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11 胸を支配するもの
しおりを挟む最近の私は、男性の指ばかり描くようになっていた。
誰の指かは、考えずとも分かる――。
(あの先輩の指だわ……)
ほおっとため息をつく。
長い指が描かれたキャンバスが美術室中に転がっていた。
(私、どうしたのかしら……)
アヤトの大学でのサークル活動がない日などは、一緒に下校することが多い。
他の生徒の皆が所持しているように、私はスマートフォンを持ってはいなかった。
気軽にSNSでのやりとりなんかが出来る状態ではない。そのため、アヤトが私に連絡をとるためには、直接会うかアパートにある固定電話ぐらいしか方法がなかった。
だから、一緒に下校出来ない日は、私が住むアパートの近くまでアヤトが会いに来ることもある。
一緒に過ごす日数が増えたせいだろうか、それとも彼の家庭環境もあまり良くないことを知ったからだろうか……彼のことが頭を占めるようになってきていた。
(少し、自分に似ているところが見つかったくらいで、私ったら単純すぎる……)
人付き合いが元々少ない性質だ。
だからこそ、容易に気持ちが揺れてしまったのだろうか。
そんな自分に、少しばかり嫌気がさしてきた。
(こんなんじゃ、自分の母親と大差ないわね……)
すぐに別の男を作っては、兄とレイナの世話を忘れる母親の形をした生き物――。
彼女に自分も似ているところがあるのかと思い、自己嫌悪にかられる。
だけど、アヤトがどうして自分と付き合いたいと思ったのか。それぐらいは彼本人に聞いてみても良いかもしれないと思う位には、私の心は彼へと開きつつあった。
恐らく今日は、アヤトが校門の前でレイナを待っている日だ。
あいにく、今日の天候は雨だった。もう六月なので、仕方ない。
いつもは聞こえてくる野球部の声も今日は聞こえない。
しとしとと降る雨の中、アヤトは待っているのだろうか。こういう時にスマートフォンなどの携帯端末を持っていないと苦労する。
(楽しみにしているわけじゃない……)
自分にそう言い聞かせつつも、私は美術室の扉に鍵をかけ、校舎を後にした。
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