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団長&副団長 × アミル
潜伏
しおりを挟む森にほど近い小屋で男は震えていた。
たまたまあるのを知っていた小屋へ逃げ込めたのは運が良かったが、命を狙われた恐怖は未だ男の脳裏に残っている。
「ああ、こちらにいましたか」
殆ど知る者のいないはずの小屋に自分以外の声が響いたことで男は警戒心を極限まで高めた。武器になる物を探し狭い小屋の中で視線を彷徨わせる男の目に縄を切った木材の切れ端が目に入る。
木片を握りしめ間合いを測っているとゆったりとした足取りで声の主が姿を現した。
「私です、そう警戒しないでください」
警戒する男を刺激しないように離れた場所で足を止めたのは、ブラッディホークの卵の取り引きで何度も顔を合わせた相手だった。
現れたのが見知った相手だったことでどうにか冷静さを取り戻す。
しかし目の前の相手が領主の従者であることを知っている男としては、安心材料にはならない。
男の命を狙った動きは領主の差し金である可能性が高いと考えていた。
「……何をしに来た」
「申し訳ありません、騎士団の行動は主の本意ではなかったのです。
あなたを保護して連れてくるようにと命じていただけなのに、保護が無理だと思った騎士が勝手に口封じに走りました。
命令を徹底させていなかったこちらのミスです」
申し訳なさそうに謝る相手だが、話を鵜呑みにすることはできない。
しかし男をここで始末するつもりがないというのは本気のようだ。
持ってきた袋から取り出された食料を見てそう考える。
良かったら食べてくださいと指し示されても、動かない男に相手は苦笑した。
そして自ら持ってきた食料の中から酒に手を伸ばし、封を開けて口にした。毒見のつもりだろう。
一口だけ飲んで栓を締め直すと男に向かって差し出した。喉が渇いているのを思い出し受け取った酒を呷る。
ごくごくと飲み下すうちにようやく緊張が緩んできた。警戒はまだ解かないが話を聞く気になったことを察した相手が提案ですがと話を進める。
「しばらくはここに隠れているのはどうでしょう。
ほとぼりが冷めた頃に町を離れる方が目立たず良いのでは?」
男の顔にできた傷を見てそう提案してくる。
今のまま逃げては不審を集めてしまうと言われ、その通りかと思い頷く。
「身を隠すのに必要な物は私が持って来ますからこの小屋で身体を休めてください。
逃走の手配もお任せいただければ不自由ないよう取り計らいます」
男に都合の良過ぎる話に緩んでいた緊張感が蘇る。
「なぜそこまでする、魔獣を飼育しているのが騎士団にバレた今となっては俺の存在は邪魔なだけだろう」
「そう思われるのも当然ですが、あなたにはまだ価値がありますから」
男の価値など知れている。飼っていた魔獣も始末され、卵の在処まで知られ今頃は押収されているだろう。
無一文の犯罪者だ。
そう自嘲する男へ相手は笑みを向ける。
「あなたが持つ魔獣飼育の知識は非情に貴重なものです。
この町の拠点が暴かれたのは残念なことですが、場所を変えればまた望みはあるのでは?」
相手の言わんとすることがわかり男の口に笑みが浮かぶ。
要は逃がしてやるからまた魔獣を飼育し卵を卸せと言っているのだ。
それだけ魔獣の卵を手に入れる手段を失うのを惜しむのなら、失った拠点の代わりに新たな場所を提供してくれるかもしれないと算段を付ける。
「当然だ。 環境さえあればまたいくらでも増やせる」
多少大きく話をする。
また最初の卵を手に入れるのに危険は伴うが、上手くすれば領主から腕の立つ人材を借りられるかもしれない。
男の返答に相手も満足したように笑う。
「ならば主も喜んで協力するでしょう。
そのためにも今はしっかりと休み、体調を整えてください」
「わかった。 そうさせてもらう」
「良ければ護衛も付けたいのですが、安心できないでしょうから……」
男の警戒を慮ってくれる相手にそれならばと護衛も受け入れることにした。
利用価値のあるうちは身の安全は保障するだろうと。
相手も男の身が危険に晒されることのないようしっかり言い聞かせた者を派遣すると請け負った。
これで安心だ。
従者が帰った後の小屋には、すっかり安心しきり食料を貪る男の姿があった。
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