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第8話 ハプニング継続中 side瀬戸

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 こんなにニコニコ笑うんだなって、ちょっと意外に思った。
 それと、ムカムカがどんどんひどくなっていく。

「どんなヤツなんだよ、そいつは?」

 すると、加賀美百合が嬉しそうに告げてきた。


「すごく一生懸命な人で、好きなものを好きでいられる人、です!」


 それは……。

 ズキン。

 何か胸の奥深くを抉られたような気がした。

 思わず、鼻を鳴らしてしまう。


「……俺とは全然違う男だな」


 ふっと微笑んだが、今度は加賀美百合からの反応が乏しかった。
 せっかくだから、意地の悪いことを言ってやりたくなってきた。

「だが、そいつと何年も会えてないんだろう? ……そんなのお前、もう大人になって忘れてるさ……それに、俺はバスケは嫌いだって言っただろう? ああ、じゃあ、俺は今度こそ寝るから邪魔するなよ」

 普段なら誰かを傷つけるような言葉を投げかけるわけじゃない。
 正直あんまり人に深入りしたくないからな……。
 だけど、なんでだろう。
 まだ会って二日しか経ってないはずなのに、こいつに相手にされてないのが嫌だって思ったんだ。

「……瀬戸先輩」

 加賀美百合が俺の名前を呼んできた。
 ふと、彼女の顔を見ると――。

「そう、ですよね……忘れられてそう」

 困ったような笑みを浮かべていた。

「あ……」

 ああ、傷つけた。
 母親死んだばっかりでただでさえ苦しいだろうに。
 俺は自分のことしか考えられない、ダメなやつだな。
 加賀美百合に傷ついて欲しかったわけじゃない。

 俺はまた取り返しのつかないことを……。

 その時――。


 
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