塞いでしまって……心まで病んでしまうかもしれない)
彼の妻のことを考えれば考えるほど、私の心も窮屈になっていく。
アイザックへの思いも遊びだと割り切れたら良かったのだろうが……。
(大人の関係だと、割り切れと、自分に言い聞かせてきたけれど……好きでもない相手に体を許したり、そんなことが出来る性格じゃなかった……)
彼に体を許せば許すほど、愛しい気持ちは募っていくのだ。
だけど、彼への思いは断ち切らないといけない。
いっそ気持ちだけでも伝えたらすっきりするかもしれない。
(だけど、それは自己中心的な考えよ……自分がすっきりしたいだけ……)
それに、告白して離れると告げて、アイザックがそれを「助かった」ってほっとしたりしたら?
それを見るのも怖くて仕方がない。
それにそもそも――。
「――彼には帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない」
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