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第4章 結婚後の求婚
第30話 お互いが初恋の人(前編)3
しおりを挟む城にある騎士たちの修練場――。
浮足立っているデュランダルは稽古や指導を意気揚々とした後に、部下である騎士たちに問いかけていた。
「女性が喜びそうなものですか? 指輪や屋敷以外で――? そんなの浮名を流してきたデュランダル様のほうが詳しいでしょうよ――フィオーレ姫なら、大抵のものは喜んでくれそうですけど」
夫婦の新婚旅行にもついてきていた、ひょろりと背の高い騎士が、上司であるデュランダルに答える。
「お前にもわかるだろう? あいつは他の女とは違うんだよ。あと、俺は別に、フィオを悦ばせて好かれたいとか、そんなことを思ってるんじゃねぇぞ」
「はあ……?」
部下の顔には、「将軍、思ってるんでしょ」と書いてあった。
「政略結婚だったんですし、プロポーズしてあげたら喜ぶんじゃないですか?」
「お前もそう思うか?」
浮かれているデュランダルの元に――。
「デュランダル、ちょっと僕と話をしてもらっても良い?」
現れたのは、男性にしては長い銀髪に紫の瞳をしたシュタールだった。
二人は修練場を後にして、横に並んで回廊を進んだ。
「昨日の誤解は解けたのかい?」
「ああ、まあな」
宰相シュタールの問いに、デュランダルが答える。
シュタールは続けた。
「好きな女性の前だと、胸が痛いとか、デュランダルの意外な一面が見れて面白かったよ」
「――好きとかそんな生易しいもんじゃねぇよ」
デュランダルは、相手に聴こえるかどうかの声量で話した。
シュタールは微笑む。
「ねえ、君も分かっただろう? 僕たち、竜の血を継ぐ者たちにとって、運命の相手である『贄』がいかに離しがたい存在か――それに、彼女らを手にするということは、真の王たる条件でもある――」
「俺とあいつが運命的な相手だって言いたいのか? それにシュタール――さも、自分もそういう女に会ったことがあるような言い方だな」
シュタールは笑んだままだった。
「まあ、フィオーレ姫のことをデュランダルが大好きなのは、よくわかったよ。そうだ――彼女は君のことを好きそう?」
「そりゃあ、フィオは俺のことを好きに決まって――」
「根拠は? 彼女に好きって言われたのかい?」
シュタールに矢継ぎ早に問われて、デュランダルは戸惑う。
「言われてみたら、ないが……でも、あいつの好みの男は俺みたいだった。それに、俺以外に、他に口づけたことはないって言ってたし――いつもその、満足そうだし――」
だんだん、デュランダルの語気が弱くなっていく。
シュタールの質問は続いた。
「キスとかしたことないのは、お姫さまだからそうなんじゃない? 身体の関係じゃなくて、彼女の心の話をしているんだ……身体が満足だからって、好きだってわけじゃないのは、君の方が良く知っているだろう?」
「なんだよ。じゃあ、身体は俺で満足だけど、別にフィオは俺のことが好きじゃないって言いたいのかよ?」
デュランダルは眉をひそめながらシュタールに問いかける。
「そこまでは言っていないよ――そうだ、フィオーレ姫の好みってどんな男性だったの?」
「そうだな――『不器用だけど優しくて、時々素直になりきれない……とにかく仕事に真面目で、竜に打ち負けないほどの剣の実力を持っていて――私だけを見て、護ってくれる――そんな男性』だって言ってた。そもそもそんな強い男は、大陸には俺ぐらいしかいない。つまるところ、あいつは俺が好みなんだ」
フィオーレの言葉を一言一句忘れずに、デュランダルは覚えていた。
嬉々として話す彼に、シュタールは、少しだけ頬を引き締める。
「デュランダルには悪いけど、それってオルビス・クラシオン王国の『剣の守護者』のことじゃない?」
「は――?」
シュタールの発言に、デュランダルの表情は硬くなっていった。
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