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第3章 別れと旅立ち――白豚と龍帝――

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そうやって立ち去ろうとする天狼の背に、蘭花がしがみついた。

 言葉なく、彼女は涙を流し続ける。

 
「……勝手なことばかり言って、すまなかった。君が一生不自由しないだけの支援は、これからも続けていくつもりだ。だから――」


 そんな中、蘭花は訴えかけた。


「貴方は本当に身勝手な男だわ」

「……ああ、そうだな」
 
「こっち向きなさないよ」

「ああ」

 そうして振り向いた天狼に、蘭花は自ら口づけた。

 彼は目を見開く。

「……蘭……」


「貴方の運命を変えた責任はとるわ、天狼。だから、私も連れて行きなさい――!!」


「だが……」


「運命だ宿命だなんて、私も御免こうむりたいわ。そんなもののせいで、貴方に惹かれていただなんて、そんなはずは絶対にない」


 蘭花は続ける。


「私は貴方だから一緒にいたいの……狼大兄……いいえ、天狼……二人一緒なら、くだらない政争だとか、後宮争いだとか、そんなの跳ねのけられるわ。だから、連れて行きなさい! 貴方、顔以外は本当にダメなんだから、後宮の女性たちにだって、そのうち愛想尽かされて、私ぐらいしか相手をしなくなるわ」


 そんなことは本当はない。

 彼の寵姫を狙う者達なんて、万といるだろう。

「だが……俺は君以外の女をそばに置いているのを君に見せたくは――」

 だけど、蘭花の瞳には決意が宿っていた。


「だったら! 貴方が皇帝だというのなら、制度でも何でも変えて、私だけを愛せるようにしてみせなさい!」


 目を白黒させていた天狼だったが――ふっと笑った。


「我が花嫁は、本当に怖い女だ」


 そっと彼は彼女を抱き寄せる。

「天狼」

 天狼が蘭花の髪をそっと払った。


「未来永劫、君だけを愛し、護り続けると誓う――我が花嫁・蘭花」


 見つめ合う二人はそっと、口づけ合う。

 そうして、ひしと抱きしめ合った。

 しばらくして、そっと出発しようとしたのだが――。


「さあ、行きましょうか、天――ん?」

 天狼の手が蘭花の胸を揉みしだいている。

「せっかく思いが通じ合ったので、ぜひ今すぐ、ここで」

 彼女はわなわなと震えた。



「せっかく良い雰囲気だったのに、何やってんのよ、この変態男――!」
 


 朝の静けさの中に、蘭花の絶叫が轟く。


 いつもと関係が変わらないようで変わった二人。


 そんな彼女たちを祝福するかのように、東の空に太陽が昇りはじめていたのだった。



※※※



 龍華国の第五代皇帝・太狼帝。
 新月の夜になると、龍の姿をとっていたとの逸話があり、国民たちから龍帝と慕われている彼だったが、民の視線に立ち制度の革新をおこなったことで特に有名である。
 そんな中、目だった改革として、それまで続いていていた後宮制度を廃止したことがあげられる。
 大層長生きだった太狼帝だが、生涯愛した妃はたった一人だけだったという。
 彼女は占術を扱える、市井の民だったという噂だが、史書には記載がなく、真偽は確かではない。
 だが、城では彼女の怒る様がよく見かけられていたそうで――どうやら恐妻だったのではないかというのが、後の歴史家の見解で一様に一致するところではある。

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みんなの感想(1件)

penpen
2022.02.26 penpen

タイトルに書いてありますって・・・ネタバレ🤣

おうぎまちこ(あきたこまち)
2022.02.26 おうぎまちこ(あきたこまち)

penpen様、あらすじにバッチリ話の流れまでネタバレして……(笑)
ご感想ありがとうございます♪

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