【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

おうぎまちこ(あきたこまち)

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6 求めた光の先へ

63 ミリー

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「もしかしたら今から告げる言葉は――君にとっては迷惑な話になるかもしれない」

「私に……迷惑……?」

「そうだ――お願いだから、こちらを向いてはくれないか?」

 縋るような口調が私の心を揺さぶってくる。
 残る情念が、彼の指示に私を従わせた。
 そうして、アイザックと私はしっかりと対面する。

「俺は、純粋で何も知らない君を騙してしまっていた」

 私は首を横に振った。

「貴方に妻がいないか聞かなかった私も悪かったわ」

「いいや、全ては俺の責任だ」

 そうして――彼は一度口を噤んだ後、次の言葉を紡いだ。

「ミリー、真面目な君からしたら、とんでもないダメな男に見えているのかもしれない――情けない男だと思われるのが怖くて、結局切り出すことが出来なかった」

「マリーンさんに聞きました。あなたがちゃんと彼女に別れを告げようとしていたのだって……」

 私の口から前妻の話が出て、アイザックは少しだけ驚いているようだったが、すぐに気を取り直したようだ。

「そんな意気地のない俺だが――どれだけの時間が経とうとも――君を忘れることはなかった……君への想いが消えることはなかった――一時の感情なんかじゃない」

 ――一時の感情ではなかった。

 彼の想いが胸を震わせてくる。

 歓喜か緊張か――カタカタと指先が震える。


「アイザック……」

 私の唇が戦慄く。彼の名前を紡ぐので精いっぱいだ。

「君に釣り合うような男になってからじゃないと――君のような高潔な女性に想いを伝えることさえ許されない。そう思ったから、必死に騎士としての名声を上げて、君の団の副団長になった」

 そうして、彼のさらに武骨になった手が、私の手を掴んだ。

「君を愛しているんだ、心の奥底から君を求めているんだ、ミリー……だから、どうか――これから先、仕事だけでなく、俺のそばで――恋人でも家族でもどんな形でも良いから、俺の隣を歩んでいってほしい」

 彼と触れ合った手を見れば――薬指に青金石の指輪がキラキラと光っていた。

 気づけば、私の瞳からは熱い涙が零れてくる。
 
 彼のまっすぐに向けられる青い瞳に吸い込まれていきそうな心地になりながら――私は告げた。


「はい……私も貴方を……ずっと……愛しています」

 
 そうして、彼がしゃがみ込むとエリンジウムの花を手に取る。

「ミリー、君のように美しい、この花の花言葉を、あの後調べたんだ」

「アイザック……」

「秘めたる想いは――もう秘めずに良いんだ。だからどうか、これから先も、互いが互いを光と感じて求めあっていける存在になれたら――」

 彼が私の手をそっと握る。
 徐々に彼の端正な顔が近づいてきて、互いの唇同士が触れ合った。

 こうして――誰にも見咎められずにできた初めてのキスを交わしたのだった。

 少し夕暮れになった門の前には風が吹く。

 そうして、彼に手渡されたエリンジウムの花と、道に咲く花々が優しく揺れる。

 それはまるで、私たちの新たな門出を見守ってくれているのかのように、慈愛に満ちていたのだった。



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