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5 4人の邂逅
53 バッシュ
しおりを挟むバッシュはマリーンに向かって真っすぐに向けていた瞳を――橋の板の上に寝かせられた赤ん坊へと移す。
彼が赤ん坊を目にした途端、ざわりと肌が粟立った。
非常時だと分かっているが、彼はマリーンの産んだ赤ん坊をおくるみごと抱き上げる。ずしりと腕の中に赤子の重みがかかる。
バッシュの中に言いようのない充足感が胸の内から湧いてくる。
「……この子どもは……」
彼の瞳からじわりと涙が浮かんでくる。
「まさか……」
自分と同じ手首付近にまるで星のような痣……。
バッシュは瞼を閉じた。
そうして、息を吸い込んで吐き出すと、赤ん坊を抱きあげたまま、彼は愛する女性へと視線を移す。
しっかりと視線が重なったことを確認してから、バッシュはぽつぽつと想いを吐露する。
「お前に家族を与えてやれないからと、お前本人と向き合うことから逃げてきた」
彼の真剣な声音に対して、マリーンはか細い声を出す。
「バッシュ……私のことなんてどうでもいいから、アイザックとの結婚を……貴方が勧めてきたのでしょう?」
バッシュは首を横に振る。
「いいや……俺がお前に子を成せないから――だから、俺のことなんか忘れて、優秀なアイザックと結婚して――そうして幸せな家族を手にしてほしかったんだ」
「バッシュ……」
そうして、バッシュは続ける。
「お前がアイザックと結婚して以降、あと腐れのない女を抱き続けた――当たり前だが、全員、お前じゃなくて……どうしても、俺が欲していたのはマリーンなんだと思い知らされるだけで……お前の代わりになる女なんて、どこにもいなくて……」
そうして――。
バッシュがマリーンにひそかに会いに行った際に、耐えられずに彼女を抱いてしまった。
まさか――マリーンがいまだに純潔だったことを知った時のバッシュの衝撃は図りしれなかった。
アイザックへの怒りが湧いてくると同時に自分自身の不甲斐なさにひどく苛立ったのだ。
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