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3日目

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 ヒルダは泣き腫らした瞳のまま、湖の方へと視線を移す。

「あ……」

 凪いだ湖面。
 先ほどまで自分自身が映っていたはずなのに――
 ヒルダの願望なのか、そこに映っていたのは――

 金髪碧瞳の美青年。


「ジーク……フリート……」


 幻だろうか。
 涙のせいだろうか。
 湖面に映る自分が、ジークフリートの姿をしていた。

『ヒルダ、君は普通の女性になるのが夢だったんだろう? もう君は普通の女性に戻ったんだよ?』

 軽口を叩く水面に向かって、ヒルダは叫ぶ。

「今言っただろう! 聖剣の化身が身体の中に溶け込んでいるような状態じゃあ、普通の女性とは言えない! 逃げるなよ! ちゃんと責任をとれ!!」

 幻に向かって叫んだところで、どうにもならない。
 そんなことは知っているが、叫ばずにはいられなかった。

『そうか、だったら仕方がないな』

 ヒルダの涙が水面に落ちる。
 虚像がゆらゆらと揺れ動いた。

(あ……)

 夢だったとしても良かった、愛する人に今度こそもう二度と会えなくなるかもしれない。
 恐怖で胸が竦んだ。
 思わず、手を水の中に伸ばした、その時――

 指先に触れた水面から、眩い光が溢れ出す。

「何が起きて……?」

 指にひんやりした何かが触れる。
 それは、指の間に絡んできて――


「あ……」


 絡んできた光は、誰かの指を形作る。
 気づけば、光は人の形をとっていき――
 具現化したのは、先ほどまで湖面に映っていた美青年。


「ジーク、消滅したんじゃ……」


 発光を続ける彼が、自虐的に微笑んだ。

「俺としても、魔王を倒すほどの力を得て、それを全部君に託して、消滅する予定だったんだけど……なんでだろう、君の中に溶けちゃったのがまずかったのかな?」

「あ……」

 ヒルダの身体の一部になっていたから、鎖された世界からジークフリートも一緒に逃げ出すことができたのだろうか。

「溶けていたのなら、確かに、消滅とは違うな……」

「ああ、そうだね。俺としては、好きな女の中に溶けて一体化するんなら最高だなって思ってたんだけど……」

 どちらからともなく、絡め合った指に力がこもる。
 光が収束していく。
 湖面から覗いたジークフリートの上半身が、しっかりと人間の姿に戻った。
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