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 そうして、迎えた夏祭り当日。
 彼に浴衣を選んでもらった日に身体に触れられたが、以降は真面目な話に終始していた。あまり騒ぎになっていはいけないからと、市の商工会や夏祭りの担当の人と何度か打ち合わせを密かにおこなったりしていた。

(ついに本番ね……リュウちゃんが迎えに来てくれる予定)

 もう夕暮れ時だ。
 昼間っから移動したら、皆にバレるからという理由で、少し暗くなってからの移動になった。
 駄菓子屋の前で、緊張と興奮の中、リュウセイの迎えをミサは待つ。
 ちょうど、店の奥に置いてある古いテレビにCMが映った。

(シャンプーのCM、黒髪がサラサラで綺麗。――RINさんだったかしら?)

 突然彗星のごとく現れたCM女優RIN。
 流れるような黒髪に、きりっとした黒い瞳の女性。その美貌に皆はくぎ付けだ。
 芸名だけが明かされ、契約している会社は1社だけだという。
 それ以外の個人の情報は一切明かされていない。日本人の名前だけれど、本当は海外出身なのではないかなど、様々な憶測を生んでいる状態だ。
 雇われている会社の方針で違うのだろう。

「リュウちゃんなんかは、島出身だとか名家出身だとか色々報道されているけれど」

 ミサが考えごとをしていると、リュウセイが迎えに来た。
 まだ彼は私服姿だ。
 一旦リュウセイの実家へと車で移動した。
 先に彼に彼女は髪を結わえてもらった。
 鏡越しに映るリュウセイの手先の器用さに、ミサは心奪われる。

「ミサ、これプレゼントだ」

「え?」

 彼が懐から何か取り出す。
 ミサが鏡の中を覗くと、結い上げた黒髪に簪が挿してあるではないか――。
 瑪瑙があしらわれた簪。こまかな細工が施してあり、キラキラ輝いている。
 一目で高価なものだと分かった。

「リュウちゃん、こんな見るからに高そうなもの……」

「俺がお前にやりたいんだよ。もらっておいてくれ」

 リュウセイに片目を瞑られると、昔からミサは弱い。

「分かった、ありがとう」

 彼女が笑うと、彼は照れくさそうに笑っていた。
 そうして、次は彼に浴衣を着付けていく。
 広い肩幅に、腕にはちょうど良いぐらいの筋肉。帯がきゅっと締まる腰回り。

(やっぱりどうしてもドキドキしちゃうな……)

 そうして、彼に浴衣を着てもらった。
 高身長の彼は、やはりなんでも似合う。日本人からすると、ちょっと鼻筋の通った美青年だが、和服もばっちり着こなしていた。
 最後の仕上げに、彼は部屋に置かれていた眼鏡をつける。

「よし、行くぞ、ミサ」

「変装に眼鏡だけ? 近所のおばちゃん達にはさすがにバレるよ」

「分かってないな。下手な変装の方が目立つんだって。大体周りも浴衣が多いし、夕暮れ時以降なんだからバレないって」

「身長高いし……」

「ばれたら、黙ってもらえるように適当に頑張るよ」

 リュウセイの言い分に納得できるような出来ないような。
 
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