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6 求めた光の先へ
64 ミリー
しおりを挟む十数年前、魔獣襲来事件の際。
獣達の雄叫びがひしめく中――半狂乱に陥った黒髪の少女を、朱銀色の髪の少年が羽交い絞めにしていた。
『お母さん! 離して! お母さんを助けに行くんだから!』
『今行っちゃダメだ……! 君まで巻き込まれてしまう』
彼らのいる川岸の反対側では――飴色の髪をした少女を魔物から庇って抱きしめる女性の姿があった。
母子が川を挟んで反対にいるのは、川遊びをしている最中に魔獣が襲撃してきたのかもしれないと――少年は推察している。
少年少女がいる側には魔物が近づいてはこないが、おそらく魔物が嫌がる花がこちらの岸には生えているからだろう。
『いや、いやよ!! 怪我をしているお母さんを助けたい! 今助けなきゃ、死んじゃう……! お願いだから離して!』
『絶対に離さない! 離すもんか……!』
全力で逃げ出そうとする彼女の力が強すぎて、少年が力を緩めてしまった。
『お母さん……!』
『あ、君! 待って……!』
離さないと言った先から逃げ出されてしまった。
駆けだして川にざぶざぶと飛び込んだ彼女の腕を、水の中に入り込んだ彼は無理やりに掴む。
――今度は絶対に逃すまい。
びしょぬれになった彼女の体を少年はひしと抱きしめる。
『乳母も友達も死んでしまった……だけど――君だけは僕が守ってみせるから……!』
泣きじゃくる少女の体の温かさだけは失うまいと、少年は腕の力を強めて、ひしと抱きしめ続けたのだった。
そうして――彼は――幼いアイザックは――貴族なんて地位は、こんな時には何の役にも立たないと――少女を守る力が自分にあればと強く強く思ったのだった。
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