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第3章 別れと旅立ち――白豚と龍帝――
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しおりを挟む辺鄙な村の早朝、女性の大声が響き渡る。
「もう、天狼!! 朝から寝込みを襲うのは止めなさい!!!」
声の主は艶やかな黒髪の美女・蘭花だ。
「我が花嫁は怒った顔も麗しい」
文句を言われてもめげずに、彼女の胸に手を伸ばそうとしている、顔だけはすこすぶる良い黒髪の美青年は天狼。蘭花の住むぼろ小屋に、すっかり棲みついてしまっていた。
ぎゃあぎゃあやっていると、近所のお婆さんたちが野菜を持って現れる。
「あらあら、蘭花ちゃんの旦那様は相変わらずの美丈夫ねぇ……」
「うちの兄の若い頃に似ているのう」
「羨ましい、いけめん、いけめんじゃ」
すると天狼が次々に彼女たちの手をとって、ちゅっと口づけ始める。
「ご婦人がた、貴女たちも大層麗しい。我が花嫁がいなければ、口説き落としていたところだ」
村にはただでさえ若い男は少ない。おばちゃんたちは、きゃあきゃあ騒ぎはじめた。
(すっかり村に順応しちゃったわね、天狼も)
満月になると身体が昂って困っていた上に、妖にも襲われて困っていた蘭花だったが、天狼が退治してくれるので、実のところ最近は助かっていた。
やれやれと思いながら、ため息を吐いた後、彼女は彼に声をかける。
「天狼、畑仕事を手伝いにきてくれる?」
「婦人がた、すみませんね、花嫁が呼んでいますので。それでは、失礼」
天狼は何でもこなす男だった。
力仕事だけでなく、繊細な仕事。
なんでもこなす。
村の皆は助かっているようだった。
このまま天狼がいついて、皆の言う通りに夫婦になってしまうのだろうか――。
(私ったら、何を考えているの?)
蘭花は頭をぶんぶんと振った。
(天狼と夫婦だなんて、あり得ないんだから!)
だけど、もはや彼のいない生活も想像できない。
蘭花は天狼のいる生活にすっかり慣れてしまっていた。
そうして、こんな日々が毎日続く。
そんな錯覚に陥っていたのだった。
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