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団長&副団長 × アミル
確保
しおりを挟む森に向かう男たちの目に簡素な小屋が映る。
先頭にいた男が手を挙げると後ろに続く者たちも馬の足を止め辺りを窺う。格好もバラバラだったが、無言で指示に従う様子は訓練された騎士のものだった。
「隊長、辺りに不審な影はありません」
「そうか、間に合ったようだな」
同行していた者へ視線を送る。
簡素な小屋に似つかわしくない小綺麗な格好の同行者は、領主の従者。騎士団の者たちとも面識があり、領主の言葉を伝える立場からか従者は臆することもなく騎士たちへ待機を命じた。
「私が中に入るので、あなた方は外にいてください」
わかったと了承を返すとなにせ昨日の今日ですからねと嫌味を寄越してくる。
昨夜勝手に口封じをしようとしたことを言外に咎められて顔を顰める。
元々は曖昧な指示を出したせいだろうと内心で毒づく。
中に入って行く従者を見送ったところで部下の一人が不満を口にした。
「なんで俺たちが護衛なんかしなきゃならないんですか?」
一人が不満を零すと他の者も不満を口にし始めた。
「そうですよ、アイツらのせいで仲間が捕まったんでしょう!」
さっさと追放すればいいのにと声を荒げる部下へ隊長と呼ばれた男が眉を寄せる。小屋の中の男が魔獣飼育の罪を暴かれ追われていると知っていれば、なぜ匿い護衛をしなければならないのかと不満が湧くのは当然だ。
昨日の作戦で仲間が捕縛されたこともある。闇夜に紛れて逃がすことは容易いのにと。
しかし直々に領主から男の護衛を命じられた隊長には従う以外の選択は無かった。
隊長が宥めるも部下たちの不満は収まらない。
やがて不満は事件を暴いた騎士団へ向かっていった。
「ったく、余所の土地に来て勝手なことしやがって」
部下の一人が舌打ちをして応援に駆け付けた騎士団へ悪態を吐く。
件の騎士団は町を襲った魔獣の対処のために応援に駆け付けたんだろう。
こちらの騎士団へ連絡もなかったために魔獣飼育の現場を抑えられてしまった。
気づかれる前ならいくらでも打てる手があったというのに。
対応が後手後手に回ってしまった。
「領主からのお達しだ、諦めろ」
そう告げると渋々口を噤む。
事を荒立てても何も良いことはない。
従う方が余程旨味がある。
この任務が終われば他の町の騎士団へ昇進付きで異動させてやると言われれていた。
男を逃してさえしまえば全て上手くいく。
そう考える隊長の頭には新しい場所で輝いている自分の姿しかなかった。
本来、騎士というのは国の名の下に任命され各地の騎士団へ編制されるものであり、その最高権力者は最終的には国王となる。
各地に拠点を置こうとその地を治める領主に従う義務などはない。もちろん活動に当たって影響が全くない訳ではないが。
しかし、この場にいる騎士たちは領主の命令を聞く立場にないことを忘れたかのように当たり前に従っていた。
従者が中々出てこないことに気づいた部下が遅いっすねと呟いた。
確かに話をしているにしても遅い。
待ってろと言われたが外から中を窺うくらいはいいだろうと小屋に向かって一歩踏み出す。
「そこで止まれ」
低く命じる声が辺りに響き、踏み出した格好のまま足が止まる。
覚えのある覇気に振り返ると昨夜の現場にいた頑健な騎士が立っていた。部下たちを瞬く間に戦闘不能にした能力を思い出し、焦りが生まれる。
背後に控えた騎士たちも油断なくこちらを窺っていた。
「大人しく投降しろ、無駄な抵抗はするな」
発する威圧感が男たちを迂闊に動けなくさせる。
昨夜の戦闘を知らない部下たちも相手が只者でないのがわかるようで動けないようだった。
冷や汗をかきながら事態の打開を考える。
ここにいる者では目の前の騎士に勝てないことがわかっている。しかしここで諦めることなんてできるわけがない。
「……対象を連れて離脱する!
奴を近づかせるな!」
指示に従い部下たちが相手を囲む。
男たちが抵抗を決めたことにすっと目を細め身に纏う威圧感が増す。
敵わずとも男さえ逃がせば良い。
小屋に向かい駆けだす。
中には従者もいる。奴が捕まれば領主もただでは済まない。
背後で聞こえる剣戟の音に焦りを覚えながら扉に手を掛けようとしたとき、中から扉が開いた。
――!
胸に受けた衝撃に一瞬呼吸が止まった。
背中から倒れてせき込み自分が蹴り飛ばされたことに気づく。
見上げると昨夜部下たちを瞬く間に打ち倒し一人で増援がたどり着くまで持ちこたえた男が目に入った。
部下たちの感情を煽り、自分に有利な状況を作り出したその手管は背後の騎士同様やっかいな相手だと訴えて来る。
「あ、まともに食らうとは思わなかった」
「貴、様っ!」
痛みに耐え身を起こすとぞっとするほど冷たい目が見据えた。
弧を書いている口元が余計に恐ろしい。
「魔獣飼育の犯人の隠匿に逃走補助?
呆れるね」
その言葉に全部バレていると理解させられた。
犯人が逃げおおせたのも混乱に乗じたからからなどではなく、最初から泳がせるつもりだったから。
「抵抗してもいいよ?」
逃がす気はないからと笑う男にもう無理だ、と思った。
跳ねるように起き上がり、森に向かって駆け出す。
未だ戦っている部下のことも放り捨て保身だけ考え逃げ出した。
男が小屋から出てきたということは犯人も従者も確保されている。
これ以上残り抵抗する意味はない。
「それは一番の悪手だよ」
背後から聞こえる全く焦りのない声から逃れるように足を早めた。
ひゅっと顔目掛けて飛んできた何かを腕で弾く。ぱしゃっと散った液体が目に入り燃えるように熱くなった。
「……っぐぁああっ!」
激しい痛みと熱さに悶絶する。
視界も何も効かない状態でどうにか足を動かす。
しかしそれで逃げられるほど甘い相手ではなかった。
背中に衝撃を受ける。何が起こったのかと理解する間もなく、縄を掛けられ部下と共に地面に転がされた。
「アミル、すごい痛がってるけど何かけたの?」
「消毒液をベースに後は刺激物を少々。
あ、食品由来なので身体に害が残る物ではありませんよ」
逃げる者がいたら視界を奪うか足止めをするように言われていた。
自分の実力を考えて、より確実な方法を取っただけだ。
そんなアミルに団長から衝撃の言葉がかけられた。
「お前、カイルに染まってないか」
「それは……、だいぶショックです」
「どういう意味かな」
悲壮な顔をするアミルに団長が笑う。
失礼なと軽く笑うカイルもおかしそうだ。
先ほどまでの戦闘の様子など微塵も感じさせない雰囲気だったが、もう逃げようとする者はいなかった。
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