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第8話① ルビーとルヴィニ
しおりを挟む「そこまでだ! 我が娘に手をかけようとする悪女よ!」
崖から少しだけ離れた場所に、大勢の騎士を引き連れたメーロ侯爵が現れたのだった。
ルヴィニ夫人が歓喜の声をあげる。
彼女のくすんだ金色の髪が、幾分か精彩を取り戻して見えた。
「お父様、来てくださったのね!」
彼女は嬉々として侯爵に話しかける。
――メーロ侯爵は、娘の元へと歩んでいく。
「お父様の言う通り、悪女ですわ! わたくしの夫であるアイゼン様を、この女がたぶらかしているのです! まぎれもない姦淫罪です! さあ、騎士達、はやくこの女を捕まえてちょうだい!」
叫ぶルヴィニ夫人の元へ、侯爵が近づく。
だが――。
「な……お父様……?」
――侯爵は、ルヴィニの横を通り過ぎた。
「ど、どうして……」
夫人の唇がわなわなと震える。
そうして、メーロ侯爵はへたりこんでいたルビーの元へと近づいていった。
彼は目をすがめ、ふさふさとした髭をまごつかせながら口を開く。
「ずっと、気づけずにすまなかった――」
侯爵は、ルビーの身体を抱きよせる。
「我が娘、ルヴィニよ――」
「え――?」
ルヴィニと呼ばれたルビーは、侯爵の腕の中でひとしきり困惑する。
彼女を力強く抱きしめながら、メーロ侯爵は声を張り上げた――。
「騎士達よ! 我が娘の名を騙るその女をはやく捕まえよ!」
ルヴィニ夫人に向かって、侯爵が指を差す。
「な、な――! わたくしになんの罪があるというの――?」
夫人に向かってメーロ侯爵は続ける。
「ずっとおかしいとは思っていた……幼少期に賊に襲われ、顔に傷を負ったと言って、長い間包帯を巻いてお前は過ごしていたな……包帯が取れた時に、お前の顔を顔つきを見て違和感はあったんだ――」
メーロ侯爵は続けた。
「行動なんかもちぐはぐで、乱暴で口調も金遣いも荒く、使用人を罵倒する……事故で性格まで変わってしまったのかと残念に思っていた。だけど、愛する妻の忘れ形見だと思って、目を瞑っていたんだ……しかし、城でルビーと名乗る、妻によく似た彼女を見て、疑念は確信に変わったのだ――そうして、アイゼン様に手紙で相談させていただいた」
名を出されたアイゼンは、月明かりの下、ゆっくりと頷いた。
「幼少期に賊に襲われたって、ルビーも話してたから、私もピンと来たんだよ――確証はなかったけれどね――」
勝手に進んでいく話に、わたしの頭はついていかない。
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