騎士団長に恋する僕は副団長に淫らな身体を弄ばれる【団長ルート 完結】【副団長ルート 完結】【団長&副団長ルート 完結】

紗綺

文字の大きさ
61 / 69
団長&副団長 × アミル

確保

しおりを挟む
 

 森に向かう男たちの目に簡素な小屋が映る。
 先頭にいた男が手を挙げると後ろに続く者たちも馬の足を止め辺りを窺う。格好もバラバラだったが、無言で指示に従う様子は訓練された騎士のものだった。

「隊長、辺りに不審な影はありません」

「そうか、間に合ったようだな」

 同行していた者へ視線を送る。
 簡素な小屋に似つかわしくない小綺麗な格好の同行者は、領主の従者。騎士団の者たちとも面識があり、領主の言葉を伝える立場からか従者は臆することもなく騎士たちへ待機を命じた。

「私が中に入るので、あなた方は外にいてください」

 わかったと了承を返すとなにせ昨日の今日ですからねと嫌味を寄越してくる。
 昨夜勝手に口封じをしようとしたことを言外に咎められて顔を顰める。
 元々は曖昧な指示を出したせいだろうと内心で毒づく。
 中に入って行く従者を見送ったところで部下の一人が不満を口にした。

「なんで俺たちが護衛なんかしなきゃならないんですか?」

 一人が不満を零すと他の者も不満を口にし始めた。

「そうですよ、アイツらのせいで仲間が捕まったんでしょう!」

 さっさと追放すればいいのにと声を荒げる部下へ隊長と呼ばれた男が眉を寄せる。小屋の中の男が魔獣飼育の罪を暴かれ追われていると知っていれば、なぜ匿い護衛をしなければならないのかと不満が湧くのは当然だ。
 昨日の作戦で仲間が捕縛されたこともある。闇夜に紛れて逃がすことは容易いのにと。
 しかし直々に領主から男の護衛を命じられた隊長には従う以外の選択は無かった。
 隊長が宥めるも部下たちの不満は収まらない。
 やがて不満は事件を暴いた騎士団へ向かっていった。

「ったく、余所の土地に来て勝手なことしやがって」

 部下の一人が舌打ちをして応援に駆け付けた騎士団へ悪態を吐く。
 件の騎士団は町を襲った魔獣の対処のために応援に駆け付けたんだろう。
 こちらの騎士団へ連絡もなかったために魔獣飼育の現場を抑えられてしまった。
 気づかれる前ならいくらでも打てる手があったというのに。
 対応が後手後手に回ってしまった。

「領主からのお達しだ、諦めろ」

 そう告げると渋々口を噤む。
 事を荒立てても何も良いことはない。
 従う方が余程旨味がある。
 この任務が終われば他の町の騎士団へ昇進付きで異動させてやると言われれていた。
 男を逃してさえしまえば全て上手くいく。

 そう考える隊長の頭には新しい場所で輝いている自分の姿しかなかった。



 本来、騎士というのは国の名の下に任命され各地の騎士団へ編制されるものであり、その最高権力者は最終的には国王となる。
 各地に拠点を置こうとその地を治める領主に従う義務などはない。もちろん活動に当たって影響が全くない訳ではないが。
 しかし、この場にいる騎士たちは領主の命令を聞く立場にないことを忘れたかのように当たり前に従っていた。





 従者が中々出てこないことに気づいた部下が遅いっすねと呟いた。
 確かに話をしているにしても遅い。
 待ってろと言われたが外から中を窺うくらいはいいだろうと小屋に向かって一歩踏み出す。

「そこで止まれ」

 低く命じる声が辺りに響き、踏み出した格好のまま足が止まる。
 覚えのある覇気に振り返ると昨夜の現場にいた頑健な騎士が立っていた。部下たちを瞬く間に戦闘不能にした能力を思い出し、焦りが生まれる。
 背後に控えた騎士たちも油断なくこちらを窺っていた。

「大人しく投降しろ、無駄な抵抗はするな」

 発する威圧感が男たちを迂闊に動けなくさせる。
 昨夜の戦闘を知らない部下たちも相手が只者でないのがわかるようで動けないようだった。

 冷や汗をかきながら事態の打開を考える。
 ここにいる者では目の前の騎士に勝てないことがわかっている。しかしここで諦めることなんてできるわけがない。

「……対象を連れて離脱する!
 奴を近づかせるな!」

 指示に従い部下たちが相手を囲む。
 男たちが抵抗を決めたことにすっと目を細め身に纏う威圧感が増す。
 敵わずとも男さえ逃がせば良い。
 小屋に向かい駆けだす。
 中には従者もいる。奴が捕まれば領主もただでは済まない。
 背後で聞こえる剣戟の音に焦りを覚えながら扉に手を掛けようとしたとき、中から扉が開いた。

 ――!

 胸に受けた衝撃に一瞬呼吸が止まった。
 背中から倒れてせき込み自分が蹴り飛ばされたことに気づく。
 見上げると昨夜部下たちを瞬く間に打ち倒し一人で増援がたどり着くまで持ちこたえた男が目に入った。
 部下たちの感情を煽り、自分に有利な状況を作り出したその手管は背後の騎士同様やっかいな相手だと訴えて来る。

「あ、まともに食らうとは思わなかった」

「貴、様っ!」

 痛みに耐え身を起こすとぞっとするほど冷たい目が見据えた。
 弧を書いている口元が余計に恐ろしい。

「魔獣飼育の犯人の隠匿に逃走補助?
 呆れるね」

 その言葉に全部バレていると理解させられた。
 犯人が逃げおおせたのも混乱に乗じたからからなどではなく、最初から泳がせるつもりだったから。

「抵抗してもいいよ?」

 逃がす気はないからと笑う男にもう無理だ、と思った。
 跳ねるように起き上がり、森に向かって駆け出す。
 未だ戦っている部下のことも放り捨て保身だけ考え逃げ出した。
 男が小屋から出てきたということは犯人も従者も確保されている。
 これ以上残り抵抗する意味はない。

「それは一番の悪手だよ」

 背後から聞こえる全く焦りのない声から逃れるように足を早めた。

 ひゅっと顔目掛けて飛んできた何かを腕で弾く。ぱしゃっと散った液体が目に入り燃えるように熱くなった。

「……っぐぁああっ!」

 激しい痛みと熱さに悶絶する。
 視界も何も効かない状態でどうにか足を動かす。
 しかしそれで逃げられるほど甘い相手ではなかった。
 背中に衝撃を受ける。何が起こったのかと理解する間もなく、縄を掛けられ部下と共に地面に転がされた。




「アミル、すごい痛がってるけど何かけたの?」

「消毒液をベースに後は刺激物を少々。
 あ、食品由来なので身体に害が残る物ではありませんよ」

 逃げる者がいたら視界を奪うか足止めをするように言われていた。
 自分の実力を考えて、より確実な方法を取っただけだ。
 そんなアミルに団長から衝撃の言葉がかけられた。

「お前、カイルに染まってないか」

「それは……、だいぶショックです」

「どういう意味かな」

 悲壮な顔をするアミルに団長が笑う。
 失礼なと軽く笑うカイルもおかしそうだ。
 先ほどまでの戦闘の様子など微塵も感じさせない雰囲気だったが、もう逃げようとする者はいなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

処理中です...